悪食聖女と暁の魔法使い

節トキ

聖女失踪


 アルカ王国に突如として現れ跋扈する魔物どもを退治した聖女。その聖女が姿を消した。


 聖女の活躍のおかげで魔物の数は少なくなっていたが、完全にいなくなったわけではない。聖女を失ったことに国王を始めとするアルカの重鎮達は激しく動揺した。知られれば国民達にはもちろん、他国との関係にも悪影響を及ぼすだろう。


 そこで聖女が消えた件については極秘とされ、秘密裏にアルカ王国聖騎士団の中で捜索隊が結成された。


 私も任命を受けた一人だ。抜擢されたのは同じ下級団員達ばかり。上が下を働かせ、成果だけを乗っ取るといういつものやり口だ。中でも私は女である上、身分の低い出だからという理由で特に蔑ろにされていた。

 だが食うに困らず安心して寝られるというだけで私にとっては十分だ。密かに魔物の存在には感謝すらしている。数年前から起こり始めた原因不明の魔物の出現は、アルカ含め全世界で大きな問題となっているが、そんな異常事態が起こらなければ聖騎士団は私のような身分の者の入団を許さなかっただろう。


 任務を賜るや、私は単独で捜索を開始した。同じ任務につく他の者達は数人のグループで行動するようだったが、下級団員の中でも最下層と見做されている私に誘いの声がかかることはなかったし、それに一人の方が気楽でいい。


 聖女についてだが、与えられた情報は少ない。金の長い髪、赤い瞳、白いドレス――以上だ。奇しくも赤い短髪に金の瞳、私服を持たず常に漆黒の団服で過ごしている私とは正反対の容姿らしい。

 聖女が魔物退治に赴く際には数名の騎士達だけが付き添っていたため、私程度の下級騎士は実物を拝見したことなどない。こんな緊急時にも詳細な容姿を伝えられなかったのは、情報の漏洩から他国に聖女を奪われることを恐れてか、頑なに守ってきた聖女の神秘性を損ないたくなかったからか。


 どちらにせよ、私のすべきことは一つ。条件に合致する人物を発見したら連れてこい、そこで聖女を知る者達によって真贋を見定める――そんな大雑把な内容の任務を遂行するのみだ。


 とはいえ私も聖女には興味があった。出自不明の女という自分と似た境遇でありながら、己の力で大きな支持を得た存在。憧れないわけがない。植え付けられた聖女の神秘性に、私も躍らされていたというわけだ。



 なのでアルカ北部の森の中で出会ったそいつが、その聖女なのだとは俄には信じられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る