アマンダの願い
蛾次郎
第1話 アマンダの願い
夜の闇が深まり、病院の扉にはゆっくりとしたノックの音が響いた。不気味な微笑みを浮かべた男、カサテベスと名乗る者が佇んでいた。「君がアマンダか?」アマンダは彼の独特な存在感に嬉しさを隠せなかった。
カサテベスの眼には冷徹な光が宿り、影が部屋を舞台に怪しげな演出を始めた。「手術が怖い?僕は君に勇気を与えるつもりだ。もし私が今度の試合でゴールを決めたら、手術を受けてくれるかい?」
首を横に振るアマンダの心には暗い影が忍び寄り、その提案は冷たい風と共に部屋を駆け巡った。
どうやらアマンダが叶えたい願いがあるようだ。
カサテベスはアマンダからの提案を聞くと不穏な表情に変わる。
「君の提案は、延長戦で決着が付かなかった場合、ペナルティキックで大きく外してくれと?。アマンダ、申し訳ないが、それは私1人で可能なものじゃない」
困った表情を察したアマンダが他の提案を持ち掛けた。
それはオウンゴールでハットトリックを披露して欲しいという提案だ。
カサテベスは、それでは手術を受けてもらうためにやって来た自分の命も危うくなってしまうと提案を拒否した。
それじゃとアマンダが別の代替案を出した。
それは次の試合でホームランを打てというものだった。
カサテベスは、それならば交流のある野球選手を引き合わせようかと聞くと、アマンダはそういう意味ではないと返した。
アマンダの言う「ホームラン」とは観客席に特大のシュートを決めてくれということだった。
カサテベスは、自分をからかっているのか?と聞く。
思えば会った瞬間からアマンダの顔はニヤけていたし、アマンダが着ていたユニフォームはカサテベスが現在居るチームではなく、数年前に不祥事で退団した時のチームの物である事も気になっていた。
極め付けは、試合の2時間前に願いを叶えてくれと呼び出した事であった。
ベーブ・ルースですら数日は挟んでいたはずだ。
しかし、アマンダはカサテベスの熱狂的なファンであり、からかっているわけではないと声を荒げた。
カサテベスがその証拠や熱意を見せてくれと言うと、アマンダはベッド横に置いたタブレットを手に取りカサテベスに見せた。
そこに映し出された動画がカサテベスの瞳に映ると、彼は薄らとした険しい笑みを浮かべた。
「君だったのか…私のシュートミスを集めた動画をネットに上げていたのは…」
「カサテベスのベストシュートミス集」とタイトルされたその動画は数千万回の再生数を稼ぎ、カサテベス自身がやっている公式アカウントの動画全ての再生数を遥かに凌いでいた。
やはりからかっている…
もうすぐチームミーティングの時間だ。
カサテベスは憤りを隠しながら、アマンダに約束の言葉を送る。
「出来るだけ努力する。試合、見守ってくれ」
カサテベスがそう言うと、アマンダの心は不安と期待の狭間を描いた。
試合終了後、カサテベスは息を荒げながらアマンダの病室へと入って行く。
「アマンダ、試合見てくれたかい?全シュートを外し、オウンゴールでハットトリック、PK失敗全て叶えたぜ!これで手術を…」
話の途中でアマンダは言った。
「もう手術受けたよ」
カサテベスは戸惑いながらもアマンダのわずかな異変に気付いた。
2時間前より、アマンダの目がパッチリとしていたのだ。
「アマンダ?手術ってまさか美容整…」
カサテベスは途中で口をつぐみ、話を切り替えた。
「まあ試合に圧勝したから何でもいいや」
(おわり)
アマンダの願い 蛾次郎 @daisuke-m
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