第35話決着。

「ボン。ドス」


 煌明君とボールを取る人の間を行き交っているボール。それを避けながら逃げる残りの三人。


「陽翔君。今だー。下がって取って」


 新葉が声を掛ける。


「左に行くんだ。陽翔君」


 大翔君が声を掛ける。陽翔君が下がろうとした時、大翔君が陽翔君の手を取り、左に引っ張った。


「ガツッ」


 陽翔君にボールが当たった。


「何するんだ。さっきだって、大翔君の言う事を聞いて前に出てたら、ボールに当たっていたかも知れない。無理した葵ちゃんだって、当たる事は無かった。今だって、君が僕の手を引かなけりゃ僕がボールに当たる事が無かったんだ」


 悪態を突いて、陽翔君は外野へと出て行った。


「何だよ。アイツ。皆んな何でアイツの言う事聞くんだよ。くそっ」


 言って、不貞腐れる大翔君。二人だけ残ったH組。大翔君と駈君が逃げる。だが、いつまでも煌明君がそれをほっとく訳も無く、強いボールをぶつけて来る。


「大翔君。当たる。左へ」


 新葉は言ったのだ。


「くっ」


『何なんだ。何故僕に命令している。何で皆んな僕の言う事を聞かない。他の学校から来た奴なんかの言う事を聞く。アイツはドッジボールだって苦手じゃ無いか。逃げるばっかりで、僕の方が頭だって良い。アイツは一体何なんだ。声が大きい。そんなの関係無いじゃ無いか。僕を信じて無いのか。僕はアイツより劣るって言うのか? 会って間も無いアイツの方が信じられるとでも言うのか? 僕の方がアイツより優っている。違うとでも言うのか? 何なんだよ。アイツ……くそっ』


 しかし、新葉の言葉を聞かない大翔君はこのボールは取れると思い退かずにいた。


「バシッ」


 煌明君の強烈なボールにぶつけられた大翔君は何も出来ないまま煌明君のボールに朽ちた。


「くそっ」


 大翔君は床にボールを叩き付けると、しょぼしょぼとして外野の方へと向かって行った。残った駈君は逃げ続けた。こうなって仕舞えば、負けたも同じだ。後は駈君を逃し続けて万が一のチャンスを待つしか無い。


「駈君。右。上。左」


 新葉も声を掛けて逃すが、だんだんと駈君の逃げるペースも落ちて来た。駈君も最後は力尽きた。煌明君がボールを投げようと腕を振りかぶると、


「ピーッ」


 と、合図がした。試合終了だった。

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