瞬間移動がやりたくて~迷宮編~

@streatfeild

第1話 僕は何者でもない

「おい、霜渡りいくぞ」


「はい」


新人冒険者が集まるこのPTで僕は霜渡りと呼ばれている


僕が霜渡りの魔法しか唯一使えないからだ


霜渡りの魔法、視認できる場所へ瞬間移動することができる大層な魔法のように聞こえるが、使える物は魔法使いなら多いが数多くの魔法からその魔法を選んで使うものは少ない


だからなのか、その魔法をわざわざ選んだ僕を蔑んだ呼び方が霜渡りってわけだ


魔力が高く生まれた者は魔法使いとしての才能を見出され、どこかしらの教えを受ければ魔法が使えるようになる


何を取得するかは、選択方式だ。自分の体の中に眠る魔力と、使いたい魔法を結び付けると使用できるということだった


初心者魔法使いは使い勝手の良い、魔法矢や火矢のような攻撃に使える魔法を選びことが大半だが僕は霜渡りを選んだ・・・というよりも選ばざるを得なかった


冒険者になる前に死の淵から生き延びる時に、僕の中の魔力は目覚めたと同時に霜渡りという魔法が僕の魔力を結びついてしまった。そのおかげで命は助かったが、これからの冒険者ライフをこの魔法とともに生き延びなければいけなかった


「敵だ!」


先頭にいる鎧を身に着けた男が、敵との接触したことを知らせる


それに並びもう一人の剣士も前にでると、僕と隣にいる僧侶の女性は一歩下がる


敵を確認すると、大ネズミだ。体長1Mの大きなネズミが3体のそのそと現れた


剣士と戦士が戦っているのを後ろから見守る事しか僕には出来なかった。初心者で魔法使いなら魔法を1発、よくて2発行使と元から戦力としては低い所、僕はそれすらも叶わない。ただ移動する為だけの魔法を2回だけ使えるのだ・・・現状において役立たずも甚だしく、蔑まれて呼ばれるのも仕方ないと思う


僕が卑屈になっている間に、2人は大ネズミを倒し切ったが生きも荒く、怪我をしている様子だった。戦士を僧侶の女性が一回だけ使えるという回復の魔法をかけると、戦士の傷は軽くだが治ったように見えた


「・・・一回の戦闘でこんなにかよ」


「だな・・・俺はもう動けねぇ」


「私ももう回復は使えません」


ダンジョンに入り20分の出来事だった。今朝、冒険者協会から斡旋されて集まったPTだったが、みな新人で初めてのダンジョンとなり現実を受け止めている


「帰るか・・・」


ほどなくして戦士がそう告げると、剣士も胸に手を当てながら歩き出す


結局僕は何もすることもなく、戦士たちの荷物持ちをするだけになっていた


往復1時間の出来事だったが、みな疲弊しダンジョンから出た時にはその場に倒れこんでしまった


「・・・僕、報告してきますね」


「おう・・・頼むわ」


みなから離れ、ダンジョンの側に立っている建物へと足を運ぶ。ここはダンジョンを管理している冒険者ギルドの一つだ


「すいません、ダンジョンから戻ったので報告を」


「はいはい、なんて名前だい?」


「8隊です」


「あいよー・・・」


受付の中年の女性は、紙に僕らが帰還したことを記すと報告は終わった


皆が倒れているところへ戻ると、戦士と僧侶が座り込み剣士の姿はない


「報告終わりました」


「おう、ご苦労さん」


「あの、剣士さんは」


「あいつならPTを抜けてったぜ、命をかけてまでやる事じゃないんだとよ」


「そうですか」


「あのよ、悪いんだけどお前もPTを抜けてくれないか」


戦士の言葉に僕は動揺しない、そういわれると分かっていたからだ


「・・・はい」


「あの、神の祝福があなたに訪れますように」


僧侶の女性が僕に祝福の言葉をつげると同時に僕はその場から水に包まれるように消えた


深海に落ちていく感覚だ。深淵を移動し次に地上に戻る時には違う場所に現れる、これが霜渡り。僕が深淵を移動しているときは地上の動きは止まっている


少しの移動距離だが、あの場からすぐに離れたかった。それに一日2回しか使えないのだから、ダンジョンに潜らないのなら使わないと損だ


ダンジョンから離れ、街の大通の武器屋を見て回る。攻撃手段が欲しいのだ、スリングや弓、クロスボウどれかさえあれば自分も戦える


体格が良くなく、腕力が乏しいために剣や斧といったものは使えないだろうが、遠距離武器ならそれなりに使える自信がある。


お金がない為に、冷やかしで見て回るが・・・スリングで200G、弓で500G、クロスボウだと700Gもする


現在手持ちは160G、一日20Gあれば生きて行ける為にクロスボウを買うのに大金が必要となる


盗賊の襲撃から住んでいた村を追われ、両親と住む場所を失くした自分がたどり着いた街で出来る事は冒険者活動だった


その余儀なくされた冒険者活動でさえ、霜渡りしか使えない為に危ぶまれている


冒険者協会がPTをただで斡旋してくれるのは、新人の間に2回だけ。僕は次の一回でなんとしてもPTの人に気に入られなければいけなかった


一通り、冷やかしを終えてギルドが運営している宿舎にたどり着く


部屋番号は12


6畳の部屋に4人の相部屋だ。2段ベッドが2個左右に置かれ、真ん中にテーブルがある質素な部屋だ


だが、現在この部屋に住んでいるのは僕ともう一人の男のみ


カチャリと部屋のドアをあけると、テーブルについて食事をとっている男がいた


「おかえり、ノエル。どうだった最初のダンジョンは」


「ただいま、トール。駄目だったよ、役に立てずにPTを追われちゃった」


「あちゃー、そうか。それは仕方ないさ、次がんばればいいんだからよ!」


明るく、愛嬌のある顔のトール。違う街からダンジョンで名を上げるためにこの地にきた同じ新人冒険者だ。ギルドの新人養育コースで戦士職を受講していた


「俺も明日初めてのダンジョンだ!力いれねーとと思って肉くってんだ!お前も元気にだすために食えよ」


「う、うんありがたく頂くよ」


元気にガツガツと食べる姿を見て、これからの冒険者生活に不安に襲われそうになっていたが、心なしかトールを見ると元気になった


だけど、僕がトールと食事をしたのはこれが最後のことだった。次の日トールはダンジョンに行くと12号室に戻ってくることは2度となかったのだ

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