第7話 【緊急】お金を稼げ

「———金が必要だ」

「……どうしたのですか、イルガ様?」


 ピクニックから2週間。

 自室のベッドに腰掛け、真顔で言った。

 そんな俺の言葉を聞いて首を傾げるサーシャに俺は言葉を続けた。


「……強くなりたいんだ」

「えっと……??」

「ごめん、説明不足だったな」


 俺はサーシャに詳細を説明する。


「サーシャも知っているだろうが、俺は武術の『ぶ』の字も知らない。更に前回のトロール戦で、如何に武術が大切か身に染みて分かった。よって……俺はこれから【闘神】に弟子にして貰うべく、お金が必要なんだ」

「と、【闘神】っ!? あの伝説の!?」

「ああ。あの伝説の【闘神】だ」

「…………」


 サーシャが口を開けて惚けたように驚くのも無理はない。

 俺が言った【闘神】は既に表舞台から姿を消して20年以上は経っているのだから。


 ———【闘神】。

 50年程前に現れた武人のことで、凡ゆる武器を使って人間の国に戦争を仕掛けてきた魔族(中にはゲーム終盤で出てくるレベルの強力な魔族も大勢いた)の3分の2をたった1人で殲滅した大英雄で、【闘神】はその時に付いた二つ名である。

 本名はマグナス・アレス・バウロスで、平民の生まれであり、今の俺と同じ様に魔力を持たない『欠陥者』と呼ばれる存在だった。

 ゲームでもサブストーリー的なもので登場し、弟子にして貰えばステータスが上がるだけでなく、マグナスオリジナルの【リミット解除】と【闘気】と呼ばれる特殊な強化スキルが獲得できる。


 まぁ凄い強化スキルなのは間違いないのだが、どちらも体力が徐々に減っていくので使い道はそこまで多くなかった。

 しかし、圧倒的な再生能力と肉体機能を持った俺ならば、その体力減少デバフすらも無効化出来るはず。

 それが無効化されれば、あとは物凄い身体を強化してくれる最高スキルに早変わりというわけだ。


 ただ1つ問題があるとすれば……。


「———とんでもなく、遠いんだ」

「あっ……だからお金……」

「そうだ。転移石を買うには途方もないお金が必要になるのは、サーシャも知っているだろ?」

「はい……何でも1つで邸宅が建てられるくらい高価な物と……」


 正確には金貨1000枚……日本円で言うところの1000万円と言ったところか。

 この世界での平民の年収が金貨10枚、10万円ちょっとなことを考えると有り得ないくらい莫大な金額である。


「よって……サーシャ」

「は、はいっ!」


 シャキッと背筋を伸ばし、緊張で強張った表情になるサーシャ。

 そんなサーシャに新たに頼みを告げた。



「———3日だけ、俺の留守を誤魔化してくれないか……?」











「……サーシャは喜んでるけど、物凄く悪いことをした気分だな……」


 結局、サーシャは喜んで俺のお願いを聞き入れてくれたが、危ないと思ったら絶対に逃げることを念押しされた。

 しかしそんなことより、僅か7歳の少女にあれこれ頼むのが物凄く何とも言えない罪悪感を感じさせるのだ。


「……余ったお金は全部サーシャにあげるとするか」


 もし要らないと言われても、ご主人様命令で受け取らせよう。

 そうでもしないと日本にいた時の常識を持つ俺が罪悪感に耐えられない。


「そうと決まれば……一先ず盗賊を探すとするか」


 勿論ゲームでも度々移動中に盗賊に出交わすことがあった。

 ただその時は、ひたすらに盗賊に対して何とも思っていなかったので、何処に出没するか詳しく覚えていない。


「……こんなことならもっと興味を持ってあげれば良かったな……」


 今更になって後悔するが……残念ながらタイミング良く現れてくれたりはしない。


 現在俺の格好は、盗賊に狙われやすい様に敢えて高そうな服や装備を着込んでいる。

 それなのにかれこれ4時間くらい全く現れてくれないので、早速心が折れ掛かっていた。


「……普通に冒険者になった方が……ってまだ俺の年齢じゃ冒険者なれねぇわ」


 確か冒険者になる最低年齢が15歳くらいだった筈なので、1、2歳ならまだしも、流石に6歳差を誤魔化すことは出来そうにない。

 つまり、盗賊狩りをしてお金を略奪する事以外に俺が金を稼ぐ方法は無いわけである。


「あ〜〜〜〜早く15になりてぇ……」


 何て愚痴っていると———。



「———おい、小僧! ここらで見ない顔だなぁ? それに……ふっ、随分いい装備じゃねぇかぁ」

「お頭! アイツ……きっとどっかの弱小貴族のボンボンですよ! でないとこんな場所1人で来ませんよ!」

「へへっ……あのガキ、俺達を見てビビってますぜ!」



 俺の行く道を塞ぐ様に、5人組のThe盗賊って感じの男達が現れた。

 奴らは俺がふるふる震えているのが自分達にビビっているから、と捉えた様だが、実際は全然違う。


 き、キタァアアアアアア!!

 遂に俺の可愛い可愛いカモがキタァアアアアアア!!

 

 俺は心の中で狂喜乱舞をしており、喜びの衝動を必死に表に出すまいと耐えているだけである。


 ただ、当たり前だが、俺は人間を殺すのは流石に忌諱感がある。

 この世界に転生したとは言え、これでも前世は平和な日本生まれだからな。


 しかし同時に———こういった盗賊達がモンスターなんかよりよっぽど極悪非道であることも知っている。

 モンスターにも快楽のために人を殺す者もいるが……基本的には人間が縄張りに入るかとんでもなく飢餓状態の時などの生存本能的な部分が大半らしい。


 なので盗賊は、簡単に言えばモンスター以下の存在なのである。


 俺は鞄から取り出した小刀を構えた。

 途端に、盗賊達は俺の姿にケラケラと嘲笑する。


「ガッハッハッ!! コイツ、俺様達に立ち向かうらしいぜ!?」

「らしいですね、お頭! これは1発世間の常識を教えてやらないといけませんぜ!」

「そうだぜお頭!」

「ギャハハハハ!! お頭、やってやりましょう!!」

「ガッハッハッ!! そうだな! 小僧、悪く思うなよ———ッッ!!」


 そう言って盗賊達が襲い掛かって来る。

 俺はそんな盗賊達に———。



「———ふんっ」

「グハッ———ッ!?」



 取り敢えず死なない程度に力を抜いたパンチを喰らわせる。

 それがお頭とか言う男の顔面にぶち当たり、吹き飛んだ。


「「「「お、お頭ぁぁあああ!?」」」」

「余所見はダメなんじゃないか?」


 俺は一瞬で2人を腹パンで吹き飛ばすと、残り2人に飛び込んだ。


————————————————————————

 ☆☆☆とフォロー宜しくお願いします!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る