第114話 仲間入り
──私がバリィさんに、決意表明した翌日。
早朝から、彼が私のお店にやって来た。……何故か、ツヴァイス殿下と一緒に。
一目で強者だと分かる護衛の騎士たちを引き連れて、なんだか物々しい雰囲気だよ。ローズとミケは早々に、私を置いて裏庭へ逃げちゃった。
「よう、相棒。昨日振りだな」
「いやいやいやっ、『よう』じゃないですよ……!! なんで殿下がいらっしゃるんですか……!?」
気軽に挨拶してきたバリィさんに、私はあわあわしながら詰め寄った。
「裏ボス攻略に参加するなら、殿下に許可を貰わないといけないだろ? だから、連れて来たんだ」
ツヴァイス殿下の許可は必要だろうけど、それなら私が侯爵家のお屋敷へ赴くべきだった。
どう考えても、態々足を運ばせていい身分の人じゃないでしょ。
私の家には客間がないから、おもてなしなんて出来ないよ?
どうしよう、どうしようと焦っていると、笑顔のツヴァイス殿下に声を掛けられる。
「バリィの相棒がアーシャさんだったとは、とても驚きました。商人ではなく、冒険者だったんですか?」
彼の笑顔は、物凄く白々しいものだった。声色も平坦で、全然驚いている風じゃない。多分、こんな笑顔と声色を態と作っているんだ。
そうじゃないかとは思っていたけど、やっぱり私の情報を集めていたと見て、間違いない。
私は自分から、ツヴァイス殿下の仲間に加わると言い出した。だから、彼は敢えて白々しい態度を見せることで、言外に『貴方を調べていました』と私に伝え、誠意を見せているんだと思う。
これが殿下なりの、歩み寄りなのかもしれない。
……ここまで考えが及ぶ人間か、私を試す意味もありそう。この人、結構怖いかも。
「わ、私は商人です……。その、バリィさんの相棒呼ばわりは、あんまり気にしないでいただけると……」
「お二人の馴れ初めを聞きたいところですが、そう仰るのであれば、本題に入りましょう。とは言え、ワタシはバリィから、『俺の相棒を裏ボス攻略に参加させたい』としか、聞かされていませんが……」
馴れ初め……。別に恋人同士じゃないんだけど、まぁいいや。スルーしよう。
バリィさんは本当に碌な説明もなく、私とツヴァイス殿下を対面させたみたい。
せめて私の方には、一報だけ欲しかったよ。そう思いながら、バリィさんに非難の目を向けると、彼はばつが悪そうな表情で頭を掻く。
「すまん。第一王子派の間者が、どこに潜んでいるのか分からないんだ。ツヴァイス殿下が連れてきた軍団の中に、数人くらいは混じっていても、不思議じゃないからな」
数千人規模の軍団に、一人たりとも間者が紛れ込んでいないなんて、ちょっと考え難い。それは私にも理解出来る話だよ。
「つまり、内緒話を侯爵家のお屋敷でやるのは、危ないってことですか?」
「ああ、そうなる。相棒としては、自分の情報を知る人間なんて、出来るだけ少ない方がいいだろ?」
「そ、そうですね……。気を使ってくれて、ありがとです」
私に一報を入れなかったのは、極力情報が漏れないように、今回の密会を行うため。そういうことなら、バリィさんを責める訳にはいかないね。
私は彼にお礼を言ってから、お店の外に『閉店中』の看板を出して、内緒話が出来る状況を整えた。
ツヴァイス殿下は私に気を使って、バリィさん以外の護衛を外で待機させてくれたよ。
「それでは、アーシャさん。話を聞かせて貰えますか? 貴方がどのように、裏ボス攻略に貢献出来るのか」
「はい、私に出来ることは──」
私が実行可能な九割方の支援。その内容を恙なく、ツヴァイス殿下に伝えたよ。
どうして九割方なのかというと、事前に決めていた通り、【再生の祈り】に追加されている特殊効果だけは、教えていないからだ。
……バリィさんの命と天秤に掛けても、この秘密は教えられないと判断した。
この一線を踏み越えられないことが、私の人間性の本質を物語っている気がしてならない。
前世の自分と比べると、これでも大分マシになったと思うんだけどね。
「──なるほど、アーシャさんの有用性は理解しました。では、肝心の志望動機は?」
「それは、バリィさん……いえっ、相棒を死なせないために!」
ツヴァイス殿下の質問に対して、私は堂々と胸を張りながら答えを返した。
バリィさんが表情を柔らかくして、私を見つめてくる……。ちょっと気恥ずかしい。
殿下はそんな私とバリィさんを見遣り、眩しい光でも直視したかのように目を細めて、小さく微笑んだ。
「羨ましい関係ですね……。是非とも、ワタシも仲間に入れて貰いたいな……」
「え、あの、裏ボス攻略の仲間に入れて貰いたいのは、私の方なんですけど……」
「ああ、それは勿論、歓迎しますよ。早速ですが、アーシャさんの各種スキルの運用方法を決めましょう」
ツヴァイス殿下は表情を改めて、キリッとしながら話を進めていく。
まず、体力と魔力を自動回復させる【光球】は、戦場のあちこちにばら撒くことになった。
流水海域の裏ボスは魔力が無尽蔵で、息切れを狙えないらしい。だから、敵味方の双方を照らし出しても、その恩恵は味方にしか及ばないみたい。
移動速度を劇的に上げてくれる【風纏脚】は、カマーマさんにだけ使えばいいとのこと。
今回の裏ボスとの戦いは、基本的に双方が距離を取った状態で、遠距離攻撃の応酬が繰り広げられるそうだよ。
かなりの強度を誇る【土壁】は、戦場のあちこちに配置することになった。遠距離攻撃の応酬において、遮蔽物は非常に重要らしい。
【再生の祈り】は主力メンバーの四人、ツヴァイス殿下、ライトン侯爵、バリィさん、カマーマさんに対して、使うことになった。
複合技に関しては、必要なタイミングがくるまで温存だね。
ここで、バリィさんが一つ、ツヴァイス殿下に注文を付ける。
「なぁ、殿下。相棒のスキルは、出来るだけ隠しながら運用してくれよ。殿下が希少なマジックアイテムを使ったとか、適当な理由を作れるだろ?」
「構いませんが、本当にいいんですか? その場合、名声がワタシのものになってしまいますが……」
二人にチラっと視線を向けられたから、私は大きく首を縦に振る。
「全然いいですよ! 私は名声なんていらないので、殿下が有効活用してください!」
「そうですか……。正直、助かります。ワタシの求心力が高まるので」
目立ちたくない私と、目立ちたいツヴァイス殿下。双方の利益が一致した。
話が纏まったところで、殿下は『そうだ』と呟き、言葉を続ける。
「ワタシばかりが、アーシャさんの情報を知っているというのも、なんだか申し訳ない。ワタシのステホをお見せしておきましょう」
いつかのバリィさんみたいに、ツヴァイス殿下が自分のステホを私に差し出してきた。こういう配慮をして貰えると、好感度が上がるね。
ツヴァイス=アクアヘイム 雷の魔導士(10)
スキル 【電球】【発電】【雷撃】【電撃網】
【気配感知】【加速】【迅雷】【雷雲招来】
雷の魔法使いレベル1→40を経て、上位職の雷の魔導士に転職。その後、現在のレベルまで上げたみたい。
魔導士のレベル1→10って、魔法使いのレベル40→50に匹敵する経験が必要だとか……。
そう考えると、ツヴァイス殿下って凄い人だね。王族という立場でありながら、レベル相応の経験をしているはずだもの。
一つ目のスキルから順番に、『触れると感電する拳大の球を浮かべる』『運動すると雷属性の魔力が回復する』『対象に向かって雷を撃つ』『対象を電気の網で拘束して痺れさせる』というもの。
【気配感知】と【加速】は、魔法使いの職業スキルではない。殿下曰く、ウルフ系の魔物が出現するダンジョンから、運よく出土したスキルオーブを使って、取得したものらしい。
前者は周囲の存在の気配を感知するスキルで、ティラも持っているやつだよ。
後者は一時的に素早く動けるスキルで、魔導士に必要なのか疑問だったけど、これを使えば書類仕事が捗るんだって。手を素早く動かせるからね。
【迅雷】は一定時間、任意の対象の敏捷性を上げる支援スキルで、私が物凄く欲しいやつだった。羨ましい。
【雷雲招来】は雷雲を発生させて、敵味方を問わず落雷で無差別に攻撃するという、恐ろしいスキルだよ。これは雷の魔導士の職業スキルで、上級魔法に分類されている。
魔法使いは下級、中級魔法しか取得出来なくて、魔導士になると上級魔法が取得出来るようになるみたい。
私の場合、攻撃系のスキルは取得出来ないんだけど、上級魔法の支援スキルとかあるのかな……?
そんな疑問を抱きながら、私はステホを殿下にお返しする。
「知らないスキルがいっぱいありました……!! 物凄く強そうですね……!!」
「ええ、自慢のマジックアイテムもあるので、戦力としては期待しておいてください」
ツヴァイス殿下はそう言って、自信に満ちた微笑みを浮かべたよ。
この後も少し話を聞いてみたら、彼は資金力に物を言わせて、【雷雲招来】を強化するマジックアイテムを買い集めたらしい。
魔導士になり、上級魔法を一つ取得して、それを強化するためのマジックアイテムを五つ集める。それが、王侯貴族の流行なんだとか。
ライトン侯爵も、その流れに乗った貴族の一人だね。
裏ボス攻略の決行は、三日後。
それまでに、私は出来る限りの準備をしておこう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます