第27話 ナキワカレ
「———何で立ってんだ? 自分の部屋だろうに……変な人だな、アンタは」
「……」
俺がそう言えば、殺気さえ篭った恐ろしい眼力で此方を睨んでくるエレノア。
まるで『誰のせいだと……!』と言っている様である。
勿論気付いていないわけじゃない。
まあ……息子相手に酷く緊張している様が面白いだけだ。
「……へぇ……」
エレノアの部屋は———正直何故あの時ブチギレたのか不明な程に豪華な物であった。
子息である俺の部屋なんかよりよっぽど高そうなモノが置いてあるし、至る所に宝石が落ちて……宝石が落ちてる?
今まで見たことのないあり得ない光景に少々面食らう。
「おい、何でこんな高価な物が床にポンポン投げ捨てられてんだ? 使わないのか?」
「……全部使い捨てよ。その程度のモノ、毎回買えば良いじゃない」
本気でそう思っているらしく、床に落ちた宝石をゴミの様に見つめている。
その姿は平民とか下級貴族からすれば羨ましくて血涙を流すであろう光景だが……。
「…………ま、そんなのどうでも良いか」
「っ!?」
俺は椅子から立ち上がり、ゆっくりとエレノアに近付く。
そんな俺から、エレノアは意識してか無意識かは不明だが、ゆっくりと離れる様に後退りをしていた。
「おい、仮にも自分で産んだ息子から何で逃げるんだ?」
「く、来るな……!!」
しかし、俺は歩みを止めない。
エレノアはどんどん壁際へと追い込まれていく。
「話通じねぇのか、このババア」
「なっ———い、イルガ……」
「何だ? ババアなのは事実だろ。俺からすればそこらの70歳より老けて見えるわ」
「っ、イルガ———ッッ!!」
ブチギレたらしく、突然俺に突進してくるが……俺は特に何もしない。
そのままエレノアは俺にぶつかると……。
「———死ねぇぇええええええ!!」
俺の腹に、ネグリジェの中に隠していたらしい短剣を思いっ切り突き刺した。
「……」
「はは……あははははは!! 何よ、ビビらせやがってッ!! お前は……お前なんて私の息子じゃない! 私に害しか与えないお前なんて!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね」
エレノアが、俺の全身を何度も何度も何度も何度も突き刺した。
鮮血が飛び散り、俺の服を染め、エレノアの全身が真っ赤に染まっていく。
目の前には、自身の母親が不気味な笑みを浮かべて嗤う。
……痛いな。
俺は刺されながら、そんな事を思う。
少し前なら普通に泣き叫んでいたであろう痛さだが……A級モンスターの毒を全身に浴びた時の痛みに比べれば微々たるものだ。
「あはははハハは!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねッッ!! 出来損ないの雑魚!!」
俺が何も言わないのを良いことに、エレノアは俺を押し倒して更に短剣を突き刺し、グリグリとかき混ぜる様に突き刺した。
明らかにもう正気じゃない。
…………どうだよ。
これがコイツの本性だ。
どれだけ期待したところで、コイツが改心することはあり得ない。
もういい加減いいか?
もう良いだろ。
———なぁ、
「はぁ……はぁ……くふふ……あはは……やっとやったわ……この塵屑を———」
「———もう終わりか?」
「カハッッ!?!?」
俺は全身血まみれのまま、上になるエレノアの首を掴んで立ち上がる。
エレノアの瞳には、俺への恐怖、絶望、困惑がぐるぐると渦巻いていた。
「な、なん、でっ……と、毒も塗って……」
「悪いな、俺に毒は効かないんだ。勿論……傷ももう無いぞ」
俺は滅多刺しにされた腹の血を拭ってみせる。
半信半疑で恐る恐る俺の腹を見たエレノアは———大きく目を見開いて顔を歪め、全身をぶるぶると震え始めた。
ガチガチと歯を鳴らし、喉を締められているのも忘れたのか呆然と喘いでいる。
「あ、あ、あぁぁぁぁぁ……」
「どうした? 何で俺にそんな目を向けているんだ? 殺したと思ったのにピンピンしているのが怖いのか?」
俺は地面にエレノアを投げ捨てる。
現在この部屋はサーシャによって防音結界を張って貰っているので、どれだけ騒ごうが誰も来ない。
俺に投げ捨てられたエレノアは苦しそうに首を押さえて喘ぎ、俺を見た瞬間に絶叫してどうにか俺から離れようと頑張っている。
だが、結界がそれを阻む。
エレノアは何度も此方を見ながら、ドンドンと結界を叩く。
「何で……っ、何で出れないの……!? 開けなさい! 誰か……誰でも良いから誰か私を助けなさいよ!!」
「無駄だ。防音結界が張られてるからな」
「うそ……嘘よ……、何で私がこんな目に……」
「俺に暗殺者を送っておいて良く言うな。ここまでくると感心すら感じるな」
俺が鼻で笑って言うと、エレノアが叫ぶ。
「五月蝿い……五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い五月蝿い!! お前を産んだのは私なの!! だからお前をどうしようと私の勝手でしょ!? だから命令よ!! 私のために今すぐに死にな———さ……い…………?」
エレノアは突然目の前から俺が消えたことに驚いたのだろうか。
それとも———。
———ゴトッ……。
自分の身体が見えることに、驚いているのだろうか。
「まあ、もうそれも分からないがな」
俺は、驚愕に瞠目したまま絶命したエレノアを見下し、部屋を出る。
頬を、一筋の涙が流れた気がした。
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