第9話 盗賊系ヒロイン(途中からヒロインside)

 変更があります。

 格闘家系ヒロイン→盗賊系ヒロイン

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 ———セニア。

 この世界と酷似したゲーム———【勇魔大戦】のメインヒロインの1人。

 お宝探しは勿論、素早さと手数の多さを生かして主力として戦うだけでなく、隠密や危機感知能力で味方全員をサポートすることも出来る万能タイプのヒロイン。

 また、『もやし』ことイルガにとある魔法使いヒロインと並んで何度も何度も状態異常攻撃を乱用してくる天敵でもある。

 

 そんなメインヒロインの一角を担うセニアはというと……。


「……ん」

「……??」

「兄貴、それは『あーん』ですぜ。セニアは絶望的に感情表現が下手くそだが……意外と人懐っこいんだ」

「……ん」

「そ、そうか……ありがとう……」


 何故か、何らかの鳥の骨付きもも肉を俺に向けて差し出していた。

 俺は困惑に困惑を重ねてアギトに助けを求めるも、あっさりと『これはあーんだ』と断言されて食事に戻りやがった。


 一体何故こんなことになっているのか。

 それは俺にもさっぱり分からない。


 あの後、取り敢えず宝の5分の4を空間収納バッグに詰め込んだのだが、何故かアギトがの野郎が……。


『よぉぉし! これから兄貴の歓迎会を始めるぞぉおお!!』


 と声高らかに言ったのがキッカケで、盗賊達から手厚い歓待を受けていた。


 ……いや何で??

 悪役は悪(?)に好かれやすいデバフでも付いているのか?

 いや、メインヒロインがいるし、コイツら悪人じゃ無いのか?


 ただ、メインヒロインがこのよく分からない盗賊達と行動を共にしているのであれば、コイツらを治安維持隊に突き出すのはもう不可能と考えた方が良さそうだ。

 わざわざ天敵の敵意を買うなんて一切必要ないしな。


「さて……アギト、お前は他の盗賊を知ってるか?」


 多分この盗賊団のお宝だけで俺の目当ての物は余裕で買えるのだろうが……保険としてまだまだお金は欲しい。

 武器や防具、魔導具に古代の遺物アーティファクトなどが必要な俺は、何かと金が掛かるのだ。


 俺の問い掛けに、アギトは少し考える素振りを見せた後で答える。


「……知っているっちゃあ知っているって感じですぜ、兄貴?」

「いや、それでいい。全部教えてくれ」

「……兄貴は盗賊狩りなんですか?」

「違う。この際だから言うが……俺の本名はイルガ・マジックロードだ」

「「「「「「!?」」」」」」


 俺が自らの名を名乗ると、先程まで1ミリも表情を変えなかったセニアも含めた全員が瞠目した。

 同時に、アギトとその子分達が焦りに焦りまくる。


「あ、兄貴……! さ、さっきまではすまなかった……!!」

「いや、もう良い。俺の目的のお宝は手に入れたからな。そもそも最初からお前らを殺す気などない」


 人を殺さないチキンなもんで。

 極悪人なら躊躇なく殺れると思うが。


 なるべく早くこの甘さは捨てないとな……なんて俺が心の中で戒めていると、何故かセニア以外の5人共が俺に抱き付いてきた。


「「「「「最高ですぜ、兄貴!!」」」」」

「や、やめろ! 男に抱き付かれて喜ぶ趣味は……は、離れ———」


 勿論俺は、全力で対抗した。












「———……」

「な、何だ……?」

「……別に」


 私———セニアは、不思議そうに私を見るイルガ(イルガに兄貴はやめろと言われた)に首を横に振る。

 そんな私を見て、イルガは余計意味不明そうに首を傾げていた。

 何か可愛い。


 つい数時間前。

 私の家に知らない人が来た。

 見た目は……私と同じくらいかそれより少し上くらいの男の子だと思う。

 そんな私を育ててくれたお兄達は、物凄くその男の子の顔色を窺っていた。


 始めは何でお兄達はそんな腑抜けたようなことを……と思ったが、直ぐにその理由が私にも分かった。

 彼は……相手にしては行けない相手だと私の全てが警鐘を鳴らしたからだ。


 初めて彼を見た時に全身の鳥肌が立ち、背筋が凍って、首元に刃を突き付けられたかの様な……それこそ、まるでドラゴンと相対している気分になった。

 なまじこの盗賊団で1番強く、気配にも敏感な私にとって、彼が非常に恐ろしかった。


 でもいざ話してみると……何故か彼は私を露骨に意識していることに気付く。

 彼からすれば私なんぞ片手で容易に殺せるはずなのに、である。


 ただ、何となく理由は分かった。


「ん、イルガ……素人?」

「ぎくっ」


 もはや隠す気などないのか、イルガは私の問いに露骨な反応を見せた。

 ただ、やっと私を意識……少し警戒している理由も何となく分かった気がする。



 彼は———恐らく肉体の性能に追いついていない……それも絶望的に。

 


「よ、よく分かったな……」

「……何か気配がチグハグ」

「……やっぱ気配に敏感な盗賊系メインヒロインにはバレるのか……」

「??」


 イルガが何やら手を顎に当てて、メインヒロイン(?)なんてよく分からない言葉を呟いていた。

 私が首を傾げると、イルガは「いや、何でもない。気にするな」と首を振る。

 しかし何か思い出したかの様に言った。


「セニア、因みに聞くが……学園には行くよな?」

「??」

「あ、兄貴! セニアにはまだ言ってませんが、学園に行かせますぜ!」

「そうか。……ふぅ、危ねぇ……俺が接触してストーリーが変わるかと思ったぜ……」

 

 又もやイルガがよく分からないことをボソボソ言っている。


 ホント、とっても変な人。 

 ただ……きっとこの人は悪い人じゃないのだと思う。

 私はアギト達としか話した事ないから、別の人……それも同じくらいの年齢の人と話すのが新鮮なのもある。

 そして観察すればする程ミステリアスな雰囲気が強まるのも……こんな私に普通に接してくれるのもポイント高い。


「はぁ……長居しすぎた。そろそろ行く」

「ん、もう行っちゃう?」

「それが俺には時間が無いんだ。あとセニア、お前は絶対学園には行けよ?」


 変なところを念押してくる、この盗賊団の新しいお頭のイルガ。

 私はそんなイルガに尋ねた。


「ん、イルガは学園に通う?」

「まぁ……そうなるだろうな」


 イルガは何か遠い目をした後、苦虫を噛み潰したような表情で渋々頷く。

 私はそんなイルガの返答に、内心ぐっと拳を握った。


 もっと彼とは話がしてみたい。

 彼なら、何でも知っていそうな感じがするから。

 あと、初めての同年代だから、と言うのもあるし……何より、私を見て不気味がらないから。



 人形ドールと呼ばれ、この盗賊団以外の人間に忌諱された私を。



「ん、イルガは私が怖い?」

「いや全然。ただ、お前の攻撃方法は物凄く怖い。トラウマだ」

「??」


 またよく分からないことを……でも、本当に私を忌諱しても見下したり侮蔑したり恐怖したりしている様子は見られない。

 そしてそんな彼と学園に行けば会えるのなら……。



「———ん。学園、楽しみにしてる」



 学園というのも、悪くない。

 

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