虚飾の少女

白崎紅音

第1話 

私はごく一般的な女子高生だ。

いや。正確に言うと、「だった」かもしれないと、隣で一緒に寝ている白髪紅眼の美少女を見ながら、そう思った。



___数十分前



私は友人と帰り道の途中で別れ、家に向かって歩いていた。

私と友人の由美は文芸部に所属しており、今日は由美が書いた小説を読んでほしいとお願いされたのだ。

由美の書く小説は面白いので、私はとてもウキウキしていた。・・・顔には出ないが。


明日は休日なので、休みの間に読んでしまおう。

今回はどんな話か気になるなぁ、と思いながら歩いていたのが悪かったのか、ぶつかってしまったようだった。謝らないと、と思って相手の顔を見て、驚いた。


すごい美少女だった。白い髪に紅い目をしているところを見ると、アルビノなのかもしれない。

__あれ?でもアルビノって太陽の光に当たるとダメだと聞いたことがあるような。

まあ、私の知識の大半はネット由来なので、間違っていたのだろう。


でも、一番驚いたのはぶつかった相手が美少女だったからでも、アルビノのような白い髪と紅い目を持っていたからでもなかった。

それは、目の前の美少女がとてもフラフラしていたからだ。

よく見ると白い髪も艶がない気がする。


彼女は小さくペコリと頭を下げ、そのままふらふらと歩きだそうとした。

そして、私の目の前で盛大にコケた。


・・・すごく厄介そうな気配を感じる。まぁ、私は気配を感じることなんかできないので、例えだが。

身につけている服は見るからに高級そうなものだ。しかし、ところどころ泥のようなもので汚れている。それに、彼女は衰弱していた。病的なくらい細いし、満足に食事を食べられてはいなさそうだった。


ここは人通りが少ないわけではない。しかし、彼女がこうして一人でふらふらになりながらも歩いてきたところを見る限り、誰も助けてくれなかったのだろう。

人はこういう時、とても薄情だと思う。

でも、私だって彼女を助けようとは思わなかった。可哀想だとは思うが、それだけ。


ここには人もいるし、私が助けなくてもきっと誰かが助けてくれる。

私は言い訳をしながら、彼女の横を通り過ぎようとした。

しかし、なぜだろうか。私は起き上がろうとしている彼女に手を差し伸べてしまったのだ。


彼女は起き上がってもふらふらとどこかに行こうとしていたので、私は振り返って、ちょっと力をこめて彼女の右の二の腕を掴み、自分の肩にまわした。

おそらく、驚きで紅い目が揺れている彼女を見ながら、私は言った。


「あなた、名前は?」


彼女は少しかすれた声で言った。

「そら、です。」





そして話は今に戻ってくるというわけだ。


・・・しかし。少女、そらを家につれてきたのはいいものの、私は衰弱した人をどう看病すればいいのか知らない。風邪くらいならわかるが、あれだけ死にそうな人を看病する方法なんて知らなかった。だって普通に生きていくならそんな場面には遭遇しないから。

ここで悩んでいてもどうしようもないので、とりあえず本人になにかしてほしいことがないか聞いてみよう。そう思って、私はそらがいるところまで歩いていく。


私としては病院に行けばいいと思っていたのだが、そらに「病院行こう。タクシー呼ぶから」と言ったところ、全力で拒否されたためである。やっぱり、なんかわけありだよなぁ。


と考えていたらそらが寝ている部屋についていた。

生死に関わるレベルの看病に関する知識は皆無だが、とりあえず寝かせておいたらいいと思ってベッドに運び、さらに水も飲ませてある。水があれば人間多少はもつので。


ノックをして、「はいるよ」と言ってからドアを開けた。

相変わらず今にも死にそうな顔をしているが、出会ったときよりかはましだ。

横になっているからだろうか。


「大丈夫?」

と私が問いかけると、そらは申し訳なさそうな顔になって、


「少ししてほしいことがあるのですが、、、」

と言った。


「何をすればいいの?」


「ちょっと近くに来てほしいです」


私はドアあたりに立ってるから、もう少し近づいてほしいのかもしれない。風邪の時は心細くなるし、そらも似たような気持ちなのかな。


と考えていると、そらが、

「ずうずうしいですよね、、、」

と落ち込んでしまっていた。私が黙っていたから、拒まれたと思っているらしい。

ちょっと焦って早足でベッドの近くに行ったら、安心したような笑みを浮かべてくれた。

・・・ちょっとドキッとした。今は痩せているのにこれだけかわいいんだから、本当は私なんかよりずっとかわいいのだろう。あとは、メイクをして。かわいい服も着せてあげたい。きっとすごくかわいくなる。


「…を…………んですけど、いいですか?」

やばい、聞き逃した。なにかに熱中すると周りの声が聞こえなくなるのは私の悪い癖だ。

けど、そらは私に変なことを言う娘でもなさそうだし・・・

多分大丈夫でしょ。

「うん」


「いいんですか?」


「うん」


「それなら」と言ってから、そらに病人だとは思えないパワーで引っ張られてバランスを崩してしまい、寝ているそらに覆いかぶさるような形になってしまった。


突然だからまったくわけがわからずに混乱していたら、そらはぎゅっと抱きしめてきて離れられなくなった。少し痛いくらいに力が強い。


・・・今まで頼れる人がいなかったのかなぁ。想像だけど、彼女が今までいた家は、ろくなところじゃなかったと思うから。でも、こんなに衰弱してるのに、私がのしかかっていると危ないんじゃないかと思う。


そらは私の首の右側あたりに頭を寄せてきた。

なにをするんだろうか。

・・・っ!?

なにこれ!?

少しの痛みと、それを塗りつぶすような気持ちよさを感じる。

急な快感に困惑していたが、十数秒したら気持ちよさはなくなった。


なんだったんだろう。と思ってそらを見ると、彼女には牙が生えていて、

そこには血がついていた。


「私、吸血鬼なんです」


まじですか?

・・・どうやら世の中には、私が知らないことがたくさんあるらしい。

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