5、メイド姿で御奉仕いたします

「とてもお似合いですよ。こんな可愛らしいメイドなら坊っちゃま達もきっと喜ぶと思います」


 侍女頭であるふくよかな女性はメイド服に着替えたデーアとアンジュを褒めたたえた。


「あの、スカート丈短い気が……」

「胸元もすごく開いてるし、メイドさんってこんな格好するんですか?」


 この国の貴婦人達は基本的に足を見せない。スカート丈も短くてもふらはぎである。デーアとアンジュのスカート丈は膝上丈だった。


「これは我が侯爵家の伝統……所謂いわゆる男性の好みでございます。けして普段のメイドはこの格好ではないのでご安心ください」


 侍女頭のラーヘルはにこりと笑う。


「「えぇ……?」」


 これでいいんですと念押しされたデーアとアンジュは渋々仕事場であるヴァイスハイトとゲニーの部屋に入った。


「失礼します」

「なんなりとお申し付けください」


 デーアとアンジュは恥ずかしくて顔から火がでそうになる。もじもじしてる二人をヴァイスハイトとゲニーが見つめた。


「確かにこれは……」

「父上グッジョブ……」


 息子達は父親に心の中で感謝する。


「掃除は昼間の間にしてもらった後だし、これから風呂入って寝るだけだからな?」


 ヴァイスハイトは何か仕事はないかと頭を巡らした。ゲニーはいいことを閃いたと手のひらをポンと拳で叩く。


「お風呂入るの手伝ってくれる?」

「そうだな、それくらいしか仕事はない」


 ヴァイスハイトが頷き同意した。


「え、ちょっ! ちょっとまって!」

「お風呂くらい自分で入りなさいよ!」


 デーアとアンジュは必死に抗議する。


「まあまあ、仕事はちゃんとしなきゃなぁ?」


 ゲニーがそう言い、二人は抗議も虚しく部屋の隣にある風呂場へ連れていかれた。


「ひっろ!」

「同じ侯爵家でも全然違うわ」


 ヴァイスハイトとゲニーが脱いでる間に、先に浴室へ入ったデーアとアンジュは造りの豪華さを見て呆気にとられる。


「比較したことがないから広いのかどうか分からない」


 腰にタオルを巻いたヴァイスハイトとゲニーが風呂場へ入ってきて、デーアとアンジュの素朴な感想にヴァイスハイトが答えた。


 無駄がなく鍛え上げられた肉体美をもつ美丈夫達の半裸を見てデーアとアンジュは生唾を飲む。


「流石にそんな見つめられると恥ずかしいから」


 照れるゲニーに言われ、デーアとアンジュは目線をそらした。


「デーア、背中流してくれるか?」

「アンジュ、僕のも頼む」


 デーアとアンジュはやるしかないのねと目配せを交わす。顔を赤くしうつむきながらタオルを泡立たせ、好きな人の布の隔たりのない肌に初めて触れた。女性とは違う硬い肌を洗う。好きな人の裸体に欲情してしまう自分をとがめながら、デーアとアンジュは言われた通り洗い上げた。


 立ち上がろうとしたアンジュはまだヌメヌメしていた床に足を取られ派手に前に転んでしまう。


「いた……くない?」


 腹ばいで硬い床に転んだはずなのに痛くない。アンジュのお世辞抜きに大きな胸が何かを潰していた。


「息できないから退けろと言いたいけど……この場合は退けなくていいかも」


 胸の下にあるゲニーの顔に気付き、アンジュは咄嗟に体を起こす。


「エッチ! スケベ! 変態!!」


 顔を真っ赤にしたアンジュはゲニーを罵倒した。


「ラッキースケベを地でやるやつ初めて見た」

「ヴィー、真面目な顔して言うセリフじゃないわ」


 アンジュとゲニーの姿を見て冷静になれたデーアは恥ずかしいを通り越して呆れていた。


 湯に浸からせ、のぼせる前にヴァイスハイトとゲニーを浴室から出す。下着は各自で着てもらった後、甲斐甲斐しく服を着させ、髪を魔法で乾かしてあげた。


「凄くいい……毎日頼む」

「もう金輪際しないわよ!」


 うっとりするゲニーにアンジュが突っ込む。


「デーア、ダメか?」


 上目遣いでお願いするヴァイスハイトにしょうがないなとデーアは了承した。


「次私達が入るから絶対覗かないでね」

「覗いたら魔法使えるようになったとき、即火だるまにするから」


 デーアとアンジュがヴァイスハイトとゲニーを脅すが、可愛く威嚇してる小動物に見えるだけだった。

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