第一章

常闇に沈静あかる腐片ふへんが降り注ぐ。この量だと、また、カゼで滅びた地域があるらしい。確かに北の方角。寒い。寒い。寒い。カゼが壊せば何とも思わない。でも、他人が壊せば、いざこざになる。そう言う処は、

昔から変わらない。私の住む家から5キロ程離れたところに、灯台がある。あの灯り。あれが無ければ、この脆い世界への絶望も、下らない嘲りもなくなる筈だ。私はいつも、あの灯台を見詰めた。私の目で以てその腹部に穴を開けようとしたこともあった。この町、いや、この世界で最も頑丈で明るい建築は、灯台である。その存在が人々を勇気付け、嘲り、という度合いに留めている。しかし、留めているだけであり、裡に秘められた混沌は、経年の蓄積を極めている。もう、青い水は取れない。あの灯台だけが、頼りなのだ。しかし、なぜ灯台を頼るのだ。嘲りの先へ進むことをしないのは何故なんだ。私は人間の、その怠惰に疲れていた。白堊時代と命名されてから久しい。この日々もあと、2世紀ほどは続くとされている。どんなに再生が進んでも、1世紀以上は、確実にかかる。いずれ元に戻る。それならば、自由に動くべきである。青い水など、麻酔に過ぎない。しかし、人間は杭を打つ。前もって打つ。何時だって打つことは一人前だ。打つことは…。


 夜が明けた。明けたか否か、私にはよく分からなかった。家の外に出ると、腐片が大いに積もっていた。私の家の脆さと腐片とが一体になり、壁は厚くなっていた。道では硬い層を露わにすべく、腐片の除去が行われていた。そんな静かな町をあの灯台は見下ろしていた。セラミックでできた灯台。それは、400年前のセラミック時代の技術の賜物だ。セラミック時代は、1000年もの間栄えた。しかし、人間がすべてをセラミックに置き換えたことは、矢張り愚かなことだった。それは、運命だったのであろうか。


 私は扉を閉めた。そっと閉めた。なぜ、そっと閉めたのだろう。怖かった。そう素直になれた。頭を抱えた。抱える必要など無いのに抱えたのだ。この世界の中で、私の吐く息の生暖かさが、私自身を蜃気楼のようにさせていた。

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