第23話
「なるほど……! 脳器官『黒芒星』を食べた結果、妖魔の意識と繋がることが出来たのかっ!」
興味深いッ! とうるさく叫ぶ清明さん。元気そうで何よりだ。
――エリザベート討伐より一日。俺は妖魔伏滅機関『八咫烏』に帰還していた。
そこで同じく帰ってきた清明さんとばったり遭遇。今は自室に清明さんを招き、茶を飲みながら報告会をしていた。
ちなみに九尾は元気になって、今は机の中心で茶菓子バクバクしてますね。かわいい。
「いやー、普通の人間なら妖力の塊である『黒芒星』を飲んだら死ぬからね。式神――あぁ、機関に隷属を決めた妖魔ね――に飲ませてどうなるか実験したところ、そちらは弾けてしまったよ。血液型のように妖力にも『型』があるらしく、個々で反発するようでね」
「ほほう」
……なんかこの人さらっと怖いこと言ったな。
ともかく、俺は初の生存例らしい。
「ちなみに妖力同士は反発し合う性質にあるが、
「清明さん、わからないわからない」
ノリノリな清明さんを
前にもこんなことあったが、俺は学がないので専門的な話をされても理解不能だ。
『ふむ……陰陽師見習いだという
「九尾?」
ここで意外なことに、清明さんの話に九尾が理解を示した。
明ってたしか平安時代の友達だったって人か。九尾は清明さんのほうをちらりと見る。
『平安京を抜け出しては
「ほほーう、それは気の合いそうなレディだ。で、九尾くんは明
『そうだが?』
「……平安時代から八百年も言葉を覚えてるとか、キミちょっと友達思いすぎない?」
『ってうっさいわッ!? 調子に乗るなよクソ安倍晴明の子孫がァーッ!』
ギャーギャー喚く九尾さん。茶菓子の食べかすを清明さんに投げつけ始めた。羨ましい。
「イタタタタタッ……!? とっ、とにかくシオンくん、エリザベートの心を覗けたのはお手柄だ。大妖魔衆『天浄楽土』の情報について、何か重要なモノはあったかい?」
「いや微妙だ。意識が繋がったのはほんの一時だったし。だが、分かったこともある」
食べかすまみれの清明さんに語る。
彼女が『七大幹部』とやらに任じられたこと。そして、ヴラド・ツェペシュなる男に完敗したことを。
「大した情報じゃなく、申し訳ない。幹部就任を言い渡された時も、組織の長は天幕の中に隠れていて、顔もわからず……」
「っていやいやっ、『七大幹部』という単語が聞けただけお手柄だ。なにせ『天浄楽土』は徹底的に情報封鎖を行っていてね。幹部クラスの妖魔がいるとは知れているが、その総数は不明だった。敵の武将をいくつ潰せば王手を掛けられるかわかっただけ、大進歩だ」
それに、と清明さんは続ける。
「ヴラド・ツェペシュ……これはマズい妖魔が転生してきたね。国を守るためにあらゆる非道を成し、自国民からも恐れられるようになったワラキアの魔将だ。こいつの出現を知れたのは大きい」
「ワラキアの魔将……」
――そう呟いたところで、頭が痛んだ。
エリザベートの記憶が蘇る。長髪の男が大剣一本を振るい、彼女の鮮血兵団を一瞬で滅ぼす光景を。
思えばエリザベートは、そんなヴラドの姿を俺に見て絶叫していたのかもしれない。
「よし、これらの情報は僕の口から機関に広める。……シオンくんが九尾復活のために妖魔を食べて、それで判明しました――なんて、伝えられないからねぇ……」
苦笑いする清明さん。この人には世話になりっぱなしだな。
「手柄を横取りするようで悪いが、まぁそれを差し引いてもシオンくんは話題になっているよ。『機関に入って早々、大妖魔衆の元幹部を無傷で倒した』ってね」
「そうなのか」
それは知らなかった。『八咫烏』に来て数日経つが、周囲の人からなんだか距離を取られてたし。
「ま、これでキミを認めてくれる人も増えるだろうさ。あぁそれと……」
ドサッ、と。清明さんは机の上に、本の束を置いた。なんすかコレ?
「色んな教材の教科書だね。あと、機関のルール教本や陰陽界の歴史本なんかもある。――いやさぁ、実は鴉天狗くんから、『シオン殿はアンタが拾ってきたんだからちゃんと導け』ってガチ目に怒られちゃってね」
「鴉天狗さんが……」
ござる口調のあの人を思い出す。清明さんに相当鬱憤溜まっている様子だったが、まさか面と向かってそんなことを。
「鴉天狗さん、俺のために怒ってくれたのか……。俺みたいな、不愛想なヤツのために……」
「あぁ、キミは確かに目が死んでるしぶっきらぼうにも見えるけど、でもその代わりに言動に嘘がないからね。いつも気持ちを真っすぐ伝えてくる。だから、真緒くんも鴉天狗くんも、キミのことが好きになったんだろう」
「そうか……」
それはなんというか……こそばゆい。
鼻先がかゆくなるというか、言葉にしづらい感情が湧いた。
「さて、というわけで時間がある時にだけキミに勉強を教えるよ。ホントは真緒くんと蘆屋くんに任せるつもりだったけど、二人は復帰まで数日かかるし」
それに怒られた手前、ちゃんとしなきゃね――と。清明さんは苦笑する。
「では、よろしくお願いします、先生」
「先生かーっ!? それはなんだか気恥ずかしいなっ!」
――こうして、妖魔伏滅機関『八咫烏』での日常が始まったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます