第5話 遺跡の外に出てきた森の探検隊
「隊長、おい隊長、しっかり返事しろ」
清水の声に意識が引き戻されて、大沢では目をパチクリしていた。
それまで大沢は暫く長い夢から覚めたような気持ちで遺跡の入り口を佇んでいた。周辺の隊員たちも、心配そうに見つめてくる。気が付くと朝陽が昇り始めていた。遺跡の中で十二時間も過ごしていたなんて思えなかった。
「暫く意識が遠くて悪かった……、迷惑かけたかな? 俺たちは遺跡の入り口まで戻ってきたみたいだな」
「その通りだ」という清水は笑顔で頷き返して言った。「隊長、今回の探検で何を見てきたと思う?」
「そうだな、日下部、お前はどう思う?」
「恐竜人には、恐竜人だけの世界があると思えた」日下部は言った。「恐竜人たちを傍から見ていて勇気を問われたけど、おかげで元気を貰えた。いい冒険体験をさせてもらったんだ。文句はないよ」
そこで清水は次の質問で訊ねる。
「隊長、恐竜人と人間の共通点はなんだ」
「三好、お前はどう思う?」
「人間みたいに熱狂できるところがあるのかもしれませんね」三好は言った。「お互いに共通の話題はなくても、何かを信じる心では種族の違いを飛び越えた共通の心理を持っていると思います」
そこで清水は更なる質問で訊ねる。
「隊長、恐竜人と人間は共に生きることが出来ると思うか?」
「山野辺、お前はどう思う?」
「はっきり言って、難しいと思います」山野辺は言った。「恐竜人と人間の世界は違うと思います。だから、両者それぞれの社会があった方がいいと思います。その方がお互いにとって幸せだと感じました」
そこで清水は最後の質問で訊ねる。
「最後に隊長自身では今回の探検活動を心ゆくまで楽しめたか?」
そう聞かれて大沢はにっこり笑うと応える。
「ああ、もちろんだ」
それから大沢は思い立ったように、織部に目配せすると言った。
「実は、織部には秘密の任務があったのだ」
「ほう、それは何だ?」といった清水の質問に織部が懐から、一台の小型録音機を取り出して応える。
「これを付けっぱなしで、恐竜人の言葉を録音しといたんだ。だから恐竜人語の解読のヒントになると思う」
大沢は織部と秘密で一連の出来事を盗聴していたのだ。
織部と大沢を除く、他の皆が驚き出した。
「今回、恐竜人の言葉を世界へ初めて録音したんだ。これが今回の唯一にして決定的な成果だ」
「あと当然、皆の会話も録音取ってるけど気にしないようにね」
「まて、織部」日下部は言った。「その録音機、どこから取っていたか知らないが一旦こちらに寄こせ」
そこで織部は逃げるように駆け出した。すかさず日下部が追い掛ける。
「こら、待てー!!」
そのおかしな様子を、大沢、清水、山野辺、三好の四人では腹を抱えて笑い出した。その笑いは止まらず、こうして森の探検隊の調査は終了したのだった。
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