可愛い後輩 日野梨衣花
「正確には彼氏の振りをしてほしいってことなんだけど……」
「はあ?」
どうやら日野君の妹さん(中2)にストーカーができてしまったらしい。
ストーカーといっても粘着系ではなくて体育会系。
しつこい男って感じだそうだ。
しかも相手は高校2年のラグビー部。
めちゃくちゃデカいらしい。
若干の犯罪臭がする組み合わせだ。
おかげで周りの人が怖がってしまい、いつも明るい妹さんも困っているとのこと。
そこで彼氏が出来た振りをして断ろうとしたらしいが、肝心の彼氏役が見つからない。
妹の交友関係内では頼りたくないし、頼れたとしても怖がってしまっている。
そこで俺に白羽の矢がたった。
格闘技をやってて、妹との外見年齢もそんなに離れておらず(ちょい童顔なのだ)、強そうな友達も多い(ジム仲間)。
なるほどね。
「別に良いけど、そんなに時間は作れないよ?」
ジムで忙しいからな。
「大丈夫、夏休み中に何回かデートしてくれればいいから。
デート代は俺が出すし」
「それならいいけど……」
女の子と遊べるのは普通に嬉しいし、ましてや無料ときた。
それなら断る理由はない。
「よかったあ。
ずっと言い出せなくてさあ」
「急に遊びに誘うから何かと思ったらそういうことか」
「ははっ、ごめんごめん。
それじゃあ妹を呼んでくるからちょっと待っててくれ」
そう言って日野君は部屋を出ていった。
日野君の妹かあ。
イケメンだし妹の顔も良さそうだ。
そのせいでストーカーが出現したのだろうな。
可愛い子と何回かデートして、ラガーマンの先輩に彼氏宣言して終わりだろ。
スポーツマンなら殴りかかってくることもあるまい。
退部になっちゃうしね。
そんなことを考えながら待っていると、ドアが開いた。
そこには小柄で可愛らしい女の子がいた。
毛先に少し癖のあるセミロングで明るそうな印象だが、
今は少し疲れているようだ。
そして、背の割に大きい。
あえてどこがとは言わないが大きい。
なるほどモテそうだな。
「初めまして、梨衣花です」
「武田です。
よろしくね」
「あの、兄から聞いたと思いますが……」
「大丈夫大丈夫。
ちゃんと分かってるし、俺は強いから何かあっても楽勝だよ」
無いだろうけど。
というか随分恐縮そうだ。
まあそりゃそうか。
怖い相手との間に緩衝材として立って欲しいというお願いなのだし。
それに、妹さんからすればラガーマンも俺も変わらない。
強くて怖い男だ。
取りあえずさっさと役目を終わらしちゃおう。
「それじゃあ早速だけど、いつにする?
例の先輩が現れるタイミングに合わせた方がいいよね?」
「あ、いつでも大丈夫です。
いつでも……いるので……」
それは本当に大変だ。
「それじゃあ今日でも行こうか」
その前に準備をしなきゃな。
「まずは付き合ってる証拠にスマホの壁紙とか変えとく?
ツーショットとかに」
俺は変えないけど。
ジムの人に揶揄われそうだし。
理由は照れてるってことでいいだろ。
「あっはい。そうですね」
「それと、敬語はまあ歳の差があるから良いとして、もうちょっと仲がいい感じにしたいな」
明らかにぎこちなさすぎる。
本当の彼氏彼女だと信じてくれたら問題ないだろうが、
もし偽装だとバレたら更に面倒なことになりそうだ。
役作りは頑張らなきゃ。
「えーっと……、
ちょっと待ってくださいね」
深呼吸をする妹ちゃん。
1分程で待っていると口を開いた。
「せんぱい、
今日はよろしくです」
ニコッと笑う妹ちゃん。
うおっ眩し!
思わず好きになっちゃうところだ。
これは可愛いな。
一目惚れする気持ちも分かる。
「なんとかうまくやれそうだな」
日野君、居たのか。
ドア付近で腕を組んでうんうんと頷いている。
「それじゃあ行こうか、
えっと……日野ちゃんでいいかな?」
「それだと俺と間違えない?」
お前をちゃん呼びはしないよ。
「兄……おにいの友だちって紹介したいから下の名前でお願いします」
「あ、そう。
だったら梨衣花ちゃんで」
照れる。
それを隠す。
……できてると良いな。
「それじゃあ今日はよろしくです」
「うん、任せて」
というわけで、俺の初デートはクラスメイトの妹との偽装デートになった。
まあせっかくだし楽しもう。
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