第34話君の言葉はシャットアウトされてしまう。

 大翔君が新葉を睨み付ける。


「大翔」


 大きな声で怒る葵ちゃん。


「ちぇっ」


 舌打ちする大翔君。気を取り直して再開する。次に煌明君に狙われたのは渚ちゃん。渚ちゃんの身に強いボールが向けられた。


「渚ちゃん。左だ」


 新葉は叫んだ。渚ちゃんは左に行き逃げた。次にボールが向けられたのが葵ちゃんだった。


「葵ちゃん。後ろに下がって」


 新葉は呼び掛ける。大翔君がボールを取ろうと横に出て来た。それを避けようと葵ちゃんが動く。すると、場を失った渚ちゃんがボールの餌食となってしまった。


「ドサッ」


 葵ちゃんがボールを当てる。


「ドンッ」


 煌明君がボールを投げる。


「葵ちゃん。右だ」


 新葉が言う。葵ちゃんが右に動こうとすると、


「陽翔君。左だ」


 大翔君が言うと、陽翔君は一瞬躊躇った。出遅れ、代わりに結菜ちゃんが当たってしまった。この時点で残り五人。リズムの出来ていたチームの動きは完全に崩壊していた。


「大翔。いい加減にして!」


 葵ちゃんが憤りを露わにしている。


「バシッ」


 投げられたボールを葵ちゃんが人に打つける。


「ズドンッ」


 今度は煌明君が陽奈ちゃんにぶつけた。陽奈ちゃんは不機嫌そうにした。


「ああ。当てられちゃったわ」


 陽奈ちゃんは一言言って外野に回った。この時点で残り四対四人。


「ドスンッ」


 陽翔君に向けられた煌明君の強烈なボール。


「陽翔君。左へ」


 新葉が言った。陽翔君がここで外へ出れば勝ち目は無いと思ったからだ。


「陽翔君。前だ」


 大翔君が言う。二人に言われ、一瞬戸惑う陽翔君が出遅れる。葵ちゃんが無理してボールを取ろうとして取り損なう。


「陽翔君。何でだ。直ぐに前に出て来れていればこんな事にならなかった」


 大翔君が文句を言う。


「そう言われても彼の声が頭に入って来るんだ。君の言葉はシャットアウトされて仕舞う。彼の声が言葉が耳に残る。動かされるんだ。だから、君の言葉が遅れて入って来たんだ」


 陽翔君は悲痛な言葉でボールに当たらない様に逃げながら言った。


「何言ってるんだ。僕とずっとやって来たじゃ無いか? 大して活躍した訳でも無い彼の言う事を聞くのかい。おかしいだろう」


 大翔君は怒りながら投げ付けられるボールから逃げて行った。

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