サングリア

小坂あと

出会い

第1話「プロローグ」

















「ほら、早く脱いで?」


 静かな声色の中に、隠しきれない羨望を含ませた少女⸺知華子ちかこの言葉に、私は呆れた視線を返した。


「脱ぐ必要ある…?」

「服が邪魔なのよ」

「別に腕とかでも良いじゃん」

「……馬鹿ね」


 嫌に白い指が伸びてきて、私の首筋を撫でる。


「こういうのは、首から行くのが定石でしょ?」


 確かに…私もなんとなくそのイメージを持っていたからそれ以上は何も言えなかった。おとなしく、ブラウスのボタンを二つほど外して首元を露にする。

 知華子は優しい顔で、私の髪を軽く撫でた。


「は、早くしてよ」

「積極的ね」

「さっさと終わらせたいだけだから」


 つれない態度に不満を抱いたのか、軽くため息を吐かれた。だけど、そんなのは関係ない。


「……初めてって、痛いらしいわよ」


 何を思ったのか、憐れみの視線で見つめてきた知華子は、私の腰にするりと手を回して抱き寄せてきた。


「い、いいから早くして」


 ほんとはちょっとビビってたけど、強がってそう返したら、わざとらしく肩をすくませて「後悔しないでね」と私の耳元で囁いたあと、知華子は⸺


「いっ…」


 私の首筋に、鋭く伸びた牙を突き刺した。















「いったぁ…っ!痛い痛いいたいたい」

「だから言ったじゃない」

「こんなに痛いなんて聞いてない!」

「…まだ終わってないんだけど」

「むりむりむり、もうこれ以上はほんとにむり!」

「まだ先っちょしか…」

「変な言い方しないでばか!」


 目と鼻の先にあった綺麗な頬を思わず叩く。その反動で顔を反らした知華子は、また大きなため息を吐いた。


「痛いんだけど」

「ご、ごめん。つい…」

「お互いさまってことで。続き良い?」

「っだ、だめ!」


 また首元に近付いてきたその唇を掌で覆うと、不満げな目線を向けられる。そんな顔されたって…痛いもんは痛い。


「こ…怖いから、また今度でもいい?」

「今度って、いつ」

「今度は今度!」

「だめ」


 手首を掴まれて、目の前に綺麗な顔がずいと現れた。


「今すぐ、吸わせてもらうわ」


 なぜ、この美人の知華子が私の血をここまでして吸いたがるのか。

 突然だけど、時は数時間前に遡る。




 



















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