第2話 攻撃手段の確保
初めてダンジョンに潜った日から5日が経った。今だ攻撃手段を見つけることが出来ずにPTの斡旋を受けることが出来ていない
一日2Gで買える、りんご一つで食いつなぎ、掃除などダンジョンとは関係のない仕事をこなし日々を生活していた
「はぁ・・・どうするかな・・・」
今日も買いもしない武器屋を冷やかしだ
「にいちゃん、毎日毎日きて買いもせずに何してんだよ」
流石に顔を覚えられてしまったのか、店主の男性が声をかけられてしまった
「あっ・・・すいません。武器が欲しくてでも高くてどうしようもなく・・・」
「そうかい、手持ちはいくらだ?」
「えっと・・・151Gです」
「ふ~ん・・・このボロボロのスリング売ってやろっか?」
正直スリングでどうにかなるか分からないが、ないよりはましだ
「いいんですか!?」
「あぁ、だがいつ壊れるか分かったもんじゃねーぞ?すぐに壊れたとしても文句は言うなよ?」
「い、いいません!買います!」
毎日店先にきて邪魔だったのか、店主の男性は3割引きほどの値段でスリングを売ってくれたのだ。これで僕にも攻撃手段が整った
スリングなら石を拾っておけば玉になる為に、弓やクロスボウよりも経済的だ。その分威力がどうかは僕次第だが、なんらかの役には立つはずだと手に入れたスリングをみて思う
1日をスリングの練習にあてて、3日目にはギルドへ2度目のPT斡旋を行って貰った
◇
「じゃあよろしくな、俺はダンジョンに入るのはこれで2度目だ。一応この7隊を率いることになっている戦士職のアルトリウスだ、アルと呼んでくれ」
「私はカナディア教会所属のミラです。回復魔法は一度だけ使えます。今回が初めてのダンジョンになります」
「剣士のバーツだ、ダンジョンは初めてだ」
「魔法使いのノエルです。魔法は霜渡り、攻撃手段はスリングを用います」
「斥候のトーマっす」
今回のダンジョンへ入るPTが集まった。僕の魔法を言うと、神官のミラだけが顔を歪めるのが分かった為、魔法についてはみなさほど詳しくない様だ
約1週間ぶりのダンジョンとなり、受付でダンジョンに入場報告を終えるとダンジョンへと足を進める
先頭はアルとバーツだ。その後ろを僕ら後衛と鍵開けなどがメインの斥候のトーマ
今日は何としても2Gは稼ぎたいものだ、全財産を叩いたために丸一日何もたべれていない
30分ほどダンジョン内を彷徨い歩くが、今回は魔物に出会う気配がなく前回よりも更に深くに潜っていくことに
戦士や剣士は鎧に小手などの装備品をつけている為に、荷物は基本後衛の僕らが持つことになっているが、深い階層まで行くつもりがないために、僕だけ5人分の水をバックパックに背負っている
「・・・引き返しながら、違う道をいくか」
「まかせる」
前衛職の二人が方針を決め、魔物に出会う事がない為に引き返す判断をし別の道で魔物を探すようだ
ダンジョンの目的は富や栄誉だが、僕らの直近はレベル上げだ。回復魔法の回数がきまっている為に、一日なんども戦闘はできない
なら、毎日少しでも戦闘をして経験値を稼ぎながら強くなっていくしかないのだ
ここのダンジョンはレベル3が5人集まれば攻略できると言われている、比較的簡単なダンジョンと言われているが僕ら新人のレベル1の冒険者には攻略というのは遠くに聞こえる
「・・・敵だ」
剣士が敵とエンカウントした事を静かに知らせる
僕もスリングを手に持ち、石を一つ用意しておくと。通路の奥から大ムカデが1匹現れた
戦士と剣士は前にでると敵を斬りつけていく
ウネウネと動く体に、伸縮された体から突進され傷を負っていく戦士と剣士
様子をみていたが、このスリングでどこまで戦えるのか疑問に思っていた為に1発大ムカデに放つことに
大ムカデ額目掛けて、スリングを名一杯振り絞った一撃をとばすとコキンと音とともに大ムカデの額に生えている1本の角を折ることができた
「おっ」
思った以上の威力が出たのか当たり所が良かったのか、その一撃で大ムカデは少しよろめくのが見えた
もう一発撃ちこもうと思ったが、その隙に剣士と戦士が大ムカデにトドメを刺して、大ムカデは絶命した
その場にダイノジで倒れこむ戦士と剣士
「魔法使い、水を頼む」
戦士に水を要求され、バックパックにある水筒を渡すと、無言で剣士を手を出してくるので同じように渡す
「あの・・・どちらを回復したら?」
僧侶が一度きりの回復を悩んでいると
「バーツ、お前どうだ?俺はろっ骨にくらっちまったが」
「・・・俺は大丈夫だ」
「そうか、僧侶悪いが俺に回復かけてくれ」
僧侶が回復の呪文をかけている間に
「ラッキー、こいつの巣で宝箱発見!」
斥候のトーマが近くにあった、大ムカデの巣で収穫品をてにれていた
僕は大ムカデの死体から散らばったお金を集める。魔物は死ぬ間際に金貨や銀貨なりをぶちまける、どこから出ているのか不思議だが冒険者の立派な収益だ
大ムカデの死体の周りに70Gが転がっていた為に、全て拾い集める。こういう雑務も後衛職の仕事の一つだった
そんな後処理をしていると、トスンと音が聞こえるとともにバタンと人が倒れる音が聞こえた
音のありかを探ると、宝箱を見つけたと言っていたトーマが血を流して倒れている
「えっ、トーマさん」
僕の掛け声に、戦士たちも気が付いたのか斥候のトーマに視線をやっている
近づき、背中越しから正面をみると喉に矢が刺さり倒れていた
「わっ!?」
少し声が漏れて驚くと、戦士たちも様子をみていたがこちらに近づくと
「罠か・・・」
「死体は連れて帰れない」
「蘇生費用、積み立ててないだろうしな。死体回収屋に任せておくか、こいつの身よりの者が用立てする事を祈るしかないな」
戦士と剣士はそう結論づけた
ダンジョンで死んでも、魂は肉体に縛られ当分の間は復活の魔法を使うことにより生き返ることが出来る。ただ費用が10000Gとバカ高い為に初心者冒険者はまず無理な金額だ
トーマの死体から矢を引き抜き、いずれ使う可能性があるクロスボウ用に回収し、開いた宝箱の中から20G手に取る
たった20Gの為に命を落とすのは勿体ないな・・・
トーマの死体を見ながらも、感情のこもらない同情をしてしまう。次は自分がこうなってしまうかもしれないからだ
戦士たちの休息が終わり、僕らは帰還をすることになる。迷宮に潜り50分の出来事だ。
来た道を戻り、入口まで残り10分というところで大ネズミが現れた
「くそっ!きたときはいなかったのによ!」
「・・・やるしかない」
戦士と剣士は剣を抜き、戦闘体勢へ
大ネズミ1匹だが、消耗している僕らにとっては強敵だ
その事を戦士も剣士も分かっている為に、積極的に攻めようとしていないのが後ろからみていて分かる
大ネズミも仕掛けてこない二人へ意気揚々に突進してくると、その攻撃に剣士が吹き飛ばされた
「バーツ!おら!」
吹き飛ばした剣士をそのまま狙い続ける大ネズミに戦士が、追撃を喰らわすが一人ではそこまでのダメージを与えている様子ではない
僕もスリングで攻撃を試みるが、オオムカデの時の様な一撃は繰り出せないでいた
剣士が動かなくなると、次に大ネズミは戦士へと襲い掛かる
盾でガンガンと防いでいるようだが、徐々に戦士の動きが悪くなり始めるのを感じる
「ど、どうしましょう・・・うわーーーーー」
隣にいた僧侶が、気が動転したのか一人走って入口の方へ向かっていく
「お、おい!くそ!魔法使い、魔法だ!」
戦士は僕に助けを求めるが、僕の魔法は僕が移動する為だけにあるもの・・・人を助けることは出来ない
首を横に振ると、スリングでの攻撃を続ける
とうとう戦士の盾が砕かれて、戦士は大ネズミの攻撃を体で受け始める
「ぐっ・・・おら・・・」
力ない攻撃は大ネズミに当たりもしない
その空を割いた攻撃を躱すと同時に大ネズミは、戦士の首をかみちぎった
・・・ここまでか。霜渡り
見捨てることは躊躇った為に、最後まで戦うときめていたが戦士がやられた今一人では大ネズミに勝てるわけもなく撤退をする事に
深淵の中に一度姿を隠すと、落ち着きを取り戻す。この中は僕だけのセーフティーエリア、地上では大ネズミが姿が消えた僕をみて驚いた表情が切り取られている
移動先を決めると、浮上するかのように地上へ姿を現す。視認先までしか移動できない為に移動距離はせいぜい10mのもんだ。それでも落ち着ける時間を確保できるのはいいことだった
後ろから大ネズミは僕を襲ってくる気配はない。恐らく戦利品の戦士と剣士を貪る方へとシフトしたのだろう
だが、悠長にする余裕はない。ダンジョンで一人という恐怖心は襲ってきていた
足は走り出していた
薄暗い通路を駆け抜けていくと、通路の先でしゃがみ込んでうずくまっている逃げ出した僧侶に出くわした
僧侶は足音に反応したのか顔を上げるんので目が合うと
「あっ・・・違う・・・見捨てたんじゃなくて・・・戦士さんは・・・」
「死にました、ここは危ないですよ」
入口まで残り5分ほど、通路先は少し明るく外の光が差し込んでいる
僧侶の前で走っていた足を緩めていたが、またそのまま走りだそうとすると
「ま・・・まって!足が・・・」
そう言われるので足を見ると、片足の靴を脱ぎ赤くはれている様子だ
くじいたのだろうか、だが這ってでも外を目指した方がいいと思うのだが・・・僧侶が何を考えてるのか分からない
「あなたは僕らを見捨てました。僕もあなたを見捨てます、それでは」
それでもここはダンジョンの中、冷酷に生きて行かなければ自分の命が危ぶまれてしまう
「お、お願いします・・・なんでもするので・・・たすけて・・・」
その見た目同様にか細い声で懇願してくる様子に、僕は僧侶が今回初めてダンジョンということを思い出し一つの案が浮かんだ
「・・・分かりました。今のなんでもするという言葉忘れないでくださいよ」
「・・・はい」
僧侶は僕の言葉に青ざめた顔をしたが、了承するので、肩を貸すと二人でダンジョンを脱出するのだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます