深徊

キサラギ

第1話お姉ちゃん

「はぁはぁ……うっげほっげほ」

―――どれくらいの時間走っただろう。

いくら思い出そうとしても、思い出されるのはあの光景だけだ。

「っ……行きなさい!貴方だけでも!まだ小さい小学生のあの子にはお姉ちゃんである貴方が必要よ!」

「それならお母さんだって!」

「いいから行きなさい!早く!」

お母さんは、山に住む悪い神様に殺された。

言い伝えでは、山の神は夜に外を出歩く人を連れ去って、殺すと言われていた。

だが何故少しコンビニに買い物に行っただけで、連れ去られなければいけなかったのだろうか。何故あの時お母さんを置いて行ってしまったのだろうか、何故私ではなくお母さんだったのか。

それらがずっと私の頭の中を支配していた。

「もう……朝か……」

気が付けば太陽は昇り始めていた。

太陽は、私たちに明日をくれる。

例えどんなことがあろうとも、戦争が始まろうが、人がいくら死のうが関係ない。

それが今の私には耐えれなかった。

「っ」

悲しみで顔を歪ませながらも、私は決して止まらない、止まれない。

あの子がいるから、お母さんが託してくれた妹がいるから。

どれだけの苦難に打ちひしがれようとも、決して止まれない。

「だって……私は」

───お姉ちゃんだから。

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