大文字伝子が行く226

新生「森アパート」

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。

　大文字（高遠）学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。

　一ノ瀬（橘）なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。

　馬場（金森）和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。

　日向さやか（ひなたさやか）一佐・・・空自からのEITO出向。

　高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。EITOボーイズに参加。

　飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。

　江南（えなみ）美由紀・・・元警視庁巡査部長。EITOに就職。

　七尾伶子・・・警視庁から出向の巡査部長。

　大空真由美二等空尉・・・空自からのEITO出向。

　高坂一郎看護官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

　久保田嘉三管理官・・・警視庁管理官。伝子をEITOにスカウトした。EITO前司令官。

　愛宕（白藤）みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。

　愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。

　斉藤理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。

　夏目警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。

　筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。

　大文字綾子・・・伝子の母。介護士をしている。

　藤井康子・・・伝子のお隣さん。EITO準隊員。

　森淳子・・・元依田のアパートの大家さん。新生森アパート管理人。

　守谷哲夫・・・SAT隊長。

　東山英一・・・SAT副隊長。

　柴田管理官・・・警視庁管理官。交渉人になることが多い。

　名越撤兵・・・MAITOのC班班長。

　橋爪警部補・・・普段は丸髷署生活安全課刑事。

　みゆき出版社編集長山村・・・伝子と高遠が原稿を収めている、出版社の編集長。

　辰巳一郎・・・物部が経営する、喫茶店アテロゴのウエイター。

　一色泰子（たいこ）・・・辰巳の婚約者。喫茶店アテロゴのウエイトレス。

　天童晃（ひかる）・・・かつて、公民館で伝子と対決した剣士の一人。EITO武術師範。EITO準隊員。

　須藤桃子医官・・・陸自からのEITO出向。基本的に診療室勤務。

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　==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==

　==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==

　午前9時。森アパート改めメモリーコミュニティ。

　依田以前住んでいたアパートであり、蘭が以前住んでいたアパートでもあった、通称森アパートは放火により、全焼した。

　森は、空き家になっていた、実家に住んでいたが、土地活用を芦屋三美に相談すると、芦屋グループに売ってくれたらいい、と言ってくれた。そして、住んでくれればいい、とも。通常の場合、売った先に家賃を払っていくのだが、管理人として住んで欲しい、と言ったのだ。古い家ほど火事になりやすい、という定説は成り立たなくなっている。放火されれば、どんな家でも燃える。三美は、最新鋭の防火システムとEITO固有のセキュリティーシステムを導入した。伝子のマンションに近いセキュリティーだ。いつか、『民間』の店子を入れてもいいが、EITO隊員の寮にした。

　詰まり、森は寮母になる。焼失する前は、伊知地満子二曹、葉月玲奈二曹、越後網子二曹、小坂雅巡査、下條梅子巡査が入居することになっていたが、5人に加えて、七尾伶子巡査部長、大空真由美二尉、仁礼らいむ一曹、財前直巳一曹が店子、いや、寮に住む女子社員が揃った。

　内覧会に、以前の住人、依田と蘭が花を持って駆けつけた。

　そして、伝子と共にやって来た芦屋三美は言った。

「どうですか？森さん。」「感無量ですわ。ありがとうございます。」

「やっぱり、面影も何もないなあ。」「全焼したけど、ご近所に類焼しなくて良かったわよね、依田さん。」「皆で頑張ったからね。」

　2人の会話に、「全焼はしたけどね、依田君。焼け跡の幾つかから、依田君関係の物が見つかって、各部屋に配布したわ。例えば、私がこっぴどく叱った、悪戯書きとかね。」と、嬉しそうに語った。

「えーー。嬉しいって言っていいのかな？EITOのメンバーは始終俺の落書き観るんですかね。」

「さあ、くじ運の悪いやつは誰かな？」と、伝子が戯けて言うと、依田は「勘弁して下さいよー、先輩。あ、森さん、これ、副部長から。それと、これは、ウチから。」

　依田は、切り子グラスのセットと、やすらぎほのかホテルの宿泊券を差し出した。

「ありがとう、依田君。おっちょこちょいって揶揄ってばかりだったのに。」

「いえ、おっちょこちょい抜いたら、『取り柄』が無くなります。」「うん、そうだな。」と、蘭が相槌を打った。

「ひどーい。」「思い出話が、幾つも出来そうだね、依田君。」と、慶子と共に現れた小田が言った。

　その時、EITOのメンバーと蘭のイヤリングが光った。

「緊急出動ね、中はいつでも見られるわ。入居は来月からよ。行ってらっしゃい！」

　伝子達は走り去った。蘭のイヤリングを見て、依田は首を捻った。

「あれ？蘭ちゃん、いつ隊員になったの？」

「たびたび誘拐されるから、って先輩が用意してくれたの。」「え？私、聞いてない。」

　蘭と慶子のやり取りを聞いて、ヤバイと思った依田は、「後で申請して貰うよ、先輩に。」と、進言した。

「なんなんだい？依田君。イヤリング、何か仕掛けがあるの？」「緊急連絡通信機です、って・・・高遠が言ってました。」

　小田社長は首を捻った。「慶子は隊員じゃないけどねえ。」

「ああ。蘭ちゃんのイヤリングは色が違うでしょう？着信専用です。エマージェンシーガールズのは・・・ヤバイ。口は禍の元、だった。」

　午後1時。EITO東京本部。会議室。

　メンバーは、昨夕のTick Tackの画面を観ていた。

《

　やあ。この間は『無言電話』みたいな挑戦状で迷惑かけたね、EITOの諸君。やはり。モニターテストするべきだった。操作間違えちゃった。白状すると、ITはあまり詳しくないんだ。で、部下に任せることが多い。部下に叱られたよ。名前はちゃんと名乗るべきだって。改めまして。ナチュラルデプスです。まだ、次の作戦の準備中だったから、油断していたら、大阪で奴らの作戦が割り込んで来たみたい。あれは、関与してないよ。エイラブ系テロ組織のグローバルフラッグとは。俺達は、奴らと組んで襲ったりしないよ。奴らはね、人間をロボットにしてから、道具にする。下品だよね。今、言ったように、『準備中』だから、オープンしたら報せるよ。じゃな。

　》

「デプスが上品とは思えないが、エイラブ系の組織の名前ばらすところを見ると、余程気に入らないのでしょう。」と、筒井は言った。

「共闘はしてくれなくても、助かるさ。エイラブ系は予測をしようがない事は分かっているし。」伝子は笑った。

「マスコミはまた、困るでしょうね。江戸川乱歩や、昔出没した『怪人二十面相』と関連付けて報道し始めたから。修正や謝罪は死ぬことと同じと思う人達には、本人が訂正したら、振り上げた拳を降ろさなければイケないし。」と、増田は言った。

「おねえさま。『準備中』だから、オープンしたら報せるよ、って言葉が引っかかるんですけど。」と言った、なぎさに、「それだ、渡さん、アテロゴのメンバーに緊急信号を送って。なぎさ、オスプレイで急げ！あつこ、モール付近の警備強化。それと、爆破物処理班を臨場させろ。エマージェンシーガールズは、フリーズガン、水流ガンを装備。河野さん、SATとMAITOに協力要請、草薙さん、Chot GPTを使ったサイトがないか調べて下さい。」

　伝子は、みなに指示を出した後、LinenメンバーであるDDメンバーにも連絡した。

「物部が危ない。そうだ、蘭、蘭はいるか？」「はい、先輩。」「Tick Tackでデプスが言った、『準備中』は物部の店か、蘭の店か、両方かだ。今日、非番なら店に連絡を入れてくれ。」

「大文字君、正気か？『準備中』だけで、マスターや蘭君の美容室と決めつけていいのか？」

「事前策です。証拠はありません。」

　午後2時。モール。

　喫茶店アテロゴは燃えている。いや、類焼だから、アテロゴもだ。

　エマージェンシーガールズが到着した。

　なぎさは、野次馬整理をしていた、橋爪警部補に様子を尋ねた。

「消防とMAITOが同着。協力してスピード鎮火です。」

　SATの守谷隊長が、やって来た。「予告があったんですか？」

　なぎさは、迷わず答えた。「あったんです。分析に時間がかかりました。」

　辰巳と泰子がやって来た。「無事だったのね。お客は？」「こういう場合の避難訓練、ウチもやってますからね。マスターの指示に従って、避難誘導しました。どうして、ウチが？」

「君が、『綺麗な嫁さん』貰ったからよ。」

　MAITOの名越も、守谷も橋爪警部補も、愛宕も笑った。

　午後2時。美容サロン「カール」。

　ダイナマイトを腹に巻いた男が乱入した、という通報と、日向達エマージェンシーガールズが到着したのは、ほぼ同じだった。

　ここには、久保田警部補が来ていた。

　そこへ、柴田管理官が到着した。「久保田管理官は来られないので、交渉は私がします。以前の事件の時に、EITOの指導で裏口が出来ている、と聞いています。私が交渉している隙にエマージェンシーガールズとSATは突入して下さい。」

「了解しました。」SATの東山副隊長と日向は頷いた。

　午後4時。EITO本部。会議室。

「よく気がついたな、流石は大文字君だ。これも『小手調べ』かね？」

「多分。コンティニューが嘘をついたんではなく、情報は漏れていないと言ったのは、思い込みだったのではないか？という気持ちもあったんです。」

「それを見据えた。見方を変えてみた、というところですか？大文字さん。」と、天童が入って来て言った。

「跳ねっ返りも大分成長したようだな。」と、須藤医官は言った。

「よし、今日の所は、これで解散。訓練場を使わない者は帰れ。大文字君は、健診があるそうだ。」と、夏目警視正は指示を出した。

　午後6時半。伝子のマンション。

　帰ってから、伝子はやりかけの翻訳を一気にやり終えた。

　伝子は、みゆき出版社に電子ファイルを送った。

「ふう。」と、伝子は息を吐いた。

「お疲れさま。」やって来ていた、編集長は労った。

　今は、電子ファイルが通例だ。送られて来た原稿を出版社は校正し、印刷所に廻す。

　伝子の通訳原稿も、高遠の小説原稿も同じだ。昔のように、編集者が原稿取りに来て見張るなんてことはない。

　さっきから、藤井と森が、チャーハンを作っている。

「チャーハン、ご馳走になりに来たんじゃないんだけどなあ。」と、山村が言うと、「そう言いながら、もう席に着いているじゃないですか、編集長。ささ、召し上がれ。」と、藤井が笑いながら言った。

「今日、綾子さんは？」と、藤井が言うと、「夜勤だって。夜明け前にお邪魔します、なんて殊勝なこと書いてましたよ。メールに。」と、高遠は笑った。

「でも、何で分かったの？大文字くぅん。」「カンですよ。」伝子は平然と応えた。

「カン？」みなが驚き、「今度の敵も負けるわね、この夫婦に。」と、藤井が言い、みなが賛同した。

「ゴメン。物部の店が今日、午後からって聞いてたのを思い出したんだ。蘭の店は偶然かも知れないが、異臭騒ぎがあって、結果的に午後からオープンだった。タネって、案外あっけない。」

　空は曇っていたが、伝子の心は澄んでいた。高遠は、そんな伝子をチラチラ見ていた。

　―完―

　===　このエピソードは、「大文字伝子の休日31」の後日談になります。=====