レッドアロー〜紅い流星〜
オレンジ
一話目
この世には、平等などありはしない。
10年程前に力に目覚めた人達がいた。全人口の1%にも満たないその人達は、その力を秘匿した。そして、子供はその力を引き継いでいく。そんな世界。
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真紅に染まった弓と髪。紅葉色の目の色をした秋を彷彿とさせる顔。短髪の髪型はまるで髪型を気にしない人のようだ。
黒色のフードを被り、マントを巻いている。服も黒色で忍びを想像させる服装だ。
16才の青年は自家製の矢を使い、人を殺す殺し屋になっていた。父親から矢を穿つ力を継いでいたからだ。父親からの殺しのあらゆることを教え込まされ、中学で初任務。心はとっくの昔に壊れている。
————————せめて。苦しまないために。
心が壊れている青年はそんな事を思いながら弓を引く。
そして。心に聞こえる声を詠唱する。
「我が弓矢は真紅に貫く
「穿ち消える心と命。」
「自覚あれど運命変わらず。」
弓矢には、力には、自意識というのがあるのだろうか。皮肉にしか聞こえない。
相手が見えなくても大体の位置が分かれば後は勝手に飛んで行ってくれる、便利な力。
赤い光が収束されていく。もう何も聞こえない。詠唱が終わった。そして、放つ。
紅い流星が夜空を裂いて目標に向かう。
ドシュと嫌な音を立てて血飛沫が散った。
終わった。思う事は何もない。
弓矢と矢をバックに詰めてマントで隠しながらも、涙を流して、そう、思ったのだった。
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「おかえり。」
母親が家に迎えいれてくれる。もう俺には母親しかいない。守るべき家族のために、俺は今日も命を奪った。母は全てを知っている。
「傷はないのね。」
母は、回復力を上げる力があった。
俺もそっちだったら良かったのに、と思った事はない。
「あぁ。」
何も気にしていないという事を強調するために、ぶっきらぼうに言い放った。
父親は殺し屋の任務中に死に、弟は殺し屋の恨みによって殺された。父親が死んでから俺が家業を継ぎ、母親を支えていた。
それでも。そのために何人、何十人の命を奪っただろうか。このまま言い訳した人生を送っていいのだろうか。
複雑な表情をしていたのか、考え事をしていたからなのか。母親はもういなかった。
スマホのバイブレーションが鳴り、電話に気づいた。
「レッドです。なんでしょうか。」
レッドとは、彼の名前である。親は、髪の色から決めたらしい。
「やぁ。レッドアロー。君に仕事だ。」
レッドアローとは、彼のハンドネームである。弓矢に収束される赤い矢を放つ事からきている。
「了解です。」
ボスからの命令は絶対だ。そう父から教えられて。俺は任務に取りかかる。
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今日は相手が殺し屋だった。同業者だが、敵は一般人で、スナイパーライフルを用いていた。相手からしたら弓矢など旧式だろう。
敵は俺がこのビルに来る事を知っていたんだろうか。敵が潜伏している近くのビルに潜ると、スナイパーによって狙撃された。銃弾は頬を掠め、髪が散った。
すぐ2発目が来る。
俺は俊敏さを上げる分、最低限の防具しか着けていない。今回の相手では致命的である。
全速力でダッシュし2階に上がる。弾は地面に当たる。
2階に上がりながら、俺は詠唱を開始する。
「人を穿つは我が弓矢。」
「空を裂くは赤い流星。」
赤い光が収束されていく。
「人を穿つ
心をこめる詠唱は力を強くし、自身の危機にはこの詠唱になる。
相手は俺から南西方向。窓ガラスが割れた瞬間に撃ち込む。
パリン
そして。
弾が腹部を貫通する。しかし、それを堪え、撃たれた南西方向に矢を穿つ。
「ッッゥらぁ!」
矢は彗星となり相手に飛んで行く。そして、標的に当たったのだろう。爆発音が聞こえ、消えた。狙撃される事も無くなり、帰るだけだ。
だが。当たる事が前提とは言え、位置が悪すぎた。手で押さえ、包帯を巻くなどの応急処置をしてもたまらない。この為に沢山持ってきていたのに。
「これは...ダメみたいだな...」
フッと自虐気味に笑う。
これが人生かと。運命かと。酷すぎた。
「母さん...ごめん...」
呟く声が掠れ、意識が混濁し、やがて消えた。
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