第10話 むくろの都市:ブレウラーケ①
「ありがとうございます、早速紹介しますね。僕はジーン。中級魔術師で、シルバーランクです」
ジーンがそう言うと、壁際のベンチからこちらを窺っていた2名がやってきた。
「こんにちは、お姫様方。戦士のゾンバだよ。シルバークラスの戦士をやってる」
「………どうも。俺は狩人のアミル、シルバークラスだ」
「ご丁寧にありがとうございます。実力は試験で見て下さったと思いますけど、他にも色々できます。イザリヤは狩人で最上級魔術師、すべての回復魔法も使えます。私レイズエルは見ての通り魔術師です、最上級です。回復魔法に神聖魔法も最上級が使えます。ただ、イザリヤは戦士として超一流ですが、私の剣の腕は期待しないで下さい、へっぽこですから」
そう言ってよろしくお願いします、と礼をする2人。
「(なあジーン。声かけて良かったのか、こんなすごそうな女の子たちに)」
「(強いなら問題ないでしょ、弱い方が困る。それに依頼人の指名だ)」
「(………うむ)」
ひそひそ話のつもりのようだが、実は五感の冴えが常人場慣れしている2人にはしっかり聞こえている。手の内を語りすぎたかな、と反省するレイズエル。
「そうだ、君たちパーティ名は?」
「パーティ名、とは何だ?」
ゾンバの問いに、怪訝そうにイザリヤが応じる。
「知らないのかい?そのパーティを区別するための名前を付けるんだけど」
「要はわたしとレイズエルのチーム名か」
「いつ付けてもいいんですか?」
「いいけど………ふつう有名になるのはパーティに戦歴がつくようになってからだから、早い方がいいよ。あとインパクトのある名前の方がいい」
「今回の依頼の間に考える………でいいか、レイズエル?」
「いいんじゃない?何かきっかけがあると思いつくかもしれないし」
「君たちがそれでいいならそれでいいけど」
「はい、教えてくれてありがとうございました」
「感謝する」
「あのー、パーティ名はそれでいいとして。出発は明日の朝なんですが、待ち合わせはどこにします?」
ジーンが遠慮がちに声をかける。
「街の門を出たところでいいんじゃないか」
「分かりました。フェリリケ方面の門でお願いします。朝の鐘が三回鳴ったら待ち合わせ時間ですから」
「鐘?どういう基準で鳴るの?」
「知らないんですか」
「田舎育ちなものでな」
「ええと……朝に3回、昼に3回、夕に3回、夜に3回鳴る教会の鐘です。時間帯によって音色が変わります。真夜中には鳴りません」
「「へぇーそれは便利ですね(だ)」」
この世界、時計がないので2人は不便に思っていたのだ。
「大きな都市なら大抵ありますよ」
「いいことを教えて貰った。活用しようと思う」
「ありがとうございました」
「いや、そんな大したことじゃありません。他に疑問があったらいつでもどうぞ」
「なら一つ。このクレイモアより大きな剣を作っている所を知らないか?」
「えっ、それ、クレイモアでも最大サイズのやつですよね?」
「そうだが、もっと大きい方が私にとっては扱いやすいんだ」
すると、アミルさんが、珍しく口を開く。
「行きつけの武器屋が、店内に飾ってある剣がそれより大きいぞ」
「本当か!場所を教えてくれ!」
アミルが羊皮紙の切れ端に簡単に描いた地図を元に、2人はその武器屋に向かうからと、ジーン、ゾンバ、アミルと別れた
多少迷いながらも、2人は武器屋に辿り着いた。
店内に入ると、もちろん大量の武具があるのだが、壁にかけてある、何と言おうか形容するなら「超剣」とでもいうべきものが目に飛び込んで来る。
イザリヤが作業中の親父に声をかける。
「親父、壁にかかっている大きな剣が欲しいんだが」
「んだぁ?お嬢ちゃん、剣持った事あるのけ?」
「背中に背負っているだろう」
「あの剣はお嬢ちゃんの身長より大きいぜ」
「今のもそうだ。斜めにかけているからつっかえないだけで」
「どうやって持ち歩くつもりだけ?その前に持てるのか?」
「実演してみせよう」
イザリヤは剣を壁から楽々と外すと、そのまま頭上でぶんぶんと振り回し始めた。
親父はポカンと口を開けている。
「扱いやすいな、いくらだ?」
「あ、ああ決めてなかったな。よもや誰か扱えるやつが出るとは………よしっ、そいつはタダでやる。その代わり、「収納の魔鞘」はいらないか?どんなサイズの剣も入る、ロングソードサイズの魔道具だ」
「それはいくらだ?」
「金貨100枚だ」
「買った。いいだろう?レイズエル」
「イザリヤがいいなら、異存はないよ」
そのあとクレイモアと交換でショートソードを手に入れたイザリヤはご機嫌だ。
ショートソードは建物や洞窟の中で使うらしい。
「さあ、これからどうする?」
「冒険者ギルドの宿に泊まる、でいいんじゃないの?」
「まあ、いいか。ランクアップ試験を見てれば絡んで来るのもいないだろう」
ところが絡まれた。昼間の試験を見ていないらしい。
「お姫様達よう~寂しい夜の時間を慰めてくれや」
そのままレイズエルに手を伸ばしてきたのを、レイズエルが手刀で叩き落とす。
運動神経は良くないが、それはあくまでも高能力者相手の事だ。
「何だよぅ~つれねえなあ」
今度はイザリヤに抱き着こうとする。この男、相当酔っぱらっているようだ。
イザリヤは、問答無用で男の顔面にグーパンチをかました。
仰向けに倒れる男。
「酔いを醒まさせてあげる」
そう言ってレイズエルが、氷魔法の応用で男の首から下を凍らせる。
調整を加えてあるので男本人が凍り付く事はない、隙間はある。
氷が解けるまでめちゃくちゃ寒いだろうけども。
「寒いよぉー!」
男が騒ぐが、2の舞になりたくないので誰も助けてやろうとはしない。
そもそもミスリルプレートを下げている段階で、大抵は引く。
酔漢は酔っていたので気付けなかったのだろう。
2人は受付に辿り着き、宿をとる事ができた。
冒険者ギルドは、堅固な石造りの建物だ。宿の部分も無論そうだった。
窓は木戸。ガラスとかは期待してなかったのでがっかりはしない。
それぞれベッドに腰を下ろす。
「なあ、レイズエル」
「何?イザリヤ」
「噛んでいいか?」
「「血の衝動」の限界が来たの?」
2人の属するヴァンパイア種族は、定期的に人(型の種)の首筋に噛みつかないと暴走する。レイズエルはヴァンパイア形態に戻れるだけで、今は
ヴァンパイアではないので必要ないが、イザリヤは1年に1回ぐらい衝動が来る。
普段の『定命回帰』の人間の姿は『教え』で保っているだけなのだから。
孤児院にいた時から、その衝動はレイズエルを噛むことで解消してきた。
「いいよ、おいで?」
許可を貰ったイザリヤは、『定命回帰』を解く。
「いただきます」
ベッドにレイズエルを押し倒して噛みつく。
その瞬間、噛んだ者と嚙まれた者双方にめくるめくエクスタシーが起こる。
特に噛まれた者は快楽の余り動けなくなる。
これは、獲物の抵抗を封じるために牙に備わった力なのだ。
イザリヤは、動けなくなったレイズエルにそっと布団をかけると、自分のベッドに戻り、吸血の快楽の余韻に浸るのだった。
からーん、からーん、からーん。
「レイズエル起きろ!一回目の鐘の音だ!」
昨日は寝ていないイザリヤは、鐘の音に気が付いた。
あのまま睡眠に移行していたレイズエルは、起きなかったので叩き起こされた。
「うぅん………鐘ってどれぐらいの感覚で鳴るんだろう」
「さあ………正午までには3回目が鳴るんだろうな」
「じゃあ、ギルドの酒場でごはん食べよう?」
「………まあ、それぐらいの時間はあるかな?」
ギルドの酒場で朝ご飯を食べ、部屋に戻ったところで2回目の鐘が鳴った。
「荷物をまとめて行こうか」
「そうだな、早い方がいい」
荷物をまとめてといっても、亜空間収納に放り込むだけなのだが。
手早く終わらせて、2人はチェックアウトした。
ちなみに昨日の酔漢は、氷が解けたらしく退散していた。
門の脇の馬車預り所で、料金を払って荷馬車を受け取る。
今回の行き先は他の門からなので、町の中を進んで門に辿り着く。
門を通過したと同時に朝の3回目の鐘が鳴り、2人はそれと同時に依頼人とジーンのパーティと合流した。
「おはよう、昨日は言い忘れたけど、僕たちのパーティ名は「ナイスガイ」だから」
「あはは、お似合いだね」
それで、と荷馬車に乗る女性二人を見る。
「その節は、お世話になりまして………」
丁寧にお辞儀してくるエテナさんとアーケさん。
「お気になさらず。今回は、薬草を取りに行くとかで?」
「はい、行きは薬草を採取しながらなので20日、帰りは10日で予定しています」
「はい、わかりました」
行く途中、みんなお喋りをして親睦を深めた。
薬草取りの最中、ゾンバが毒草ばっかり採取して来て、アーケが慌てたり。
レイズエルが超レアな薬草を採って来て拝まれたり。
奥に入りすぎたジーンが、お尻を狼に齧られたり(倒したよ?)
ゴブリンの群れ相手に全員でタコ殴ったりした。
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