第46話
ブレイズと荷馬車を挟んで反対側ではライが戦っていた。ライは炎の剣を出現させて次々と盗賊達を切り伏せていた。
「ぎゃああ!」
「銃を使え!」
時折銃弾が飛んでくるものの、それすらも炎で燃やし尽くしている。ライとブレイズが守る荷馬車に近づいてくる盗賊はいなくなった。
ブレイズが先頭の荷馬車に目を向けると、グレイとマシューが戦っていた。グレイは剣を振り、マシューはそれをフォローするように銃で敵を打ち倒していく。
「後ろのガキを狙え!」
「させるかよ!」
マシューを襲おうとする盗賊はことごとくグレイに切り倒されていた。
後ろの荷馬車の方ではカイルとイアンが前衛でそれぞれ剣を振り、テレサが魔術で支援をしていた。
「弱体化の魔術行くわよ!」
「助かる、テレサ!」
「くそっ!あの女、厄介だぞ!」
「もらった!」
後ろから忍び寄っていた盗賊がテレサに襲い掛かって来た。テレサは焦った様子を見せる。
「しまった!…なーんてね。」
そう言うと、テレサは風の魔術を発動させた。鋭い風が襲い掛かって来た盗賊を捕らえ、ずたずたに引き裂く。
「ぎゃああああ!」
血まみれになった盗賊がばたりと倒れ込んだ。
「私を襲うつもりなら覚悟なさい!」
全員が怪我することなく盗賊達を倒し切ろうとした時だった。不意にブレイズとライの前にそれぞれフードを被った人間が現れ、襲い掛かって来た。ライはその人物と切り結んだ瞬間、正体に気づいて叫んだ。
「ブレイズ、執行官だ!」
「何だって!?」
ブレイズも慌てて目の前のフードを被った執行官に向けて発砲する。銃弾は簡単に避けられ、すぐ目前に執行官が迫って来た。
「くそっ!」
腰のナイフを取り出し、執行官の短剣と打ち合う。執行官の後ろから戻って来たフォン、レスタ、トアが樹を操って執行官の邪魔をしようとしたが、炎で燃やし尽くされてしまった。
「炎属性かよ!」
「苦手だろう?」
ニヤリと執行官は笑ったが、ブレイズは急いで水の魔術を展開しナイフに宿した。
「これならどうだ!」
「…相性だけで勝負が決まると思うなよ!」
「魔力量で俺に勝てると思うなよ!」
そう言って、ブレイズは大きな水球を出現させると執行官目掛けて投げつけた。
「がばごぼっ!」
まともに喰らってしまった執行官は水球から出ようともがくが、水球が大きすぎるあまり出ることが出来ない。しばらく藻掻いた後、息が続かなくなって気絶してしまった。
「…この手でライとの模擬戦闘も行けたら楽なのに。」
〈ライには闇の魔術もあるから無理だもんね。〉
フォンから静かな突っ込みを受けた。執行官を一人倒して安堵した時だった。
「ブレイズ!荷馬車だ!」
「きゃああああ!」
ライの呼びかけと叫び声が聞こえたのは同時だった。ブレイズが驚いて振り返ると、荷馬車に隠れていたはずのジャネットがまた別の執行官に捕らえられていた。執行官はジャネットを俵担ぎにすると、森の中へと逃げていく。ブレイズは慌ててその後を追った。
「待て!」
「ブレイズ!行くな!」
ライが引き留めようとしたが、執行官の後を追うのに必死なブレイズには届かなかった。
「ちっ!リア、後をつけてくれ!」
〈わかったわ!〉
リアは姿を蜥蜴から梟に変えると、ブレイズ達の後を追って飛んで行った。それを見て、ライと戦っていた執行官がニヤリと笑う。
「良いのかい?行かせても。」
「止めたところで今のあいつは聞かないだろうからな。」
「後悔することになるかもしれないよ?」
「……何?」
ライは青い瞳で執行官を睨みつけた。
「ブレイズ・イストラルとはこれでお別れになるかもねって話さ。」
「なるほど、やはりブレイズに対する罠か。」
ライは剣を構え直した。
「なら、さっさと終わらせて後を追うことにしようか。」
「出来るものならどうぞ。」
執行官も水の魔術を展開した。
両者共に睨み合う。次の瞬間、二人同時に動き出していた。
「はああああっ!」
「うおおおおっ!」
炎と水とがぶつかり合い、辺りは霧で真っ白になった。執行官はライから距離を取って隠れた。
「…今のうちに逃げるか。」
ぼそりと執行官が呟いて逃げようとした時だった。
「逃がすか。」
蒸気をかき分けてライが襲い掛かって来た。
「何!?」
執行官が驚いている隙に、炎の剣がその胴を切り裂いた。
「ぎゃああああああ!」
あっという間に火だるまになり、執行官はのたうち回った。その内に、霧が晴れていく。盗賊達を倒し終わったグレイやテレサ達が集まって来た。
「ちょっと、これ何やったらこんなことになるの?」
テレサが呆れた様子でライとブレイズが倒した執行官や盗賊を見て言った。
「うわ、酷い惨状だな。」
グレイもびっくりした様子で目を丸くした。ライはその場にいた全員に告げた。
「それより、問題発生だ。ジャネット嬢が連れ去られた。」
「え!?」
「はあ!?何で!?」
「ブレイズが後を追っているが、心配だからオレも後を追う。グレイ達は荷馬車の護衛を頼めるか?」
「頼めるか、じゃないだろう。依頼主の娘が連れ去られたんだから、俺達からも誰か出さないと…。」
「相手はロマニアの執行官だ。」
ライが言った瞬間、グレイは苦い顔になった。
「……何でそんなのがお嬢さんを攫うんだよ?」
「執行官はブレイズを狙っている。おびき出すために攫ったんだろう。」
「そんなのお嬢さんは巻き添え喰らっただけじゃねえか!」
「だからオレが助けに行く。荷馬車の方に他の執行官が再び来ないとも限らないから、グレイ達のパーティーはできるだけバラしたくない。」
「………わかった。」
「すまない。」
ライはそう言うと、ブレイズを追って森の中へと入って行った。
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