覗き見

@smiler

【短編】「覗き見」

――嫌な寒気が走った。


それに伴うように私は飛び起きた。


周囲を見渡し、ベッドの隅に転がっていたスマホを手に取る。


登校までにまだ時間があることを確認した結菜は、一浴びしようと風呂場へ出向き、服を脱いでシャワーを浴びた。


身体と髪を拭いてから、鏡を前にまだ少し濡れている髪を櫛で梳き、軽く化粧を施した。


結菜は身震いした。

それは、決して風呂上がりで寒かったためのそれでは無い。


今朝から感じていた寒気と妙な違和感。


誰かに見られている気がしたからだ。


不気味に思いながらも、朝食を済ませて学校へと向かった。



学校に着き、授業が始まっても尚、その感覚は続いていた。


結菜はとても授業に集中できる余裕など無く、ただまごついていた。


漸くして一限が終わり、休み時間になると、結菜の様子を見兼ねてクラスメートの真奈美が話しかけてきた。


「どうしたの結菜?今日元気無いね」


「うん…実は、ずっと誰かに見られている気がするの。」


「見られてる?…まぁ教室にはこんだけ人がいるんだから別に視線を感じてもおかしくないでしょ。」


「それとも男の視線でも感じるの?」真奈美が茶化すように言う。


「違うの。今日朝起きてからずっとよ。」


「朝からってじゃあ家にいる時も?」


結菜は首を縦に振った。


「結菜、とりあえずここから離れよう。」

真奈美は少し考えてからそう言い、結菜の手を引いて女子トイレへと駆け込んだ。


「ここなら大丈夫でしょ?」


「いや、今もずっと見られている気がする。」


「嘘でしょ!?ここトイレだよ?」

真奈美は息を呑んだ。


三つある個室を真奈美は順に確認した。


「やっぱり私達以外誰もいない。結菜の気のせいなんじゃないの?」


「ううん、気のせいなんかじゃない。ほんとに感じるの。」


次に真奈美はトイレ中を隈なく探した。

結菜が言う、視線の疑念を晴らすかの如く。


壁をつたい、端から端まで。

窓の外、天井に床、便器の中も覗き込んだ。


「そんな所から誰が見てるって言うの?」

結菜はさすがに指摘せずにはいられなかった。


「あんたが誰かに見られてる気がするって言うから。でもやっぱどこにも誰もいないよ。」


「一体全体どこから見てるって言うの?」

真奈美は結菜に尋ねた。



そう聞かれて、結菜は"あなた'を指差した。

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