転校してきた最推しアイドル(休止中)を助けたい
皐月陽龍 「他校の氷姫」2巻電撃文庫 1
第1話 推しが休止して絶望してたら転校してきた
俺の人生終わった。もうダメだ。何もかもがダメだ。ああダメだ。
いや行けるか? やっぱダメだ。終わった。何もかも。
「夏休み開けから表情筋死んでるぞ」
「ああ……誰だっけお前」
「ショックのあまり親友の名前忘れてんのか!? もう十年来の付き合いだぜ!? 同じ幼稚園の飯食って過ごした仲だろうが!?」
「幼稚園はお弁当だっただろ」
「お、覚えてんじゃん」
こんな茶番を繰り広げられる相手なんて一人しかいない。
――
良く言えば幼馴染。悪く言えば腐れ縁。
なんと、幼稚園から高校一年生になった今まで別のクラスになった事がない存在だ。
同性相手にこんな言葉は使いたくないが、運命すら感じてしまう相手である。
「お前、まだショック受けてたんだな」
「当たり前だろ……はぁ」
要にもスマホを突き出して見せる。そこに書かれていたのは――
『【Sunlight hope】リーダー「
という公式アカウントからのお知らせであった。
「それ見せられるの何回目だ? ……俺いつもお前の話聞き流してるから詳しくないんだけど、【Sunlight hope】って最近勢いとかなんか色々やべえって聞くよな」
「語彙力が壊滅的過ぎることと、話聞いてなかったことを堂々と話したのは親友のよしみで許してやろう」
「大体聞き流してるとは言ってもさすがにちょっとは知ってるぞ。『楠七海』ってお前が一番好きなメンバーだろ? リーダーの」
「よくぞ知ってる我が親友よ」
「何回聞かされてると思ってんだよ。自称【Sunlight hope】ファン一号さんよ」
「紛うこと無きファン一号だわ。SNSのフォロワー第一号でもあるし非公式ファンクラブの創始者だわ」
――そう。俺は【Sunlight hope】の熱烈なファンなのである。
基本箱推しではあるが、特に『楠七海』が最推しである。というか『楠七海』に一目惚れした結果【Sunlight hope】推しになった。
「お前、大丈夫だよな。いきなり明日死ぬとか言い出さないよな?」
「……アホか。推しが活動休止するなら
「ふーん。それなら良いんだけどよ」
なんだかんだ心配してくれるのは嬉しいが。これで死ぬほどヤワじゃない。……うん。ヤワじゃない。
「そういえば活動休止理由ってなんなんだ?」
「公表してないな」
「はえー。珍しいな、今時そういうの」
――そう。七海ちゃんが活動休止する理由は公表されていない。殺害予告があったとか噂にはなってるけど、真相は分からない。
「俺に出来るのはグッズを集めて毎日ライブに行きながら推し活して七海ちゃんが戻って来やすいようにする……でもプレッシャーをかけてはいけない。それくらいだな。でも寂しい」
「他のメンバー二人は普通に活動してんだよな。まあそう気を落とすなって」
ほんと、【Sunlight hope】自体が活動休止をしてないことだけが救いだ。
はぁ……推し活しよ。
「そういえば今日転校生が来るらしいぞ」
「なんで急に転校生が来るんだよ。えっ、一年の九月に転校生来る事あんの? 珍しくね?」
「詳しいことは知らんけどな。朝から……ってかさっきから話題なってるぜ」
そういえばやけに教室がざわめいている気がする。その転校生が原因か。
「転校生のプレッシャーやばそうだな」
「女子らしいからな。みんな可愛い子を求めてんだよ」
「へー」
「お前ほんと【Sunlight hope】以外の女子に興味持たねえよな……」
だって転校生が来たところで俺が話せるとは思わないし。どっかのグループに属してたら話は別だけど、俺が話せるの
「お前も俺以外に話せるやつ居たら話は変わりそうなんだけどな。クラスに【Sunlight hope】好きいねえの?」
「居るだろうな。ただ、俺ほどのガチ勢が居るとは思わん。というか居たらこの【Sunlight hope東北限定ライブタオル(五十組限定特別Ver)】を見て話しかけてくるはずだからな」
「あっ、ちゃんとアピールしてたのね」
別にファンに貴賤はないと思う。いくらお金を出したとか、グッズを持っているから偉いとかは思わない。
それはそれとして、ファン一人一人の熱量に差はあるだろう。これを知ってるかどうかである程度指標にはなるのだ。
「ぶっちゃけると俺、【Sunlight hope】ファンと話したら多分嬉しくて一方的に話し続けるから。同じくらい熱量ないとドン引かれると思うんだ」
「なるほどな。それでこの限定タオルをわざとらしくカバンからはみ出して待ってると」
「【Sunlight hope東北限定ライブタオル(五十組限定特別Ver)】な」
「うわめんどくさいタイプのオタだ」
――と、そんな会話をしていると時間は過ぎていき。教室に生徒も増えてきた。
「んじゃ、そろそろ先生来るだろうし席戻るわ」
「おう。達者でな」
「同じ教室だろうが」
いつも通りのやりとり。席へ戻る親友の姿を見送っていると、鐘が鳴って先生が教室に入ってきた。
「皆さんに一つお知らせがあります」
「転校生ですよねー?」
「あら、話が早いですね。そう。転校生が来ます――が。その前に一つ注意事項があります」
注意事項? あれか? あんまり事情を深掘りしないでとかか?
この時期の転校生だしな。色々事情はありそうだけども。
そんな予想を立てるも、先生が黒板に書いたのは予想外のことであった。
「勝手に写真を撮ってSNSに投稿しない。この注意事項はこのクラスだけでなく、全学年でこの時間に伝えています」
先生の言葉に教室がざわめき始める。これあれか。有名人系列か。
芸能人か、最近だと高校生インフルエンサーなんてのも居るし。その辺りかもしれない。
「皆さん、お静かに。……良いですか? こちらは色々な事情を鑑みての事となります。勝手に撮ってSNSに上げるのは犯罪です。もちろん盗撮も犯罪です」
そんな奴早々居ないだろと言いたいが、教室でショート系の動画を撮る人も全然居るのでなんとも言えないな。
「それでは、皆さんが静かになったら転校生を呼びたいと思います」
その言葉にざわめいていた教室がピタリと止んだ。分かりやすいものである。
そして――先生が教室を見てニコリと笑った。
「それでは
先生の呼びかけと同時に扉が開き、一人の少女が入ってきた。
――は? え?
――まず目を惹いたのは、背に伸びるウェーブの掛かった
ちょっと信じられないくらい
特に、その身を纏うオーラ的なものがやばい。冗談に思われるかもしれないが、一般人とは明らかに違う何かがあると一目で分かった。
そして、次にその顔を見て――体を見て。俺は静かに目を閉じた。
「
画面越しに聞き慣れた声を聞いて。俺は意識を落としたのだった。
「せ、せんせー!
―――――――――――――――
あとがき
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