第204話 分身の職業選択
──仮の住まいに戻った私は、やるべきことを一つずつ熟していく。
まずはスラ丸に魔石を食べさせてから、仮眠を取って分裂させた。
これで、スラ丸の数は十匹。予定通りに、六号から十号をダークガルド帝国へと送り込む。
既に七号が現地にいるので、一号との間に【転移門】を繋げて、私は他のスラ丸たちをお見送りした。
「みんな、任せたよ。キミたちが頼りだからね」
「「「!!」」」
スラ丸たちは身体を縦に伸縮させて、『任せろ!』と言うように胸を張った。
彼らは【遍在】を使って分身を増やし、帝国の各地へと散っていく。
後は座して待つのみ。……いや、私も【遍在】を使って、分身のイーシャを帝国へ送り込もうかな。
ルークスは美しいモノに執着しているため、ルチア様を助けた後、そのまま彼女と行動を共にしている可能性が高い。
目立たないルークスを探すよりも、ルチア様を探す方が簡単だよね。
「ルチア様と接触するには──私が、貴族になるとか……?」
皇帝に赤色の上級ポーションを献上すれば、意外と簡単に、帝国貴族になれるかもしれない。
全てをイーシャの身体で行えば、リスクは最小限で済むはずだし、試してみるのも悪くない気がする。
……いやでも、王国の流民が皇帝に謁見して、何かを献上するのって、かなり非現実的かな。
イーシャを貴族にするのは諦めて、貴族のメイドさんで妥協するのはどうだろう?
主人の社交界に付き添って、ルチア様に近付いて、ルークスの所在を確かめて、こっそりと短剣を盗む。
イーシャを貴族にするよりは、現実的なプランだと思えるよ。
「まぁ、身元不明の少女をメイドにしようなんて、そんな貴族は変態だけかもしれないけど……」
ルークスを助けたいという気持ちや、渇きの短剣を渡してしまったという罪悪感。
それらに突き動かされても、私は身体を売ったりしない。分身のイーシャであっても、断固拒否だ。
──と、そんな訳で、身体を売らずにメイドになる方法を考えよう。
「うーーーん……。困っている貴族を探して、恩を売ってみる……?」
例えば、盗賊に襲われている貴族を颯爽と助けた後、『仕事がなくて困っている』と伝えたら、見習いメイドにして貰えるかも……。
この流れで、えっちな業務を求められることは……ない、よね? 恩人だし。
「となると、イーシャの職業とスキルは──」
メインの職業は結界師で、スキルは【対物結界】を割り振ろう。
このスキルは強力なので、本音を言えば本体のアーシャに持たせたい。
けど、貴族が社交界に連れて行きたくなるような、有能なメイドになるには、必要なスキルだと思う。
これくらいの切り札がないと、態々子供の見習いメイドなんか、同行させないよね。
二つ目の職業は、音楽家でいいかな。余興も出来るメイドだと、重宝されるはず……。
「よしっ、スラ丸! 事件に巻き込まれそうな帝国貴族を見つけたら、私に教えて!」
私は【感覚共有】を使って、帝国へと送り出したスラ丸たちに、そう指示を出した。
ここで突然、誰かに背後から抱き着かれて、スリスリと頬擦りされる。
「アーシャさんっ、お一人で何をしているんですの!? お暇ならわたくしと、イチャイチャするべきですわぁ!!」
こんなにアグレッシブにベタベタしてくるのは、身内だとミケかリリィしかいない。今回は後者だった。
「リリィ……。いきなり抱き着かないで。私はやることがあるから、全然お暇じゃないよ」
「やることってなんですの!? わたくしもっ、ご一緒させてくださいまし!!」
「いや、次は私の転職だから、一緒にやるようなことじゃないかな……」
水の魔法使いのレベルをもっと上げて、水属性の新スキルが欲しいと思っていたけど、サウスモニカの街が滅ぼされて、気が変わったんだ。
私にはどうしても、早急に欲しいスキルがある。
それは、自分だけの異空間を作れるスキル、【箱庭】だよ。
誰にも脅かされない安全地帯は、必要不可欠だと思い至ってしまった。
そんな訳で、スキル【情報操作】を使って、水の魔法使いから庭師に転職する。
家庭菜園を作って、水遣りや雑草取りでもやっていれば、レベル上げは簡単なはず……。
取得出来るスキルはランダムなので、後は運頼みになる。村人たちに美味しい野菜を提供して、ついでに辻ヒールもして、徳を積むことにしよう。
「──あら? そういえば、アーシャさん。わたくしが借りている分身には、職業をつけられないんですの?」
「えっ、出来るけど……その場合って、どうなるんだろう?」
リリィのふとした疑問に、私は困惑しながら首を捻った。
彼女に貸している私の分身、ウーシャの職業は、今のところ設定していない。
「わたくしが動かしている状態でも、レベルが上がるなら、アーシャさんのスキルが増えますわよね? 試してみませんこと?」
「デメリットは、特に思い付かないし……うんっ、試そう!」
私が苦労せずに、レベルを上げられるとすれば、素晴らしいことだよね。
早速、どの職業をウーシャに宛がうべきか、考えてみよう。
『聖女』『異世界人』『商人』『薬師』『管理者』『観測者』
『盗賊』『魔法使い』『水の魔法使い』『土の魔法使い』
『風の魔法使い』『光の魔法使い』
アーシャとイーシャに宛がっている職業を除けば、十二の選択肢がある。
新しく増えているのは、薬師と管理者という職業だね。
私は今までに、大量のポーションを作ってきたけど、薬師はリリィが仲間になってから現れた選択肢だ。
より具体的に言えば、リリィがウーシャの身体を使って、沢山のポーションを作ってから、薬師を選べるようになった。
私は殆どの作業を土の人形に任せていたので、研鑽不足だった可能性が高い。
「薬師の職業が取得出来るスキルは、作業工程を短縮するものなので、それなりに助かりますわ!」
「リリィの生前の職業って、やっぱり薬師だったの?」
「そうですわよ! 素材を乾燥させたり、成分を抽出したり、細かいスキルを幾つか持っていましたの」
リリィ曰く、薬師は取得出来るスキルが微妙すぎて、かなり不人気な職業らしい。
ポーションの生産を生業にしている人でも、あんまり選ばないとか……。
まぁ、魔物使いの方が、圧倒的にポーション作りに向いている職業だからね。
アルラウネをテイムすれば、素材を簡単に調達出来る。
コレクタースライムをテイムすれば、【収納】を活用して素材の乾燥とかも、簡単に出来るんだ。仕舞った素材から、水分だけを外に出せばいいからね。
もう一つの新しい選択肢──管理者とは、ダンジョンコアの特殊機能が使えるようになる職業だった。
これで、各ステホにニュースを送ったり、機能を強制停止させたり、強制依頼を発行したり、色々と出来るようになるらしい。私には不要な職業だよ。
「ウーシャも二つ目の職業を選べるけど──」
どれにしようか、とリリィに相談しようとしたところで、フィオナちゃんとスイミィちゃんが、私の家に飛び込んできた。
「リリィっ!! あんたまた、あたしたちの下着を盗んだでしょ!? 返しなさいよっ!!」
「……リリィ、お縄につく」
どうやら、リリィは再犯に及んだらしい。
被害者女性の二人に話を聞いてみると、私が眠っている二週間でも、度々やらかしていたんだとか。
そういうことなら、ウーシャの二つ目の職業は、盗賊にしよう。
リリィの変態行為を許容する訳じゃないけど、どうせまたやるだろうし……レベル上げ、捗るよね。
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