パパが魔王でママが勇者!!
トガクシ シノブ
第1話魔王のパパと勇者のママ
「いよいよ魔王の間ですね…皆さん、準備はよろしいですか?」
剣聖カムイ・カンナギは仲間たちにそう尋ねた。
カムイ・カンナギ
名門剣士の家系「神薙家」の剣士。
優れた身体能力から繰り出される強力な体術に加え、悪を滅する正義の剣術として知られる「神薙流悪誅無葬斬影剣(かんなぎりゅうあくちゅうむそうざんえいけん)」の使い手でもある。
その圧倒的な戦闘能力で勇者パーティを支えてきたが、本人は正義のために仲間に加わったのではなく、危険な女ふたり旅していた勇者たちのことが「ほっとけなかった」ためずっと魔王討伐の旅に同行していたとのこと。また本人曰く、旅の途中で何度か抜けようと思ったこともあったが「色々あって」踏みとどまったらしい。
「は、はい!ワタクシは、だ、大丈夫ですわ!魔王を倒して世界に平和を取り戻しましょう!!…そして平和になった世界でワタクシは、お姉さまと二人であまいあま~いドエッチでドエロい密で蜜な日々を…グヘヘ」
光の聖女リーズロッテ・M・セクシャルバインは、こんな時でも聖女らしからぬ「ハシタナイ妄想」で脳内がいっぱいに満たされている様子だった。
リーズロッテ・M・セクシャルバイン
名門神官の家系「M・セクシャルバイン」の聖女。
強力な聖魔術の使い手であると同時に、性に関する知識も大変豊富である。下ネタを言わせたら彼女の右に出る者はいない。
幼なじみの勇者の魔王討伐の冒険の旅に自ら進んで立候補したが、これは世界の平和のためではなく他でもない愛する勇者のためであった。
旅の途中「色々あって」ふたりは見事恋人同士になり現在に至る。
「はぁ~、アナタはこんな時になっても…本当にブレない方ですね…だそうですよ、ジャスティーナさん?」
「おっしゃあ!上等だぜぇッ!!この勇者ジャスティーナ・スウ・クイーンさまが、正義の名のもとに魔王をブッ倒して、この世界に平和の鐘を鳴らしてやるよぉおおお!!!」
ジャスティーナ・スウ・クイーン
「最凶にして最狂」の異名で人間からも魔族からも恐れられている掟破りな女勇者。
名門勇者の家系「スウ・クイーン」の生まれだが本人はその自覚はあまりない。今回の魔王討伐に関しても、使命のためだからではなく「退屈な毎日から解放されて、気ままに冒険がしたかったから丁度タイミングがよかった」とのこと。
名門勇者の家系ということもあり、優れた剣術と魔術を使いこなせるが、本人はよく稽古をサボっていたためその実力は一族の中でも底辺である。
「…アナタも流石と言うべきか、いや、本当に心強い限りですがね…では参りましょう!!」
「はい!この世界に、光あれ!!」
「おいおい!勇者のアタイを差し置いて、さっきから仕切ってんじゃねーよカムイ!…よっしゃあ!気合入れていくぜ野郎どもぉおおお!!」
心を一つにした三人は、魔王の間の扉を開けると勢いよく内部に突入する。
魔王の間とても静まりかえっており、不気味な雰囲気が漂っていた。
「…やい魔王!この勇者ジャスティーナさまがお前をやっつけにわざわざ来てやったぜぇっ!さぁ隠れてないでその醜悪な姿を現しなぁあああッ!!」
「そ、そうですわ~!と、ととととっとと、…そのお姿を現しなさぁーい!この臆病者~~~ッですわ!!」
「…気配を感じない、ヤツめ、どこだ…?」
「フフ、フフハハハ…フワ~ハッハッハ~ッ!!!!!」
突如として魔王の間に不気味な笑いが響き渡る。
「ようこそ、勇者一行の諸君。歓迎しよう。このオレが魔王デスマダンテである…」
暗い部屋の奥にある王座に座るこの男こそ「最強にして最恐」の異名をもち、世界の平和を脅かす存在、魔王デスマダンテ・ホロウ・ボスーンであった。
「は、はわわわわっ!!!こ、こわくなんかありませんわ!ワタクシには、お姉さまとカムイさんがついておりますから!さぁさぁおふたりとも、ちゃちゃっとやっちゃってくださいまし~!!」
「ばぁーか!お前もいっしょに戦うんだよ!!リーズ…平和になった世界で、いっしょに幸せに暮らそうぜ!なっ!!」
「…!!はい…お姉さま♡」
「魔王、キサマに恨みはないが…、この世のため人のためにも消えてもらう…覚悟ッ!」
「フフハハハハ~ッ!!いいだろう、このオレが『真の絶望』というモノを教えてやろうではないか。奪ってやろう…『希望という名の未来(あした)』をこの世界から根こそぎなあああッ!!!」
すると暗かった部屋全体に怪しい炎が灯り辺りが明るく照らし出される。
「あ・あ・あ、あれが魔王デスマダンテの素顔…なんと恐ろしい……」
「大丈夫ですよリーズさん、アナタとジャスティーナさんのことは、このワタシが全力でお守りしますから」
「…はい!ワタクシとしたことが、気持ちで負けてしまいそうでしたわ!いきますわよぉ~!光の聖女の力をその身で味わいなさ~い!…お姉さま、いつでもいけますわ!……お姉さま?」
突然ジャスティーナの様子に異変が起こった。彼女はなぜか顔を真っ赤に染め、目を潤ませていた。ジャスティーナだけではない、なんと魔王の様子までもが何故かおかしくなっていた…。
「……?ジャスティーナさん?…どうなさいましたか…?早くいっしょに魔王を……」
するとジャスティーナは衝撃的なことを口走る。
「タイプだわ、…彼、むちゃくちゃアタイの好みのタイプだわぁああああ!!!」
「え、えぇええええええッ!?正気ですのお姉さまぁ!はっ!さては魔王の妖しい術に操られて……」
「なんかないわよリーズ、これはアタイの本当の気持ちさ…アタイね、彼に恋しちゃったみたいなの…」
「いやちょっと待ってくださ…おい!ちょっと待てジャスティーナ!オマエ、…本気なのか?相手はあの『血も涙も無い極悪な魔王』なんだぞ…」
「彼のことをそんなに悪く言わないで!…ねぇ魔王!アタイ本気だよ!だからアンタの気持ちも聞かせておくれよ…」
「……オレも、…オレもオマエのことが、むちゃくちゃタイプだぜぇええええええッ!よっしゃあ!今すぐだぁ!今すぐオレと結婚しようぜぇえええええッ!!!!!」
「……!!!う、嬉しい!エヘヘ…そんなワケで悪いねアンタたち!アタイさ、今から彼と結婚する!」
「いや、ウソ、ウソよね…?嘘だと言ってよ、ジャスティーナお姉さま!あんなにふたりで激しく愛し合ったじゃないですか!いっぱい『お姉さまのしたい』ってことだってさせてあげたのに…ダメよそんなの……ダメよ、イヤイヤイヤイヤイヤイヤイヤ…イヤよぉおおおオオオオオオオッ!!お姉さま、捨てないでぇえええええッ!!!!!」
魔王の間にリーズロッテの悲痛の叫び声が響きわたる。
「ごめんね、リーズ…。でも大丈夫!リーズはさ、スッゴく可愛い子だからすぐにまた新しい恋人が出来るわよ♪…多分」
「『多分』じゃイヤーーーーーーッ!!!いくらなんでも無責任過ぎますわ~~~~~!!!!!」
「………『勇者と魔王の結婚』か、こんな『本来絶対にあり得ないようなこと』を、世間が認めるとはとても思えません。きっと大きな反発や混乱も起こるだろう…悪いことは言いません、やめたほうが賢明です…アナタは『名門勇者の一族』の名に泥を塗るおつもりで?どうなんだ?…答えろ、ジャスティーナ……ッ!!」
カムイのこの発言は、普段の彼からはとても想像出来ないほど重く、ジャスティーナに対し、なにやら怒りにも似た感情をぶつけているようにも見える。
「…アタイさ、昔からずっと『自分は勇者にむいてないな』と思って生きてきたわけ。でもやっとこれでハッキリしたわ。『アタイは何も縛られることなく自分の生きたいように生きる!』これがこの冒険で得たアタイの生き方へのすべての答えさぁ!!」
「………苦労しますよ。きっといばらの道を歩むことになります」
「うん♪一族のみんなもきっと黙ってないだろうね。多分下手したら殺されるかも…。…でもアタイは負けないよ!」
「そうですか…分かりました。その覚悟、…『本物』のようですね。フフ、流石はジャスティーナさんだぁっ!『型破りで掟破りな最凶勇者』の名は伊達ではないですね!…そんなアナタだったからこそワタシは、…ワタシは最後までいっしょに冒険したいと思えたのかもしれない!…デスマダンテさん、彼女ことを頼みます!!」
「おうよ!オレが全力でジャスティーナのことは幸せにしてやるから安心しろい!あと人間を滅ぼすなんて真似は、金輪際しないようにするからな~!やっぱりこの世は愛だよ愛!いまオレはそれに気がついたぜぇ!!」
「それはよかった…ではおふたりとも、どうか末長くお幸せに…。まさか…、まさかこんな冗談みたいなことが、本当に起こるなんてな…。これが『奇跡』なのか…。『友よ、そしてみんな』……すべて終わりました…。これできっと世界も……。さて!ということで我々の冒険もここで終了みたいですね。リーズさん、では故郷に帰りましょうか。帰路もちゃんとワタシが護衛するので安心してくださいね……ってリーズさん?もしも-し」
「あ・あ・あガガ、ガガピー、おねおねお姉さま、ケッコケッココケッコッコ~ン、アははハハハ……」
「あーダメだ!脳が完全に破壊されてしまっている!!…仕方ないですね。担いで帰りますか~!よっこらしょ」
勇者と魔王の結婚。この信じがたいニュースはたちまち拡散し、多くの人々を震撼させた。そして数々の物議を生み世界中で大論争が勃発した。しかし幸か不幸か結果としてこの事は、長年に渡りずっと敵対関係であった人間と魔族が和解するキッカケを作り出し、世界に真の平和が訪れることなった。それから月日は流れ……
「じゃあパパとママ、学校に行ってくるね。ああ〜!今日が転校初日ってことで、昨夜はほとんど眠れなかったよ〜。今度はちゃんと友達できるかなぁ、心配だよ〜」
「あら?そんなことないわよ。お姉ちゃん『ガーガー』といびきかいて寝てたじゃない!むしろそのせいでワタシの方が寝不足なんだからね!プンプン」
「え〜!?そうだったかな〜ごめんよデスティーナ」
「ウフフ、大丈夫よ〜ジャスちゃん!今度の学校はパパとママの知り合いがいっぱい働いているところだからね♪…前の『クソ外道なヤツらばかりがいるようなド低俗な学校』とは違うから、友達もたくさんできるわきっと!ねぇ〜ダーリン♪」
「おうよ!ジャスマダンテ!我が愛しの娘よ!さぁ胸を張って行って来~い!!」
「もう〜アタシは転校なんてするつもりなかったのに、パパとママが『大暴れ』なんかするからだよ…」
「だってだって〜…ジャスちゃんとデスちゃんにイジワルするようなクソゴミな学校は、容赦なくぶっ潰して然るべきなのよ…ねぇ~♪ダーリン」
「おうよ!まったくだぜぇ!流石のオレもあの時だけはマジでは我慢が出来なかったからなぁ!!」
「アタシもちょっとやり過ぎちゃっかもだけどさ、それにしたってパパとママは本当にやり方がむちゃくちゃ過ぎなのよ〜。ねぇそう思わない?デスティーナ…」
「えっ?…ワタシは、正直転校出来て良かったと思ってるわよ。…もうね『壊れちゃう寸前』だったから……」
「あっ…ごめん。嫌なこと思い出させちゃったね……」
「うんうん!気にしないでお姉ちゃん♪お互い新しい学校では、いっぱいいっっっぱぁああいお友達を作りましょう!!」
「…うん……っ!!!よっしゃ!気合入れて友達いっぱい作るぞぉおおおおッ!行ってきまーーーーす!!」
〈ビューーーン!!!〉
「あっ!待ってよお姉ちゃん!あっ…もう!…じゃあねパパ、ママ!…あのね、あのねワタシ………勇気を出して頑張りますう~!!」
「おうよ…行って来いデスティーナ。何かあったらまたパパとママがなんとかしてやる!だから思いっきりぶち当たって来い!!」
「デスちゃん、パパとママはどんな時でもアナタの味方よ♪ファイト〜!おう〜〜〜っ!!」
「デスティーナ~遅いぞぉ~!本当に置いていちゃうよぉ~!」
ジャスマダンテは少し遠くから大声で妹のことを呼んだ。
「もう~お姉ちゃんったら~…。ウフフ、今行くから待って~~~!!」
こうしてふたりの姉妹は、希望に胸を膨らませ仲良く学校へと向かった。
「ねぇ…ダーリン」
突然ジャスティーナはデスマダンデに抱きついた。
「んっ?どうしたハニー」
「ああは言ったけどさ、アタイ…アタイね…やっぱり不安だよ~…本当に大丈夫かな…?ふたりとも…。アタイ、アタイ…こ、こわいよぉ~…本当に本当に大丈夫なのかな~…ううう……あの子たちまたいじめられたりしないよね?…『忌み子』ってぇッ!」
目に大粒の涙を浮かべながら彼女はデスマダンデの胸の中で泣いた。
「………大丈夫だぜハニー。なんたってあのふたりは『最強の魔王と最凶の勇者』の…『このオレたちの子供』なんだからな…」
デスマダンデはそう言うと優しくジャスティーナを抱きしめるのであった。
魔王と勇者の娘、ジャスマダンテとデスティーナ。果たして彼女たちは新しい学校で幸せな学園ライフを送れるのだろうか?(つづく)
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