森の探検隊

マコ

第1話 謎の遺跡探検隊

 「大沢隊長、ここら辺でそろそろ水飲み休憩をしませんか?」

 

 とあるジャングルみたいな森の中に一組の探検隊では先を進んでいた。

 

 探検者一行は六人組である。先頭の隊長が、三人の男性探検隊と二人の女性探検隊を引き連れて歩いていた。

夕暮れが近づいていた。

 

 森の辺りは、うっすらと赤みが増してきた空に、明るく照らされていくのであった。そのうち、夕日が沈み込めば、この鬱蒼としたジャングルみたいな森の奥地で夜を過ごさねばなるまい。どんな獣や悪い虫やらが湧いて出てくるか分からないように危険が隣り合わせになりそうだった。万が一、今この辺りで焚火を囲むのも藪だらけでスペースはあまり広くなく夜になると無防備は避けられなさそうなところだ。

 

 隊列最後尾の女性隊員の言葉に、列の中程の比較的体の大きな若い男性隊員一人が鬱陶しそうに、彼女の方へ視線を投げかけた。その一方で大沢と呼ばれた壮年男は黄ばんだ紙面に描かれた地図に、しっかりと目線を落としながらも木根へ躓くことさえもせず、器用な足取りによって障害物は避けながらも歩み進めつつ答える。


「山野辺、この地図では、後もう少し先を噂の遺跡の場所へ辿り着けると記されてある。その入り口付近で、暗くなるまでに到着しよう。そこで松明を着けてからひとまず休憩するつもりだ」


「分かりました」といって山野辺の耳に聞こえる大沢の大きな声が確認できて、彼女は納得して黙って着いてくる。


「本当にあるんですかぁ、こんなところに噂の恐竜人たちの遺跡が、マジで?」というあの体の大きな若い男隊員の一人が嘲笑してきた。


「これ日下部、だったら一体なんでここまで着いてきたんだ?」といったメガネ男の熟年隊員の質問に、その若い大男隊員は鼻で笑って答えた。


「清水、そんな嘘なんて信じられないってことを、この目で確かめてやろうと思ってわざわざやってきたんだ。お前たちに文句は何も言わせねぇぜ。何せはっきりとした根拠がないからな」


「何を言う、ちゃんと根拠だったらあるぞ」清水が応えた。「お前は知らないのかい? 恐竜人が書いたと思われる文字が書かれた地図が、自国の近くのアジア圏の地層深くから発見されたんだ」


「どうせそんなの作り物やまがい物に過ぎないだろ?」


「その謎の文字の解読に成功した事実がある」大沢は言った。「その文章の内容結果、この付近の場所に恐竜人と謎の遺跡があると分かったのだ。新聞の記事にも載っている今となっては、かなり有名な話題だぞ? 織部もそう思うだろう?」


「うん、僕は、恐竜人の遺跡が確かにあると思う」といって大沢の質問に、十六歳と最年少探検隊の織部は頷いて答えた。


「織部、何でお前までそう思うんだ?」という日下部は不満げに聞いてきた。


「その遺跡に何が待ち受けているか確かめてやりたいんだ」織部は答えた。「それを調査することこそ、僕たちの仕事役目真骨頂だろう? 思わぬ成果が出たら有名人になれるし君だって満足のいく嬉しい話になるはずだ」


「それにしても隊長、ずいぶんアバウトな計画なのですね」という小柄なメガネの短髪女性隊員が聞いた。「こんな企画が通るなんて不思議だし驚きです。本当に何か見つからなかったら冒険企画の関係者たちが失意するかもしれないと思うと心配です」


「だから三好、世界中に俺たちでは何としても恐竜人の存在を信じたくなるような特ダネ発見をやらねばなるまい」大沢は答えた。「世界中の各国探検隊が、恐竜人の証拠写真や記述を次々と残している。世間公ではまだ恐竜人のことをフィクションだとしか捉えられておらず、明るみの情報に成っていないが、我々は発見した証拠で日本国内の話題を沸かそうと狙っている。きっと今回の恐竜人の調査は世界的に見ても貴重な証拠に残せるのが時間の問題だと思っている。我々の一大発見で、日本中の若者をアッと思わせようではないか」


「一体何時までに恐竜人の遺跡は発見されるのかしらね」という山野辺では首を傾げている。


「第一俺たちには時間給という待遇がないんだ」大沢は言った。「何か一つでも大きな発見を手柄としてもたらさないと、スポンサーが後から付かなくなるのだそうだぞ。それくらいもちろん分かっているな?」 


 そう言うと、日下部を除く、探検隊たちは揃って重々しく溜息でも着くしかなかった。


「こんな話、やっぱり信じられないな」という日下部は一人だけで皆を嘲笑しながらも歩き着いていった。

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