第3話 人を撃っちゃった!



「今日は中華を食べるぞい!」

 

 お昼休み、俺は外へと繰り出していた。


 警察署の社食ばっかじゃ飽きるからな~。たまには外でこってりしたものを食べたいものだ。

 そうして道をテクテクしていると、学生たちがこちらを指差してきた。


「あの白づくめの恰好……もしかして白木刑事じゃッ!?」

「うわぁーっ、本物の白木さんだー!」

「東京最強の執行者ッ! この前も凶悪殺人犯を半殺しにしてやったっていう白木様だー!」


 ワーワー騒ぐ学生たち。

 彼らは俺みたいなやつのことを、なぜかスーパーヒーローみたいな目で見ていた。


 っていやいやいやいや、マジでやめてくれ……俺なんてちょっと運転がヘタなだけのウッカリさんだから。

 というかたとえ故意でも犯罪者を傷付けちゃうようなやつを尊敬しちゃダメだって。

 もっと真面目な人を尊敬しなさい、俺の癒しである高田課長みたいな。


「ぬぉぉ……注目されるのは未だに慣れん……!」

 

 俺は路地裏を抜けていくことにする。

 室外機の風がブァーって当たるのがちょっと嫌だが、尊敬の目で見られながら歩くことなんてとてもできん。


「はぁ。世間じゃいつも無表情でクールとか言われてるらしいけど、それ緊張で固まってるだけだから勘違いしないでくれよ……本当の俺は小心者なんだって」


 溜め息を吐きながら薄暗い道を歩いていく。


 なんか世間では『正義の執行者』とか呼ばれているが、そもそも俺なんて警察になった理由さえくだらないからな?

 西部映画にドハマりして、“俺も銃をバンバン撃ちた~い!”なんて思ったのがきっかけだし。


「それで頑張って勉強して警察になったわけだけど、銃を撃っていい機会なんてあんまりないんだよな~」


 懐から黒い拳銃を取り出す。

 まぁ出来ることなら使わないに越したことはないんだが、それでもやっぱ男の子ならバンバンしたいだろ。

 俺は昔に見た西部劇の主人公を思い出し、指をトリガーあたりにかけてクルクル回してみた。


「よっ、ほっ、たしかこんなことやってたっけなー! あははっ」


 そうして拳銃で遊んでいた時だ。俺はふと、銃の安全装置が外れていることに気付いた!


「ってうわぁっ!?」


 なんてものを回してたんだ俺は!

 それに焦って急いで片手でグリップを握った瞬間、トリガー部分にかけていた指がグイッと食い込み、


 ――バンッ!



「あっ」



 ……前を向いていた銃身から弾丸が飛び出した。

 それは一瞬にして路地裏を抜け、表の道を走っていたオッサンに直撃。

 見事に脇腹に突き刺さり、彼は絶叫を上げながらぶっ倒れてしまうのだった。


「あっ……ああああああああああああーーーーーーーッ!? また人を撃っちゃったーーーー!?」


 前に銃を誤射したときは相手が犯罪者だからよかったが、そんな奇跡が続くわけがない。


 ああああああ……終わったわ。俺の警察人生、ついに終了だわ。

 ウッカリ銃をぶっ放して民間人を撃っちゃいましたとか、それ刑務所送りでもおかしくないくらいの不祥事だわ。

 ハハッ、オワタ。


「はは、は……この路地裏を出た瞬間、俺は犯罪者の仲間入りか」


 だけどここでジッとしていてもしょうがない。

 どうせすぐに同僚の警官たちが捕まえに来るし、何より被害者の手当てをしなくては。


 そうして俺が勇気を出し、路地裏を抜けた瞬間――、



「――うおおおおおおおおおおおーーーーーーッ! 白木刑事がやってくれたぞーーーーーッ!」



 ……なぜか表通りは、大歓声に包まれた!


 ってえっ、どういうことだってばよ!?

 俺は内心焦りながら周囲の状況を確認してみる。


 すると痙攣しながら倒れているオッサンはナイフを握っており、側には腰を抜かせて震えている女性が。

 彼女は俺の姿を見た瞬間、駆け出すように抱きついてきた!


「あっ、ありがとうございますッ! いきなりこの男が叫びながら走ってきて、もう少しで刺されるところでしたッ!」


 って、えーーーーーーーーそういうこと!?

 つまり俺はジャストタイミングで通り魔のオッサンを撃ち抜いちゃったってわけ!?


 こっちはまったく知らなかったんだが、でもそんなことを言えるわけがない。

 偶然ぶっぱなしちゃったんです~とか言ってみろ、ヘタすりゃ俺が捕まるぞ?


 ……というわけで今回も黙っておくに限るな!

 俺は純白のコート(※中古)を脱いでフワリと女性に羽織らせ、彼女の肩を優しく叩いた。


「――執行完了。もう大丈夫だ、安心してくれ。この俺が側にいる限り、誰にもキミを傷付けさせない」


「っ、うわぁあああああーーーーーーーーんッ!」


 俺の言葉に彼女は大粒の涙を流す。

 そしてそんな光景を見ていた通行人たちも涙ぐみながら、「白木刑事……やっぱアンタは東京の守護者だ!」「オレ、過激なアンタには反対派だったけど、考えが変わったよ!」と拍手を送ってくれたのだった。


 って、だから尊敬するのはやめてくれッ!

 俺、本当は偶然で撃っちゃっただけだからねーーーーーッ!?

 



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・「俺なんてちょっと運転がヘタなだけのウッカリさんだから」


 ↑ちょっとじゃないと思います。


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