第14話 どんなファッションにもいいところはある…多分。
さて、今日は待ちに待った涼夏との勉強会!
というわけで、本日のファッションチェックをしてみましょう!
1.黒帽子
グッドポイント:カジュアルな印象を与えながら、可愛らしさと男らしさを同時に出せるアイテム。おしゃれの必需品。
バッドポイント:不審者
2.サングラス
グッドポイント:六月といえども日差しが強い日もある。紫外線対策は必須。
バッドポイント:不審者
3.マスク
グッドポイント:感染症対策。
バッドポイント:不審者
4.黒尽くめの上下
グッドポイント:服を着ている
バッドポイント:不審者
結論:終わったわ。
待ち合わせ場所である近くの駅前に立ち、俺は呆然と空を見上げた。
あかん、このままじゃ勉強会の前に捕まってしまう。
今すぐ家に帰ってなんでもいいので違う服に着替えたいが、もうすぐ待ち合わせの時間だ。
せめてサングラスを外すが、なんだかこのファッションでサングラスだけ外すのはすごく恥ずかしいのですぐにかけ直してしまった。靴下だけ残して裸になるの恥ずかしいとかそういう感じだ。
そういう感じか?
とにかく目立たないように目立たないところに立っているが、如何せん格好が奇抜なため通行人にジロジロみられている。
見せもんちゃうぞと精一杯威嚇をしていると、すごく嫌そうな声がすぐ近くから聞こえて来た。
「できれば人違いであってほしいんだけど、もしかしてあなた、今日私と一緒に勉強する予定とかある人?」
振り返ると、声よりも嫌そうな表情をした涼夏が俺をみていた。
まず俺のファッションの弁明をしようとしていた俺は、目に入って来た涼夏のファッションで意識を吹っ飛ばされてしまった。
俺の想像の中の涼夏は、ガーリッシュというか、可愛らしいスカートだとかワンピースを着てくるイメージだったのだが、今目の前に立っている涼夏はその想像とは全く逆のファッションだった。
白のキャップを被り、長めの袖の緑のTシャツ、下はベージュ色のハーフパンツといった、どこかボーイッシュなファッションの涼夏は、呆れた表情のままこちらをみている。ゴツメのスニーカーが、線の細い涼夏の脚とは対照的で、しかしながらそのアンバランスさが美しかった。
全体的にだぼっとした服装から伸びる涼夏の白い素肌……控えめにいって太陽より眩しいね。
あまりの可愛さにノックアウトされてたが、よく聞いたら涼夏がなんか言ってる。
「ごめん、全然聞いてなかった」
「目の前でこんな喋ってたのに」
「ごめんごめん、で、なんて言ってたん?」
「いえ、本当に知り合いかどうか確かめてただけ。残念ながら知り合いだったみたいだけど」
大きなため息をついた涼夏は、帽子を深く被り直した。
「いや、こんなファッションになったのはわけがあるんだ」
「どんな理由があったらそんな不審者みたいな格好になるのよ。何か盗んだの?」
「マジの不審者になったわけじゃねえよ」
マジの不審者になったらこんなところにいるか。いや、実際はマジの不審者になっても涼夏との勉強会優先しそうだわ。恐るべし。
「かくかくしかじかで」
「理解できないということは理解できたわ」
ま、いいから行きましょ、と疲れたように言う涼夏。手に持っている重そうなカバンには勉強道具が入っているのだろう。こういう時にすっと持とうか? なんて言えるやつがモテるんだろうな。まあ俺が言ったら気味悪がられそうだけど。
「どこに行くんだ?」
「図書館に行こうかなって思ってたんだけど、大丈夫?」
やはり図書館だった。しかし図書館は本当に大丈夫だろうか? 六月も半ばに差し掛かり、そろそろ期末試験のために土日も勉強をする頭のイカれたやつらもちらほら出始めている。そういうやつらは往々にして図書館で勉強したがるものなのだ。別に家でやるのと図書館でやるのなんて大きな違いなんてないと俺は思うが、やつらにとってはそうではないらしい。勉強するやつらの気持ちなんて俺には一生わからん。
いくら俺たちが住んでいるところが学校から少し離れていたからといって、知り合いに会いたくないと思う人間は俺たち以外にもいる。近くの図書館ではなく少し遠くの図書館に来ることだって容易に想像できるのだ。
「図書館だったら同級生と会いそうじゃないか?」
「あー、確かに……じゃあどこかの喫茶店にする?」
やはり俺と一緒にいるところを誰かに見られたくはないのか、涼夏は他の選択肢を提示してくる。
なるほど、喫茶店か、それは確かにいい選択肢である。
ただ、どこの喫茶店に行くのかでやはり問題が生じてしまう。
そのことを涼夏に伝えると、非常に面倒くさそうな表情をされた。
「どこでもいいじゃないそんなの」
「何を言うんだ。見つかったら大変じゃないか」
「ここで話し込む方が見つかる可能性あるでしょ。ほら、さっさと行きましょ」
颯爽と歩き去っていく背中を追いかけながら、俺は誰にも見つからないようにと祈ることしかできなかった。
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