第6話 初対面

 その日、私は王室に呼ばれました。


「初めまして、サチアさん」


 私の前に座り、ニコニコと品の良い微笑みをしているのはこの国の第一王子。


 金の髪を靡かせ、蒼い瞳。

 まるで絵本の中の王子様のような、完璧な容姿。

 ……事実、王子様なんですけれど。


 年齢は私よりも、少しばかり年上に見えますわ。

 つまり、16、17くらいですわね。


 これまでに遠巻きから、お姿を拝見することは幾度かありましたが、こうして実際にお話するのは初めてですわ。


「え、ええ。は、初めまして」


「……体調が優れないのですか?」


「い、いえ。そ、そんなことはありませんわ」


「……本当にそうですか? 口調が辿々しいですが……?」


 それはあなたが輝いているから、相対的に私自身が下賤に感じてしまうからですわ。

 そんなこと言えませんけれど。

 

「んんッ、失礼いたしました」


「いいえ、とんでもない」


「それで……今回はどのような用件ですの?」


「聞いていないですか? 僕と婚約して欲しいんですよ」


「……冗談だとおもっていましたわ」


 まさか、第一王子が本気で私と婚約したがっているなんて。

 傷物令嬢になってしまった私に対する、お父様なりの慰めだとおもっていましたのに。


「この燃え盛る恋の焔は、間違い無く本物だよ」


「で、ですけれど、どうして私なんですの? 私は貴殿の弟、第二王子に捨てられた傷物令嬢ですのよ?」


「それの何が問題なんだい? 好きになった相手の立場を気にする人もいるけれど、僕はそんな矮小な人物じゃないよ」


 第一王子は私の手を、そっと握ってきます。


「僕は君のことが好きなんだ。理由なんて、存在しない」


「あ、あわわ」


 なんて情熱的なプロポーズ。

 ですけれど────


「……ごめんなさい、少しだけ考えさせていただいてもよろしいですか?」


 以前、私は同じくらい情熱的なアプローチを頂いたことがありますわ。

 その相手は……忌々しき第二王子。


 私と第二王子が初めて出会った時、第一王子と同じくらい情熱的なアプローチをしてくださいました。

 ですけれど、結果は……婚約破棄。


 王族の方からのご好意を無下にするのは、大変痛ましいです。

 ですけれど、アプローチが情熱的であればあるほど、私の心は引いてしまいますの。


「もちろん、構わないよ。初対面の相手と婚約するだなんて、そんなの急に決められやしないだろうからね」


 第一王子はシュンっとしてしまいましたわ。


「でも、これだけは覚えておいて。キミの心を、必ず手に入れて見せるから」


 第一王子は勇しく、ウィンクをしました。

 通常であればキザな行いだと糾弾するのですけれど、第一王子の淡麗な容姿と相まって実に似合っていましたわ。


「ふふ、期待していますわ」


 僅かに挑発して、私はその場を去りました。

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