白兎と八葦荘の秘密〜灰崎ゼミreport.08〜

おくとりょう

顛末①:はにかむ姫はひだまりの中

 ただのゼミ旅行のはずだった。それなのに。まさかこんなことになるなんて。


「――ごめん」

 パチパチとはぜる暖炉の音。それにかき消されそうな乾いた声。つむぐ唇は青ざめて、普段から白い肌は、雪のように透き通って見えた。夜の水面のような黒髪を暖炉の炎が紅く照らす。ぴょこっと伸びたウサ耳が戸惑うように静かに揺れた。

 僕らのマドンナ、お姫先輩。ただ、こちらを振り向くその姿は真っ赤な血に濡れていて……。


 サイコバニー。

 ボクは彼女のあだ名のひとつを思い出し、ツバを飲む。怖いはずなのに目をそらさすことはできなかった。

 濡れたまつ毛が部屋の明かりに煌めいた。その奥で黒い瞳が何だか少し潤んでいて、ふと「キツネさんっていつもヤバイ女が好きですよね」と誰かに言われたことを思い出した。

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