【短篇】追放ざまぁされる無能パーティのリーダーに転生してしまったんだが、なんで追放直後に記憶が戻るんですかね……
笠原久
第1話 追放した直後に記憶が戻る不具合
「付与術師クート! お前をパーティから追放する!」
「な、なぜだアッシュ!? 俺たちはこれまで、協力してやって来たじゃないか!」
「黙れ! お前のような無能などSランクパーティに昇格した我が『黄金の翼』にふさわしくない! 所詮、初級魔法しか使えない男だ!」
「た、確かに俺は初級魔法しか使えないが――」
「そんなやつが本当にSランクパーティに相応しいと思っているのか? 結成メンバーだからという理由で入れていたが……これ以上、お前をパーティに在籍させておくことはできない! 出ていけ!」
毎度おなじみ「追放ざまぁ」の導入シーンだ。「追放ざまぁ」について知らない人はいないと思うが、一応説明しておこうか。
文字どおり、「追放ざまぁ」は有能な主人公がアホなパーティ(主人公の実力を理解できない)から追放され、新たな人生を生きていく物語を指す。
たいがいは新しい仲間と冒険し、主人公は大活躍して名声を高める。
一方、追放したパーティは主人公がいなくなったことでガタガタになり、どんどん落ちぶれていく……。
冒頭の付与術師クートもそうだ。
彼は支援魔術――つまり他者を強化するエキスパートなのだが、ほかにも敵の弱体化や弱点付与などもこなせる超有能な男だ。
ところが、無能パーティのリーダー、アッシュくんはそこがわかってない。
「お前みたいな無能なんかいらねぇ!」とクートを追放し……結果、悲惨な末路を迎えることになる。
さて、ここで問題だ。もしあなたが無能パーティのリーダー、アッシュくんに転生してしまったら……どうする?
普通に考えたら、追放ざまぁにならないよう慎重に立ち回ることだろう。
一番簡単なのは、そもそもクートと同じパーティに入らない、もしくは入っても追放イベントを起こさない。これが最適解なのは誰が見てもわかる。
俺だってそう思う。
実際にアッシュに転生した俺としても……そりゃあ、できることなら追放なんてしたくない。自分がむごい結末を迎えるとわかっていて、なんで追放なんてアホなことができる?
だが、残念なことにクートの追放は回避できないのだ。なぜなら……もう追放しちゃったあとだからだよ!
「なんで、決定的なやらかしのあとで記憶がよみがえってくんだよ……」
俺は宿の一室で頭を抱えていた。
いや、ぶっちゃけ違和感はあったのだ。デジャヴとでも言おうか、クートに追放を宣言する際、あれ? なんかこのやり取り前にどっかで見たような……? と、なんか頭に引っかかっていた。
だが、結局なにも思い出せないままクートを追放してしまい、宿の一室に戻って――やっと記憶が復活した次第……!
「こういうのって普通、幼少期から記憶が戻るもんじゃないのか?」
少なくとも、よくある「悪役転生」なんかだとそうだ。幼い頃、「これ、前世で見た◯◯の世界だ!」と気づき、自分が悪役に転生したことを悟る。
そして自分の身に起きる悲劇を回避すべく行動する――それが王道のはずでは?
追放したあとで記憶が戻っても、もうどうしようもないんですが?
なにせ傷心のクートはすでに町を出ている。泣きながら自分にバフをかけて超高速で移動し、今頃は国境を越えている頃合いだろう。
「どう考えても追いつけねぇ……っていうか、さんざん無能だのなんだの罵っておいて今さらどの面下げて連れ戻すんだ!?」
ヤバい、ヤバいぞ……! このままでは追放ざまぁされてしまうぅ――!
いや読者的にはちゃんとひどい目にあってヘイト解消しろよって話なんだろうけど、そんなこと知るかぁ! 俺は絶対に悲劇を回避してみせるぞぉ!
そして、俺は一晩中考えた。
俺が――いや、俺たちパーティが惨劇を回避する方法……やはり、一つしかない!
翌日、俺はパーティメンバーを全員呼び集めた。昨日、クートを追放したのと同じ、宿の一階にある酒場を兼ねた食堂だ。三人にむかって、俺はこう宣言する。
「本日をもって、『黄金の翼』パーティを解散する!」
一瞬、間があった。周囲から朝食を食べる人々の喧騒が聞こえてくる。そこへ、
「えぇー!?」
というメンバーの声が響き渡った。
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