アーバイン脱退
「俺クリスんとこ行くわ。世話になったな」
メルウェンさんが、殺された。
そんなに多く絡んだ相手でもないとはいえ、それでもほんのしばらく前には元気だった姿を知っているだけに、パーティ全員に重い空気が流れる中。
アーバインさんは唐突に背を向けた。
「え、おい」
「お前らはもうほっといてもどうにかなるだろ。クリスはまだガキだ。何やらかすかわからねえ」
ユーカさんの声にもそれだけ言い置いて、アーバインさんは早足でまたデルトールへ向かって行ってしまった。
呆気にとられる僕たち。
「……チッ。あの野郎」
「僕たちも一緒に行った方が……」
「あいつは一人なら一日に人の三倍近く移動する。アタシらじゃついていけねえよ。足手まといだ」
「でも」
「それに! 全員でついていっても誰も戦力になんねーよ。アタシ含めて他全員、今は半人前だ。あいつやクリスが本気でなんかやるって時に、安心して物事任されるレベルじゃねー」
「…………」
「それでもまたデルトールに行くってんなら止めねーけど。着く頃にはもうあいつら、いねえと思うぞ」
……ユーカさんは、なんだかんだでアーバインさんの能力を信頼してるんだな。
そして、僕らはまだ全然、彼の本当のレベルには追い付くどころか、近づいてすらいないという事実。
そんな中で、僕たちにできることは。
「……マードさんに、また会いに行こう。彼を味方につけるのが、現状、ロナルド対策としてもアーバインさんたちの援護としても一番だと思う」
「ああ。悪くねえな」
ユーカさんは頷く。リノとクロードは「?」という顔。
「誰?」
「マード……お知り合いですか?」
リノが知らないのはともかくクロードもか……いや、クロードも別に冒険者に詳しいってわけじゃないのか。
騎士団生活なら「邪神殺しのユーカ」というトップ冒険者の噂ならともかく、その他のメンバーの詳細までは興味持たないだろうしな。
「私の治癒術の師匠! 超すごい人だからね!」
「その言い方だとまるでゼロから教わったみたいに聞こえるよファーニィ」
「今考えるとゼロみたいなもんです!」
え、そんなだった?
エルフとしての本当の師に失礼じゃないかなー……と思うんだけど。まあファーニィだからいいか。
マイロンからそのまま船に乗る。
王都を経由してメルタへ向かう。
そしてその間、ジェニファーには厳重な口枷をつけさせる。
こうでもしないと、さすがに王都をライオンが通るのは難しい。
「ごめんねジェニファー。大丈夫? 苦しくない?」
「グァ」
リノの問いかけにも変な声しか出せないが、さすがはジェニファー。従順だ。
そして物珍しさから船の他の乗客にも興味津々といった感じの視線を集めていて、サービスのつもりか、猫みたいに後ろ足で耳の後ろを掻いてみせたりしている。
実際それだけで「かわいー♥」「まるで猫だな」と周りをどよめかせるので、なかなか役者だ。
「王都に寄るならマリスに会ってきてもいいでしょうか」
「……いいけど急に行って会える?」
「まあ、行ってみるだけでも……」
できれば早くマード翁を捕まえたいが、あまり慌てても仕方がなくはある。そもそもマード翁がまだメルタにいるかはわからないし、そうなるとロゼッタさんの千里眼頼りになるし。
「そんならカネもできたことだしリノの服買いに行こうぜ!」
「他人にオシャレさせるのは元気だねユーちゃん」
「アタシだけ遊ばれるのは面白くねーだけだ!」
「でもアーバインさんいないんじゃあの店無理だよ?」
「クロード使えば入れるだろ」
「あの、私マリスに会いに……」
「後でも行けるだろ!」
なんだかんだで王都も楽しむ心の余裕があるのはいいことだ。
ロナルドもデルトール方面にいるなら、しばらくは王都でも襲撃の危険はないだろうし。
……僕も一応、鎧の点検でも頼みに行こうかな。
この調子だと二日か三日は滞在する感じになるだろうし。
船を降りて、そんなに久しぶりでもない王都に到着。
まだ完全には解体され切っていない
滞在しているうちに、アレ僕たちがやったんだよ、とリノとジェニファーに自慢でもしようかな、と思いながら渡し板を伝って桟橋に降りると。
「おかえりなさいませ♥」
「デルトールはいかかでしたか♥」
……桟橋になぜか双子姫がいるのだった。
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