流れ星の神様

時坂咲都

流れ星の神様

 それは薄明の空を切り裂くように落ちていった。

 火球と呼ばれる、ひときわ明るい流れ星。紫がかった白い光を放ちながら、猛スピードで尾を引いていく。山の向こうに隠れて見えなくなった瞬間、大きな破裂音がして鳥が一斉に飛び立った。

 下校中の中学生たちが慌ててスマホを構えるなか、道端に一人佇む少女――ユカリはぼんやりと流星痕が残る空を眺めていた。

 山と田んぼしかない見慣れた景色のはずなのに、フィルターをかけたかのように彩度が増して見える。この空を見ていると、なにか素敵なことがおきるんじゃないかと根拠の無い期待が膨らんでいった。それに、あんなに大きな流れ星なら、どんな願いだって叶いそうだ。

 ――この輝きに、われこいねがう。

 ユカリは軽い気持ちで祈ってみた。

 なんでもいいから現状を変えるような出来事が起きますように、と。


     *


 書いては消して、書いては消して……。

 やや毛羽立っているスケッチブックには、漫画になり損ねたキャラクターやストーリーの残骸がうっすらと残っている。

 どこかで見たようなキャラクターにありきたりな設定。最近読んだ漫画や好きなアニメのツギハギだと気づく度に、続きを描く気が失せて白紙に戻してしまう。

 ――こんなんじゃダメ。つまんない。

 早朝の空き教室で、ユカリは一人ため息をついた。

 小学生の頃から漫画が好きで、オリジナルの漫画を描こうと思い立って三年くらい経つが、未だにひとつも完成させられたことがない。人物や風景のスケッチや模写、キャラクターのデザイン画ばかりが溜まっていくだけ。

 ユカリはそっとスケッチブックをめくる。

 鉛筆と水彩で描かれた風景画。昨日の夜、火球が落ちる瞬間を思い出しながら描いたものだ。綺麗だったのでつい筆を走らせてしまった。細部は感覚で補っているため実際の空とは異なっている。資料として写真を撮らなかったことを後悔したが、改めて見てみるとむしろファンタジー作品のモチーフに使えそうな気がしてきた。

「問題はキャラクターとストーリーだな……」

 これまで思いついたものは全部ボツにしてしまったため、一からネタを出さないといけない。でも今はとくに描きたいものがない。

「なんかヒントないかな……」

 昨日、軽い気持ちで願った内容を思い出す。煮詰まった現状を打破できるような、変わった出来事があればいいのに。

「そう都合よくいかないか……」

 ユカリがため息をついた瞬間、チャイムが鳴った。スケッチブックをしまって教室を出る。そして、いつものように職員室の前を通ったとき、わずかに空いていた扉の隙間から見てしまった。

 それは、見慣れない生徒の後ろ姿だった。

 肩まで伸びた髪はサラサラのストレートで、朝の日差しを浴びた部分がセピア色にきらめいている。華奢な体躯をしたその人が男子の制服を纏っていることに気づき、ユカリは驚いた。隣のクラスの担任と話し込んでいるが、声を聞いてもどちらなのか判別できない。声変わり前の少年か、低めの声を持つ少女なのか。

 性別不詳の天使かなにかが、人の形をしてそこに立っている……そんな印象だった。

「隣のクラスに転校生……?こんな時期に?」

 あまりじろじろ見るものではないとわかっているものの、つい立ち止まってしまった。後ろ姿だけでこんなにも惹き付けられるなんて。不思議な人もいるものだな、と放心しかけたところで転校生がおもむろに振り返った。

 ユカリは我に返り、目が合う前に慌ててその場を離れて教室へと急いだ。


     *


 魅了された、ってきっとこういうことだ。

 その日、ユカリは何も手につかなかった。

 授業はおろか、突然現れた転校生に沸き立つクラスメイト達の喧騒すら右から左へ流れていく。

 あの子が振り返る一瞬、目が合う前に見えた顔が頭から離れない。

 陶器のような肌に、人形のように整った顔立ち。アーモンド型の瞳を縁取る長いまつ毛。程よい血色感の頬とつやつやの唇。清純派女優にも負けない圧倒的な透明感。

 あんなに美しい人間を、ユカリは見たことがなかった。


 放課後。ユカリは酔ったような足取りでいつもの空き教室に向かい、スケッチブックを広げた。

 わけもわからず衝動のまま鉛筆を走らせる。ミューズを得た芸術家のように。目に焼き付いて離れない、あの僅かな時間を紙に転写していく。

 どれだけ夢中になって筆を走らせていただろう。ふと我に返り、ユカリは描いた量を目の当たりにして驚く。普段の自分からは考えられない量の素描がそこにあった。

「私、こんなに描けたんだ……」

 昨日の空といい、今日の転校生といい、「描きたい!」と思える題材に続けて出会えたおかげだ。あの流れ星のおかげだろうか。

「流れ星……転校生……天使……そうだ!」

 これらを題材にして、漫画を描けばいい。ひとつひとつの要素を結びつける設定も頭の中に浮かんできた。

 突然現れた、天使のような転校生。その正体は、流れ星からやってきて願いを叶えてくれる神様だった。本気の願いを持つものの前に現れ、流れ星のかけらをくれる。それを使うとなんでもひとつだけ願いが叶い、かけらを全部使い切ると神様は役目を終えて消滅し、元いた世界に帰る――こんな設定だ。

 もしかしたら既存のなにかと被っているかもしれないが、それよりも「これを形にしたい」という熱の方が強かった。

「やるぞ。今度こそ」

 それ以来、ユカリは早朝と放課後は空き教室で創作活動に没頭した。鉛筆で走り書きした拙い漫画だが、前に進んでいく手応えを感じながら、一コマ一コマを大切に描き進めていった。


     *


 例の転校生とは相変わらず接点がない。人物像どころか名前すら知らないままだが、作品自体はフィクションなのでとくに問題はなさそうだ。キャラクターの外見だけとはいえ、勝手にモデルにして漫画を描いていることを本人に知られたくないので、これでいいとすら思っていた。

 隣のクラスで話題の美形転校生と、学校の片隅でひっそり漫画を描いているモブ。お近づきになろうと思えばできる距離にいるものの、その日常は平行線だと思われていた。

 だが、その線は早々に交わる時がやってきてしまった。

 ある日の放課後。ユカリは空き教室にスケッチブックを置き忘れてしまった。慌てて取りに戻ると、机の上にあるはずの物がない。辺りを見回すと、何者かが教室の隅で座り込んでスケッチブックを開いていた。

 ――見られた。

「あの、それ私のなんですけど……」

 おそるおそる話かけて気づく。その人が長い髪に男子制服をまとっていることに。

 一気に緊張が走る。

「なぁ、これ描いたのオマエ?」

 顔を上げたその人は、やっぱり例の転校生で。整った顔は近くで見るとますます綺麗だった。夕陽を浴びた肌はオレンジ色に染まり、髪は黄金色に輝いていた。

ユカリは今すぐ逃げ出したい気持ちを必死に抑えた。絵のモデルに気づいたかな。怒られるかな――そんな不安で全身がこわばるなか、ユカリはこくりとうなずく。

 転校生はスケッチブックを差し出しながらニカッと笑った。

「へぇ、すげぇな。あと、勝手に読んで悪かった」

「……え」

 一瞬、何を言われたかわからなくて固まる。心の底からすごいと思ってくれたのだろう、屈託の無い態度が印象的だった。そして、年相応のフランクな話し方とやんちゃな笑顔に、儚い天使のようなイメージが少しだけ揺らいだ。

「あ、いや。その……それは全然大丈夫なんだけど。君はどうしてこんなところにいるの?」

「久々に大勢と話して疲れたんで逃げてきた。オレ、こないだ転校してきたせいか、常に誰かが話しかけてくんの」

「それは……大変だね……」

 突如現れた季節外れの美形転校生という噂は瞬く間に学校中に広がり、休み時間や放課後になるとヨスガの周りは常に人だかりができていることはユカリも知っていた。ずっと好奇の目に晒されていることで学校にいる間は休まる暇がないのだろう。

「だからさ、これからも来ていい? 校舎の端だから滅多に人来ないし、休むのにちょうどいいんだ。あ、絵を描く邪魔はしないから」

「そういうことなら全然構わないよ。そもそも私の部屋じゃないし」

「ありがと、助かる。オレはヨスガ」

 ヨスガ。不思議な響きの名前で意味もよくわからないが、目の前で朗らかに笑う麗人の名前にはぴったりな気がした。

「私はユカリ。君の隣のクラスだよ。よろしく」


     *


 それ以来、放課後の空き教室には時々ヨスガが現れるようになった。入口から見えない場所に座り込んで適当にスマホを見ながら時間を潰していることが多い。だが、少しづつユカリと話す時間も増えていった。

「――べつにこの髪だってたいしたことないんだぜ。地毛だけど綺麗な色って言われるし、伸ばしても似合うだろうな、そもそも男の髪ってどこまで伸びるんだろうなって興味本位で伸ばし始めただけだし」

 ヨスガは床に胡座をかきながら、肩の上を流れる髪をひと房摘んで日光にかざす。まるできらきら輝く蜘蛛の糸のようだ。

「本当にそれだけの理由なんだね」

 とはいえ、なかなか実行に移す人間はいないだろう。それだけで十分面白い人だな、と隣で腰を下ろして聞いていたユカリは思う。

 彼曰く、転校するときに切ってしまおうか悩んだこともあったそうだが、校則的に問題がないことに気づいて切るのをやめたらしい。どうやら、この学校の髪型に関する規則は男女を問わないらしく、男子でも地毛ストレートなら特に引っかからないようだ。校則の抜け穴とでも言おうか、それに気づいた目ざとさに舌を巻く。

「髪に関しては本当にそれだけ。この顔だって生まれつき。自然体でいるのに、なんで色眼鏡で見られなきゃいけないんだよ。誰にも迷惑かけてねーのに」

 ヨスガはやるせない気持ちを吐き捨てるように言い、そっと目を伏せた。長いまつ毛が影を落とす。きっと過去になにかあったのだろう。だが、それは聞いてはいけないことのような気がした。

 人と違うものや優れているものを持っている人間に対して世界は厳しい。目立つ人間には目立つ人間なりの苦労があるということだ。

 きっと、モブキャラ同然に生きてきたユカリには一生実感できないだろう。それでも友人として、少しでも彼の心が軽くなるように寄り添える人間でありたいと思った。

「世知辛いなぁ……ヨスガはヨスガなのにね」


     *


 さらに数日後。夕日が差し込む空き教室には、今日も穏やかな時間が流れている。

「ユカリー」

「んー?」

 いつものように教室の奥で座り込んでいるヨスガが、机に向かうユカリの背中に向かって呼びかけた。

漫画それ、完成するのいつ?」

 軽い気持ちで訊ねたのだが、ユカリにとっては痛いところを突かれたのだろう。それまで忙しなく動いていた手が止まる。

「わかんない……」

 ユカリは一瞬言葉に詰まってから、がっくりと肩を落とした。

 描き始めたときは謎の自信に満ち溢れていたが、次第に現実をわからされてしまうのだ。

 思いついたまま描いているため、展開は行きあたりばったり。無理やり先へ進めようとすればするほど迷走する。描いても描いても終わらない。話の着地点が未定なのだ。ゴールのないマラソンをしているようなものである。

「正直、描き上げられる自信がない。……私、これまで一度も作品を完成させたことないから」

 振り向いたユカリの表情は曇りきっていた。どう見てもスランプだとわかる。

「えー、未完のままとかもったいないよ。オレ、最後まで読みたい。ユカリなら描けるって」

 結末まで描いてくれるだろうと、ヨスガは信じていた。毎日コツコツ描き続けているユカリならきっとできるはずだから。

 ヨスガはまっすぐユカリを見る。それはこれまでに見せた儚さも憂いも無邪気さもない、力強く澄みきった眼差しだった。

「どうしてそんなができるの。私、そんなすごい人間じゃないよ。続きを読みたいって言ってくれたのは嬉しいけど、自己満足の域にすら辿り着けない描き手に期待することないんだよ」

「いやなんでって、それを最初に向けてきたのはオマエだからな?」

 相手の綺麗な部分だけを無邪気に信じる瞳。転校初日、職員室で視線を感じて振り向いた時に一瞬だけ視界に入ったそれは、濁った目で見られることに慣れきっていたヨスガにとって衝撃だった。……しかしユカリはピンと来ていないのか、怪訝そうな顔をしている。

「とにかく、続きが思いつかないならオレも手伝うから。できてるところまで読ませてくれ」

 そう言うと同時に立ち上がると、机の上に広げてあったスケッチブックを手に取った。


 それから十数分後。ぱたん、とスケッチブックを閉じる音がして、ヨスガが軽く息をついた。

「こんなに描き進めてたのか。すげぇな……てか絵、上手っ。黒い鉛筆だけでこんな描けんの?」

 感嘆の声を漏らすヨスガ。鉛筆の濃淡で立体感を表現することに苦心していたため、ピンポイントで褒めてもらえたことをユカリは嬉しく思った。

「あと、このフレーズ好き。『このひとときに、なにこいねがう?』ってやつ。ユカリなら何を願う?」

「え、私? 漫画家になりたい……って言いたいところだけど、一作も描き上げられない人間が言うことじゃないか。そろそろ進路とか真面目に考えないとだし、こういう子どもっぽい夢は捨てるべきだよね……」

「もしもの話に萎縮する必要ないだろ。それに、こういうのこそ、子どもっぽくてくだらない願い事を考えるのが楽しいんじゃん。プールの水をソーダゼリーに変えてみたい、とかさぁ」

 ユカリは校舎裏にある二十五メートルプールを思い浮かべ、真夏のキラキラした水面を想像してみた。しっかり固めて上を歩くのも、ゆるめに作って食べながら泳ぐのも夢がある。

「それは……たしかにちょっとワクワクするな」

 くすくす笑うユカリ。ヨスガはそれを微笑ましそうに眺めながら呟く。

「それに、オレのホントの願いはもう叶ってるし……」

「ん? なんか言ったか?」

「いや、なんでもない。そうだ、今から火球が落ちた場所、見に行かね? なにか思いつくかも」


     *


 二人は自転車を走らせ、先日の火球が落下した山の近くまでやってきた。

 なんの装備も無しに山に入るわけにはいかないため、丘の上にある公園から落下地点を観察する。衝突時に小規模な山火事が起きていたらしく、そこだけ山肌に焦げた木々が点在していた。人が住んでいる場所ではないため、とくに被害はなかったようで、鎮火した後に研究機関が隕石を回収してそのままになっている。

「さすがにあそこまでは行けねーな」

「そうだね」

 ヨスガは山の反対側に目を向けた。高台になっており、その向こうには薄明の空と二人が住む町の景色が広がっている。

「見て、空めっちゃきれー」

 ヨスガが歓声を上げる。こんなに広い空を見たのは初めてだった。前に住んでいた街の空は、いつだってビルやマンションで切り取られていたから。

 日没直後の空は、外国の綿菓子のようにカラフルで甘い色のグラデーションが広がっている。

「ほんと、すごく綺麗」

 ユカリも夢のような空模様に瞳を輝かせた。じっくりと空を見上げたのは、あの流れ星の日以来だ。そのときに負けない、美しい空だった。

「地球最後の日に見る景色はこれがいいや。安らかな気持ちで最期を迎えられそうだし」

「縁起でもないこと言わないでよ」

 ヨスガのなにげない発言に反射でツッコミを入れるユカリ。だが、数秒後には何か思いついた様子てぶつぶつ喋り始めた。

「……いや、待って。これ使えるかも。ええっと……ラストシーンで、村が消滅する規模の隕石が落ちてくる、なんてどうかな……」

 欲に走った村人と、無計画に力を使いすぎたひよっこの神様に罰を与えるため、もっと上の位の神様が怒り、村ごと滅ぼそうとするのだ。ソドムとゴモラのように。こんな欲にまみれたクソみたいな村、滅んだって構わない。それならいっそ、全部リセットしてやり直したい。願いの叶う欠片はあと一つ。主人公が願ったのは、「仲良くなった神様を人間にしてください」というものだった。

「隕石落下によって村は滅び、神様は天に回収されていく。主人公は近隣の街で新たな生活をスタートし、そこに人間として生まれ直した神様が転校してくるところで幕を閉じる。……どうかな」

「ふぅん、いいじゃん。よく考えたらさ、オレらもそんな感じだよな」


「え? そう?」

 得意げにうなずくヨスガを、ユカリはきょとんとした顔で見る。

「え? って……その神様のモデルってオレじゃないの?」

「そうだけど。そこはほら、フィクションだから」

「本当にそうだと言いきれんのかよ。転校してくる前のオレのこと、オマエはなんにも知らないくせに」

「え、まさかほんとに」

 ――天使か神様なの。

 そう言いかけたところで「なーんてな!」と茶化されてしまった。

「……とにかく、ひとまずゴールは決まったし、あとは描くだけ。ヨスガ、本当にありがとう。私、絶対完成させるし、できたら一番に読ませたげるからね」

「おう。楽しみにしてるからな」

 軽い口調だが、屈託のない笑顔からは心の底から楽しみにしていることが伝わってくる。出会った頃はその笑顔ですら眩しくてたまらなかったのだが、今はだいぶその顔の良さにも慣れてきた。

「そういえば、ヨスガのもう叶った願いってなに?」

「え、アレちゃんと聞こえてたの? うーん……ユカリみたいな人と出会うこと、かな」

 ヨスガは昔のことを思い出す。

 一年半前――入学して早々に不登校になった。伸ばしかけの髪や生まれつきの整った顔立ちは良くも悪くも目立ち、周囲に馴染むことはできなかった。学校の治安は悪いというほどではない。だが、どことなく空気が淀んでいることは肌で感じていた。このままだと虐められるかもしれない。そう思うと、なんとなく教室に入れなくなり、そのまま一年程不登校になった。

 そして先月、急に親の転勤が決まり、遠く離れたこの町に引っ越してきた。

 ――今度こそ、新しい環境でやり直したい。

 例の大きな流れ星にもそう願った。

 新しい学校はのどかな雰囲気で、歓迎してもらえたことに安堵しつつも、大勢から話しかけられる機会は久々のため、少し疲れていた。このまま珍しいモノ扱いされたまま、前と同じく周囲に馴染めないまま消耗していくのだろうか――そんな不安が襲い始めてきた頃。

 たまたま逃げ込んだ空き教室で、ヨスガは誰かの忘れ物と思しきスケッチブックを手に取る。中身を見て、絵のモデルは自分だとすぐ気づいた。描かれているキャラクターは自分とは似ても似つかないような儚くて美しい存在だったが。自分をそのように見ている人間がいることに面映ゆい気持ちを覚えながらも、不思議と嫌ではなかった。作者が本当に描きたかったのは、見たままの感動なのだろうと伝わってきたから。

 ずっと自分らしく自然体でいようと心がけてきたヨスガは、その姿を純粋な目で捉えてくれた人がいたことが嬉しかった。

 こんな自分に美しさを見出してくれたユカリには、自分の暗い部分なんて見せたくない。それはささやかなプライドだ。ミステリアスに感じるくらいでちょうどいい。

「なんだそれ……でも、なんかわかる気がする。うまく言えないけど。大げさかもしれないけど、君と出会えて良かったなぁって」

 お互いに心のどこかで、こういう縁を待ち望んでいた。停滞した毎日に一石を投じてくれる存在との邂逅。それは、刹那に大空を焦がす火球のように鮮烈で、一瞬で消える流れ星のようにつかみどころがないものだった。

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流れ星の神様 時坂咲都 @sak1tokisaka

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