第13話 お兄ちゃんと慶太くん


「夏菜子。こっちに来なさい。」


 お母さんに呼ばれてしまった。

 多分ろくな話じゃないだろう。


 それでまた喧嘩になるんだ。


 そう考えただけで鬱になりそう。

 でも行かないわけにはいかない。

 行くだけ行って聞いてなければいいのだから。


 そう思って私は渋々階段を降りる。


 でも私は少し不思議に思った。

 怒る顔をしてないように感じたのだ。


 少し疑問に思いながら親の前に座る。


「なに?」

「土曜日何してたの?」


 やっぱり説教だ。

 私の期待は崩れた。


「そこら辺をブラブラ歩いていたらだけだよ。」


 誤魔化せるわけがないのに初めは嘘をついてしまう。

 毎回これで騙されてどっか行ってくれないかと思っているがまあそうもいかない。


「本当は?」


 やっぱり見透かされていた。

 これ以上刺激しないために今度は本当のことを話すしかなくなる。


「路上ライブをしてました。」

「ふーん。誰と?」


 誰と…。誰と?

 お母さんさんは土曜日の路上ライブにいたのだろうか。

 そんなはずはない。見当たらなかったのだから。


 だとしたら何で。

 私は1人で路上ライブをしていると思っているはずなのに何でなの?


 1人で混乱しているとまたお母さんが口を開いた。


「何で知ってるのか不思議に思っているの?」

「うん。」

「実はお兄ちゃんから情報が入ってね。」


 何してくれてるのよ。

 ずっと私の味方だったのに。

 

 やばい怒鳴られる。

 そう思って覚悟を決めた時だった。


「あなたは路上ライブを続けなさい。」

「え?」

「あの子なら信用できるわ。」

「え?」

「詳しくはお兄ちゃんから聞きなさい。私から言うことはこれだけよ。」


 お兄ちゃん?

 何でお兄ちゃんが…。

 お兄ちゃんは優しいけど路上ライブに見に来たことってあったっけ。


 確かに一緒にやってくれる人がいるのって言った気もするけど。


 モヤモヤしながらお兄ちゃんの部屋に向かう。


「お兄ちゃん。」

「どうした?」

「何で私の事なんかお母さんになんか言ったの?」


 頭が混乱して変な日本語になったけれどお兄ちゃんならわかってくれると信じてる。


「路上ライブのことか。」


 私は小さく頷く。


「慶太ならお前とやっていけると思ってな。」

「え?何で慶太くんの名前を。」

「あいつの高校は聞いたか?」

「ううん。」


 そういえば彼とはプライベートな話はあまりしない。

 会って話すのは大体音楽のこと。


「あいつ俺の後輩なんだよ。」

「そうなんだ。」

「俺が3年で部長やってる時に入ってきてさ。1番才能があるのにすごい腰が低かったんだよ。先輩ほどではないですよって。」


 彼は昔から変わらないらしい。

 なんであんなに下から出れるのか不思議で仕方ない。

 あんなにギターができるなら私なら絶対に見下しちゃうだろうし。


「本当にうまい奴ってこう言う奴なんだなって思い知らされたよ。」

「でも何で慶太くんと路上ライブしてるってわかったの?」

「お前が一緒に路上ライブする相手がいるって言ってただろ。」

「うん。」

「多分路上ライブした日の夜なんだろうな。お前のスマホの通知を見た時に見覚えのあるアイコンと名前があるなって思ってさ。」

「それで連絡したの?」

「ああ。夏菜子をよろしくってな。」

「お母さんにはなんで?」

「お前が路上ライブ頑張ってるのに、お母さんからは認められてなかっただろう。なんか兄として何とかしてやりたいって思っただけさ。」

「ありがとう。」

「お礼は俺じゃなくて慶太にしなさい。」


 私はお兄ちゃんの部屋を出て自分の部屋に帰った。


 私はいいお兄ちゃんを持った。

 私は慶太くんに出会った。


 人生で最大の運気が私に向いているかもしれない。


 私は慶太くんに『ありがとう』とだけ入れた。

 彼からなんて返信が来たかはわからない。


 色々ありすぎてもう寝ちゃったから。

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