第2話
白磁のように白く輝くジュリアンヌの左腕には、よく見ると白い線がびっしりと刻まれている。寸分の狂いなく同じ幅、同じ長さで平行に刻まれた“それ”は、普通であれば誰もが口元を覆ってしまう痛々しいものであるのにも関わらず、彼女の体に刻まれていると言うだけで神秘的なもののように見える。
「はっ、ただのリストカットだろ?それがなんだと言うのだ。自傷行為への自慢か?」
嘲笑うレアンドルに微笑んだジュリアンヌは、くちびるを妖艶に舐め、顎に手を当てて尊大に振る舞う。
「いいえ。違いますわ。これは『自傷行為を自慢するためのもの』なんていう可愛らしいものじゃない」
たっぷりと数秒間を持たせたジュリアンヌは心底愛おしいものに触れるかのように、左手を優しく撫でる。
「これは、———浮気の回数です」
「———は?」
あっけに取られた表情で首を傾げたレアンドルに、心の底から楽しそうに微笑んでいるジュリアンヌは歌うような声をかける。
「1人目、レアンドルさま7歳3ヶ月、アイーシャ公爵令嬢に求婚、玉砕。彼女の婚約者のご実家より陳述書が届く。
2人目、レアンドルさま7歳4ヶ月、イリーナ子爵令嬢に恋慕、玉砕。あなたに愛人にされる可能性を恐れて異国の地に学術留学。彼の国で結婚。
3人目、レアンドルさま7歳7ヶ月、ウィリー侯爵令嬢に恋慕、玉砕。娘を溺愛している父侯爵は逆鱗に触れられたことにより激怒。
4人目、レアンドルさま7歳9ヶ月、エカチェリーナ王女殿下に求婚、国際問題に発展。ダイヤモンドの輸出を彼の国に優先することを約束に収束。
5人目、———、6人目、———、7人目、———、8人目、———、9人目、———、10人目、———11人目、12人目、13人目、14人目、15人目、16 人目、———、17 人目、———、18 人目、———、19 人目、———、20 人目、———、21 人目、———、22 人目、———、23 人目、———、24 人目、———、25 人目、———、26 人目、———、27 人目、———、28 人目、———、29 人目、———、30 人目、———、31 人目、———、32 人目、———、33 人目、———、34 人目、———、35 人目、———、36 人目、———、37人目、——— 38 人目、——— 、39 人目、——— 、40人目、——— 、41 人目、——— 、42 人目、——— 、43 人目、——— 、44 人目、——— 、45 人目、——— 、46 人目、——— 、47 人目、——— 、48 人目、——— 、49 人目、——— 、50 人目、———、51 人目、———、52人目、———、53人目、———、54人目、———、55人目、———、56人目、———、57人目、———、58人目、———、59人目、———、60人目、———、61人目、———、62人目、———、63人目、———、64人目、———、65人目、———、66人目、———、67人目、———、68人目、———、69人目、———、70人目、———、71人目、———、72人目、———、73人目、———、74人目、———、75人目、———、76人目、———、77人目、———、78人目、———、79人目、———、80人目、———、81人目、———、83人目、———、84人目、———、85人目、———、86人目、———、87人目、———、88人目、———、89人目、———、90人目、———、91人目、———、92人目、———、93人目、———、94人目、———、95人目、———、96人目、———、97人目、———、98人目、———、
99人目、レアンドルさま15歳7ヶ月、ミュリエル男爵令嬢に愛人になることを脅迫。………自殺」
つらつらと紡がれていく過去の浮気相手の名前に、レアンドルの頬が大きく引き攣る。
「———そして、記念すべき100回目の浮気相手は初の平民の女の子で、ミュリエラさん」
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