第24話
その頃、ライは路地裏で情報屋の男から結果を聞いていた。
「わかった。約束通り、報酬は払おう。」
差し出された封筒から札束を引き出すと、情報屋の男は紙幣を数えながら言った。
「しかしまあ、何でまたドラル=ゴアの情報を?」
「お前には関係のない話だ。」
「そうは言われてもねえ、あんたのその名前じゃ、色々考えちゃうってもんでしょ。」
封筒を懐にしまい込むと、男はにやにやとした表情で言った。
「あの『炎獄の死神』の生まれ変わりって言われてる人が、先代『死神』が賞金首になった国について嗅ぎまわるなんて…。そりゃこっちも邪推したくなるってもんだよ。」
「勝手に想像してせいぜい楽しんでいろ。」
ライは不機嫌な顔で告げると、男に背を向けて歩き出した。比較的広い通りに出て、仲介所へと足を運ぶ。
《目新しい情報はあまり得られなかったな。》
『元々あの国からは離れているから仕方ないさ。』
念話で話しかけてきたロベスに、ライは淡々と返した。
『有力な情報は別ルートでもらえるようになったから、以前よりはマシだ。』
《『組織』か…。そろそろ『組織』のトップに接触するつもりか?》
『ああ。今はハインツ国の南の街にいると聞いた。ここからなら比較的近いから、挨拶がてら会うつもりだ。』
《信用して大丈夫なのか?有力な情報が出てくるということは、あの国にパイプを持っているということだぞ。あいつとつながっていてもおかしくない。》
『だからこそ会いに行く必要がある。わかっているだろう、ロベス。』
ライの言葉に、ロベスは溜息をついた。
《ただの賞金稼ぎとして生きれば良いものを―――。》
「あれ、ライ?」
ロベスとの念話を止めて声がした方向に目を向けると、テオが手を挙げて近づいて来た。
「テオ。もう情報が集まったのか?」
「いやいや、まだだけど…。」
テオは否定すると、辺りをきょろきょろと見回した。
「なあ、連れのブレイズ君は?」
「あいつなら今買い出しに行っているが…。ブレイズがどうした。」
「ん…。俺、さっきまで広場にいたんだけど、ブレイズ君らしき少年が馬車に乗せられてるのを見てさ。ちょっときな臭い商人だったから、もしかして何か依頼任務で接触してたのかなって思って、声かけなかったんだけど…。」
テオの言葉にライは目を見開いた。
「おい、きな臭い商人って、まさか裏稼業か?」
「ああ。レイウッド商会っていう表向きは大きな商会、実態は奴隷商人ってやつ。」
「その商会、どこにある!?」
小声ながらも詰問する口調になったライに、テオは目を丸くした。
「事務所なら広場の入り口すぐにある。でも、馬車に乗ってたから別の場所に行ったと思うぞ。」
そう言うとテオは口を噤んだ。ライはちっと舌打ちして吐き捨てるように言った。
「情報料ならくれてやるから、レイウッド商会に関する情報全部出せ。」
「まいど~。」
テオはにへら、と笑った後、すぐに顔を引き締めて話し始めた。
「レイウッド商会の表の事務所は一か所だけだが、社長の屋敷や関係する建物は十か所以上ある。そのうち馬車で移動する必要があるのは南地区にある社長の屋敷と商談相手をもてなすための豪邸、北地区にある商会所有の古いアパートだ。」
「奴隷を捕らえているのはどこだ?」
ライの問に、テオはきょとんとした表情になった。
「奴隷を置いとくなら社長の屋敷か豪邸かだろうけど…。ブレイズ君は奴隷にされるような要素があるの?ぱっと見普通の少年だけど…。」
「奴隷商人に連れていかれたと聞けば、誰でもその可能性を考えるだろう。若い男なら働き手としての需要はある。ブレイズの外見は目を引くから愛玩用の可能性も考えられるな。」
探るようなテオの質問にライはふんと鼻を鳴らした。
「ま、たしかにね。ちなみに、ここ最近貴族や富豪の間で流れてる噂があるんだけど…。」
「?どんな噂だ?」
「『金髪赤眼の人間の血肉を食べると不老不死になれる』ってさ。」
テオが潜めて言った内容に、ライは思い切り顔をしかめた。
「……なるほど。それで狙われたか。というか、その噂知っていてオレにさっき質問したな?」
「ごめんごめん。こんな突拍子もない噂を真に受けている奴なんていだろうから、実はブレイズ君個人に他に誘拐されるような理由があるのかな~って思っただけだから。」
「そんな訳あるか。」
あながち外れてはいない推測だったが、ライはにべもなく否定した。
「噂が嘘だろうと金持ちの年寄り共はその手の話にすぐ食いつくだろう。それを奴隷商人が聞き及んで、ブレイズに目を付けたってところか…。」
《ロマニアの執行官が流したのか?》
『可能性は考えられるが、あくまで推測の範囲内だ。もしそうだとしたら、執行官がブレイズ確保に動くだろうから、用心はしておくべきだな。』
念話で話しかけてきたロベスに、ライは考えるふりをしながら答えた。
「奴隷の取引はいつになりそうか分かるか?」
「個別取引で売り買いするのは適宜やってるからわからないけど、オークションが十日後にあるって。」
「オークションの目玉商品として出すにはうってつけだな…。」
思わず深い溜息が出るのをライは止められなかった。
「個別で売られる可能性もゼロじゃないけど、商人としては客寄せ目的でオークションに回したいだろうからね~。となると、多分十日間の猶予はあるわけだけど、どうする?取り急ぎブレイズ君の無事確認か、それともオークションの情報収集か、どっちやろうか?」
「ならテオには…」
ライが指示を出そうとした瞬間、腰に下げた剣がかちゃりと音を立てた。
《ライ!魔力反応だ!》
「!」
ばっと周りを見回して警戒する。その瞬間、黄緑色の可愛らしい小鳥が空から舞い降りてきた。
〈ライ~!ブレイズを助けて~!〉
「しゃ、喋った!?」
目の前の光景に、テオは目を白黒させたが、ライはトアを腕に止まらせると尋ねた。
「トアか?」
〈そうだよ~!色々あって奴隷商人に捕まっちゃったの~!〉
「そうらしいな。さっきテオから聞いた。とりあえず、何があったのか順を追って説明できるか?」
〈は~い。〉
トアはおっとりした口調ながら、広場であったことから屋敷で捕まり牢に捕らえられたところまで説明した。説明の途中からライは額に手を当てていたが、トアの説明が終わった途端、低い声で呻いた。
「あの馬鹿…!」
〈ホントにごめんなさい~!〉
ライからにじみ出る怒りの気配に、トアが涙目であわあわと謝った。怯えている様子に、ライはぐっと怒りを抑えた。
「トア達に怒っている訳じゃない。まんまと罠にかかったブレイズに怒っているだけだ。」
そう告げて息を吐くと、ライは改めてトアに向き合った。
「ブレイズが捕まっているところまで案内してもらえるか?」
〈もちろんだよ~。〉
トアは腕からぴょんぴょんと飛び跳ねてライの肩に乗った。ライはトアが移動したのを確認し、テオに向き合った。
「テオ、オークションの開催日時や護衛の配置、顧客について情報を集めてくれ。」
「あ、ああ。てか、その小鳥って…?」
喋る小鳥に呆気に取られていたテオがおずおずと尋ねた。ライは一瞬逡巡したが、正直に答えることにした。
「以前、オレが魔術師だってことは伝えただろう。ブレイズも魔術師の素養があって、オレの弟子になった。この小鳥はブレイズの使い魔だ。」
「使い魔って、お前が連れていた黒犬みたいなやつか?」
「ああ。詳しく聞きたいならこの件が解決してから教えてやる。至急、さっきの情報を頼む。連絡はいつもどおり仲介所で。」
「わかった。任せとけ。」
力強く頷くと、テオは駆け出して行った。それを見送り、ライは改めてトアに声をかけた。
「さあ、案内してくれ。」
〈りょうか~い!〉
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