第28話あんたはまだまだだけど…………‼︎

 僕達のチームは残り二人。逃げている駈君には目も触れず、紬ちゃんはただ凛ちゃんだけを集中的に狙った。


「バシッ。バン。サッ」


 狙われ続ける凛ちゃん。


「右。下。左。横」


 新葉は声に出す。まだ、渚ちゃんに当てられた事が忘れられない。ショックがあった。僕自体が渚ちゃんに当てたと言うのにだ。身勝手な考えだ。そんな風に思っていると、段々凛ちゃんの体力も限界となっていた。このままで行くと、凛ちゃんは当てられて仕舞うだろう。凛ちゃんが当たって仕舞えば、駈君だけになって仕舞う。取ることが出来ない駈君では逃げ切れる事が出来たとしても後がない。時間切れになって終い完全なアウトだ。だからこそ、今の内に如何にかしなければならない。だが、凛ちゃんの体力は思ったよりも限界が来ている様だ。凛ちゃんの動きが鈍り、遂には力尽き果て、


「ドンッ」


 残りは駈君ただ一人になってしまった。しかし、駈君は逃げるだけで精一杯だ。それ以上の期待を持つのは酷な事だろう。僕達の応援の中、紬ちゃんは容赦無く強烈なボールを当てに掛かる。


「オイ。紬。お前本当に容赦無いな。逃げるしか脳の無い奴にそこまで追い詰めるのかよ?」


 樹君が紬ちゃんに挑発している。こうしている間にも何か対策を考えなければならない。何としてでも、ボールを取れる子を中に入れなければこの試合は完敗なのだ。とは言え、肝心の駈君は恐怖で逃げるのもやっとだった。窓際に一筋の光が差し込んでいた。新葉はその一筋の差し込んだ光を仰ぎ見ていた。すると、新葉の顔には一文字に結んだ口元は口角が上がっていた。


「駈君。右。右手も上げてー」


 駈君は訳も分からず、新葉の言う事を聞いた。言われた通りにしたのだ。これは駈君が新葉に対して絶対の信用を持っているからだ。運動会の時の作戦の信用性にあるからなのだ。駈君は新葉の言う事に従い体を動かした。そうすると、駈君の目に一筋の光が差し込み、眩しさの余り、目を閉じると同時に肘で光を遮断したのだ。そこへ


「ボムッ」


 紬ちゃんの投げたボールが日差しを避けた駈君の肘の方へと向かって行った。


 

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