11.魔法ゲート

なんとなくイヤな予感がする祐太だったけれど、結局、なにごともなく正面玄関までたどり着いたのだった。


「助かったよ」


リーダーは屋敷を振り返って、


「ところで君らはどうするんだ? 引き返すのか、それともここから──」


「わたしたちは本部にもどります」


ルシルは頭を横に振った。


「ご心配なく、です。いざとなれば、帰る方法はひとつではありません」


リーダーは興味深そうな表情をしたが、ルシルは「詳しくは秘密です」とそれ以上は口を閉ざした。


ザモとダリャが祐太の前にやって来て、


「あらためて礼を言うぜ。ありがとな!」


「初級ダンジョンにしてはなかなか面白かったわね」


というわけで、三人は立ち去った。


「では戻りましょう、ユータ」




来たときと同じ迂回路を引き返そうとして、すぐにしもべスライムの群れに行きあたった。


「さっきはこの場所にいなかったのに……。いつの間に」


柱の陰から顔だけをのぞかせて、祐太はつぶやいた。


廊下のずっと奥までしもべスライムが埋め尽くしている。さらに数を増しつつある。


(人型は見当たらないけど……)


いくら弱っちいスライムでも、この大群で襲ってこられたら、こっちはひとたまりもないだろう。それに、万が一、色違いの毒スライムがまざっていたら……。


「こんなことは今まで一度もありませんでした。まったくもって不思議です」


ルシルはブツブツ言いながら、難しい顔して考えこんでいる。


迂回路をさらに迂回するルートが見つからないのだった。オペレーションルームに戻るルートは、どこもスライムでいっぱいだ。


「……しかたありません。他のゲートを使いましょう。気がすすみませんが、それしかありません」


「他のゲート?」


祐太は思わず聞き返した。


ルシルによると、屋敷内にはオペレーションルーム以外にも『魔法ゲート』が複数あるという。


「他のゲートから本部へ戻れるってこと? なんだ……。場所は分かるの?」


「以前、一度だけ使ったことがあります。覚えているのはその一カ所だけです。少し遠いですが」




数分後、二人は階段の踊り場にいた。


気味の悪いモンスターのはく製が飾ってある。


ルシルがはく製の口の中に手を突っ込んで、中のレバーを引っぱると、足もとで音が響いた。


壁面のパネルが奥に下がって、小さなトンネルの入り口が開いた。


「これが魔法ゲート?」


「いえ。これはこの屋敷に昔からある隠し通路です。ゲートはもっと先です」


隠し通路はきわめて狭く、幅が一人分しかない。


ルシルはためらう素振りもなく足を踏み入れた。祐太はあわてて後につづいた。




それからどこをどう歩き回ったものか、さらに数十分後、二人はなぜか屋根の上にいた。


「や、やっと着きましたっ。この下です!」


屋根タイルにしがみついたまま、ルシルが言った。


風が強い。


天窓のひとつが開いている。


「こ、こんなところっ?」


同じく屋根タイルにしがみつく祐太は、慎重に天窓に跳び移った。


窓枠に手をかけて、先に部屋に飛び降りる。


屋根裏部屋だった。


粗末なベッドがひとつだけ置かれている。あとはガラクタの山と、蜘蛛の巣ばかり。ホコリっぽい。


祐太は屋根裏の暗がりにじっと目を向けた。


「スライムは……いないみたいだ。よかった」


ホッとしたのも、つかの間。ガラクタの間に無言で立つぼろ切れに気づくまでだった。


たれさがる蜘蛛の巣の向こうから、赤く光る点が二つ、こちらを見つめている。


祐太は後退あとずさりして、天窓から降りてきたルシルとぶつかった。


ムギュッ!


「ヒャア!? ちょ、ちょっと!? 何してるんですか!? そんなところにいたら──」


ルシルをおんぶしたまま、祐太は暗がりを指さした。


「……あれ!」


うはっとルシルが息をのむ声が聞こえた。数秒後、祐太の頭上で青い光が輝きはじめ、屋根裏全体を照らし出した。


ルシルの杖先で、青く発光する球体がクルクルと回転している。一秒か二秒の後、その球体から魔力が発射された。


光線がぼろ切れごと人型をつらぬき、背後の壁に穴を開けた。




(……カッコいい!!)


祐太は感動した。


初めて見るタイプの攻撃魔法。師匠が使うところも見たことがない。自分が使う魔法ボールとはえらい違い。


杖先から魔力を放つのではなく、青い球体から放たれる。それが、とにかくクールだ。


それに威力もすごい。頭部をうちぬかれた人型は、人事不省のままユラユラ揺れている。


こいつ、ひょっとして待ち伏せしてたんじゃないか? ふと、そんな疑問が祐太の頭の中をよぎる。


けれども、とにかく今はそれどころではない。


「早いとこ、脱出しよう。ゲートはどこ?」


ルシルは無言のまま固まっている。


「どうしたの?」


ルシルはすまなそうに穴のあいた壁を杖で指して、


「……壁ごとふきとばしてしまいました」


「ええっ!?」

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