第9話



「出会ったのが浅草でよかった。――なにせ妖魔伏滅機関『八咫烏』の本部は、ここ東京にありますからね」


 風が吹き去る。景色が過ぎ去る。機械の唸る音がするたび、街並みを高速で抜けていく。

 今、俺たちは“自動二輪バイク”なる乗り物に跨って走っていた。

 あ、ちなみに俺は清明さんの後ろに乗り、気絶した蘆屋は天草さんに括り付けられた状態だ。


「すごいですね、バイクって」


 うーん速い速い。座ってるだけでこんなに速く走れるのか。二輪ってすごい。

 平賀ヒラガも足に二輪つけてたし、俺もつけようかなぁって思った。


「陰陽師は多忙な仕事。それゆえ悪路でもすぐに踏破できるように、海外の最新発明である自動二輪バイクが与えられているんですよ。シオンくんも陰陽師になれば貰えますよ」


「足に車輪を付けることはできますか?」


「えっ!? ……うーーん……人間の技術力だと、ちょっと無理かもですね……」


 難しい顔をしてしまう天草さん。

 なるほど、平賀の技術力はそれだけ優れているということか。


「まぁいつかは人に埋め込める機械も出来るでしょうが、段階を踏んで人々に理解をさせて欲しいですね。……その点、狂った先鋭品オーパーツを撒く妖魔平賀はまずい。元は罪人ながらも偉大な発明家だったとされていますが、今は完全にタガが外れている」


 ――ゆえに必ず討ち取らなければ、と。天草さんは強く呟いた。


「やる気あるんですね、天草さん」


「いや、私なんて最低限ですよ。陰陽師の中には妖魔への復讐を誓った者も多い。そんな方たちに比べたら――あぁ」


 ふと、天草さんは前を見上げた。

 俺も釣られてそちらを見ると、そこには大きくて立派なお城が。


「見えましたよ。あれこそ、皇居にして現政府の中心。かつて江戸城と呼ばれた存在」


 近づくほどに感じる偉容。白き城壁が目に眩しい。



「そして、我々『陰陽師』たちの本部――東京城です」



 その厳めしい城門へと、俺たちは向かっていった。



 ◆ ◇ ◆



「ま、陰陽師はあくまで機密の存在。正確には城の地下が本部なんですけどね」


「はえー」


 天草さんと二人、『自動昇降機エレベーター』なる箱に乗って地下へ地下へと向かっていく。


 ちなみに、清明さんは「蘆屋くんを治療しないとねッ!」と言って彼を抱えてどっかに消えた。

 その後ろ姿に、天草さんは「逃げたなアイツッ……!」と唸っていたが。

 どうやら清明さん、仕事をさぼって放浪中だったらしい。


「我ら陰陽師の服装がスーツなのも、政府機関内を出歩く際、役人に擬態するためなんですよ。……まぁ、清明のようなちゃらんぽらんな男が役人なワケないんですけどね」


「清明さんのこと怒ってます?」


「別に。アレの任務を私がするコトになりましたが全然怒ってないですよ」


「はえー」


 顔が完全に怒っていた。


「……ただ、清明には先祖伝来の『人の才能を見抜く眼』がありますからね。それゆえ人材発掘も彼の仕事。そう考えたら、天才アナタを見つけてきた時点で組織に大いに貢献してるんですよねぇ」


 ゆえに怒るに怒りづらいと、天草さんはお腹をさすりながらぼやいた。

 その仕草気持ちいいのかなぁと思い、肩に座ってる九尾のお腹を撫でたら『なにするーッ!』と噛まれた。痛い。でも九尾に歯形を付けられて幸せ。


「とにかく天草さん、大変なんですね」


「ええ、大変なんですよ。それにこれから、浅草で暴れた件と――アナタの存在を、報告しなきゃですしね」


「?」


 と、そこで。エレベーターの箱がガタッと揺れて止まった。

 一番下についたようだ。鉄の扉が、ゆっくりと自動で開いていく。

 そして。


 

「おぉぉ……!」

 


 目の前に広がったのは、日の光が差す桜並木に囲まれた庭園付きの大屋敷だった。

 なんだここは、どうなってるんだ。地下なのに空があるぞ。太陽があるぞ。空気だって美味しいぞ。


「九尾のいた地下は空気まずかったのに……」


『まずくて悪かったなッ!?』


「おお」


 うっかり九尾を怒らせてしまったのでナデナデする。

 あそこの空気はまずかったけど、お前の脳みそは美味しかったよと告げると『ヒュッ!?』と黙ってしまった。許してくれたようだ。


本部ここは天下の大陰陽師、安倍晴明が創り上げた疑似世界でしてね。人に巫装を発現させる『陰陽魚』といい、かの存在も平賀と同じく凄まじい技術者だったようです」


「なるほど。清明さんのご先祖、すごかったんですね」


「まぁ清明はアホですけどね」


「怒ってます?」


「別に」


 やっぱり完全に怒っていた。


「ふぅ。ではシオンくん、少々申し訳ないですが――組織の方針で、アナタを拘束させてもらいます」


 ぱん、と天草さんは手を叩いた。すると俺の両側に黒ずくめの者らが現れ、腕をがっちり握られてしまう。

 何だこの人たち? 黒い鳥の仮面被ってるし怪しそうだぞ。


「ふむ」


 

 この状況はもしや……やり返し案件、発生か?


 

「なぁ天草さん。これは――俺をと思ってのことか?」


「ッ!? ……いえ、違います。これは、妖魔と混ざっているらしきアナタを、健康診断するためですよ……」


「なんだ」



 健康診断か。それならむしろ良いことだな。どうやら『八咫烏』という組織は正義の組織らしい。

 俺はいいところにきちゃったな~と思いました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る