魔法が使えないと捨てられた少年は《蘇生魔法》で古の魔王を蘇らせてしまいました
青空 雨
第1話 魔王復活
「はぁ……はぁ……っ!」
昏い森の中に小さな吐息が響く。
短い足を木の根を邪魔そうにしながらも懸命に走らせる。
少年、ヤントは後ろに耳を澄ませてみれば、ゴソゴソと草木をかき分けながらヤントを狙う何かが追いかけてくるのが聞こえてくる。
(どうして……どうして置いていったの……? ママ! お兄ちゃん!)
そう心の中で助けを呼んでも、誰かに届くことはない。
――少年は捨てられたのだった。
双子で凶兆だと。魔法を使えないヤントは神に見放された、悪だと。
それをまだ幼い子供に理解しろなど、あまりにも酷なことであった。
「うわぁッ!」
ヤントは不幸にも足を引っ掛けて転んでしまい、そのまま目の前の溝に落っこちてしまう。
ヤントがどうなったのかと倒れ伏したまま目を開けると、骸骨の虚な目と合う。
「はぁ、はぁ」
後ろを見れば追ってきていた狼の群れがすでに追いついており、ヤントを絶対に逃さまいと囲んでいた。
「はぁっ、はぁっ!」
ヤントの目に涙がとめどなく流れる。
(僕は死ぬの? いやだ……怖い、怖いよ……)
目の前に迫ってくる確実な死の気配にヤントはもう怯えることしか出来ない。
そんな時でも思い出してしまうのは優しかった家族の思い出。
(助けて……)
狼の一匹が今にもヤントを噛み殺そうとじわじわとその間合いを詰める。
「誰か……助けてっ……」
――それは最後の抵抗。誰にも届くことのない言葉。
声に反応して狼が飛びかかる。その牙が喉元に届く、瞬間。
――届くことのないはずの言葉が届いた。
「キャウンッ!」
ヤントに飛びかかった狼はその牙をとどかせる前に何者かに吹き飛ばされる。
「あははははははははははっははははははははははははははははははははははっははははははっははははははははハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!!」
美しい歌声とも、悍ましい絶叫にも聞こえる笑い声があたりに響き渡る。
ヤントが横を見れば、先ほどまでいなかったはずの女性がそこに立っていた。
獅子のたてがみを連想させる紅い長髪と暗闇の中でもよく輝く火のような真紅の瞳。
森には似つかわしくない華美なドレス。それをおまけと言わしめるほどの美しい美貌。
女性はひとおもいに笑いきったのか、周りをすごい殺気で囲む狼の群れに視線を向ける。
「ほう。我と戦ろうと言うのか。どうやら我の恐ろしさを忘れてしまったらしい」
狼たちは全員、一気に女性に飛びかかる。
だが、女性は一切動じることなく。
「ならば! 死と共に我が狂暴を刻め!!」
女性が右手を横一線に切る。
すると、その後を追うように炎が巻き起こりが暴れ狂いだす。
狼たちは回避することも出来ず、1匹残らず炎に包まれ苦悶の叫びを上げる。
「我が名は幾多の悪魔、魔族を従えた魔王アータル・アエシュマーだ!!!」
あはは!! と笑い出す、アータル。
炎があたりを燃やし、狼の断末魔が響く中。ヤントは他には目もくれずただただ魔王、そう名乗った彼女のことを美しいと感じていた。
それが最後の記憶。
死の窮地から脱した安堵からか、それとも子供の体を酷使した反動か。
ヤントは眠るように気絶してしまうのだった。
――そう少年の声は届いてしまった。
――最悪に。
魔法が使えないと捨てられた少年は《蘇生魔法》で古の魔王を蘇らせてしまいました 青空 雨 @AmeAozora
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