咲くことができなかった蕾が赤い花になるまで

オリスケ

前編

僕はこんな世界が嫌いだ。人間が自由に生きなくさせているのは人間なんだとつくづく思う。僕は男だが、昔から同性にしか恋愛感情が湧かない。いわゆる同性愛者だ。同性に恋心を抱き始めたのは幼稚園にいたときの事で、小学生になって同性愛について学んだ。それがまさに自分のことだと知り、最初は唖然としたが先生が「今はそれが当たり前だよ」と授業で言ってくれたおかげで勇気 が出た。だが5年生のときに勇気を出して告白してみたが最後。そのことがクラスや学年に広まり、俺は男好きだとかホモだとかでいじめられた。誰に話しかけてもキモがられ無視される。机には落書きで「死ね」とか「学校辞めろ」とか毎日のように書かれ、帰り道では人間じゃない、地球から出て行けと言われ 石を投げられたこともあった。そうして僕は学校に行かなくなった。・・・何度か死んでやろうかと思った。 『周りと違う自分は生きていても邪魔になる』『この先僕はずっと自分を知られた人間に否定され続けるのか』そんな感情ばかりが頭の中を巡っていた。ニュースでは同性愛者を認めるように促すようなデモが流れたり、僕たちのような人間が少しでも楽になれるような取り組みを見たことがあったが、そんな取り組みの影響など微塵も感じなかった。自分がまさに今でも生きにくいからだ。むしろまだ苦しみ続けている人が多い現状にあると思う。国は同性愛者を認めようとしないらしい。ふざけんな。僕たちのような人々を殺し続けているのと同じだ。『あの時の授業やニュースは嘘だったんだ。』 そう自分に言い聞かせ僕は誰にも心を開かず孤独で過ごしていた。

中学ではいじめてきた奴らと同じにならないように、親が晴町の中学校に入学させてくれた。そこなら自転車で行けるし、多少小学校と同じ人はいるかもしれないが、そこならまだ安全に学校生活を送れるようになるのではないかとすごく気を使ってくれた。いじめの事は親には心配させたくなかったから言わなかったが、あまりにボロボロの状態で学校から帰ってくる日が多く、ただのケガではないことに気づかれ、何があったのか聞かれた際に勇気を出して打ち明けたら信じてくれた。本当によかった。

『中学ではあまり自分を出さないようにしよう。』 そう思い俺は自分を押し殺して毎日を過ごすことにした。2年生になると、一人の男子クラスメイトが休み時間に席で本を読んでいる僕に話しかけてきた。その子は僕に一言言った。

「友達になろう」と。

その時の僕は人を簡単に信用しなくなっていた。友達になっても裏切られて小学生のときのようになるのが怖かった。

「・・・友達なんていらない」

僕はそう言って逃げるようにその場を去った。今思えば少しは信用したかったのかもしれない。正直複雑な心境だった。それでもこうしないとまた同じ目に逢ってしまうことが怖くて怖くてたまらなかった。どうすることもできないと思いこんでいた。

次の日、昨日と同じように自分の席で本を読んでいるとまた昨日と同じクラスメイトが話しかけてきた。 話によると、僕が小学生の頃にいじめられていたことを僕の幼馴染から聞いたらしい。原因も全部知られた。その話を聞いて背筋が凍りついた。中学に入ってからやっと抜け出したと思っていたのも束の間だったのかと絶望していると、「・・・俺もそうだったんだ。」と呟いた。

その一言に僕は一瞬疑った。自分以外に同性愛者が近くにいることが考えられなかったからだ。

「俺も前の学校で散々いじめられてたんだ…ただ好きになる相手が同性だったってだけで、クラスの人から避けられたり、酷いときは話しかけてだけで暴力された日もあってね…」

「……ほんと?」

「うん…親に話しても拒絶されて、いじめの事に何もしてもらえなかった。」

「そうなんだ…」

「…だから俺はずっと自分の事に悩みながら毎日を過ごしてきたんだよね。」

いつもは人を疑ってばかりだったが、そいつはなぜか信頼できた。実際そいつはよく見れば腕や足に何か所か痣があり、目に涙を浮かべていた。「だけどこの中学に来て漣くんが俺と同じ目に逢ってたって聞いて、どうにか助けてあげられないかなって思ったから…何かあったらいつでも話聞くね…?」

彼はそう言って、僕に優しく語りかけてきた。

「ありがとう…」

僕は嬉しくてたまらなかった。自分と同じ人間が周りにいることが夢のようで、味方がたった一人出来ただけでも、とても心強かった。彼の名前は高村 颯真(たかむら そうま) とても優しくしてくれる人だった。最初は自分から話しかけるのに戸惑ったが、いつも高村くんから笑顔で話しかけてくれるおかげですぐ馴染むことができた。高村くんのおかげで僕は救われた。

「恭輔、一緒に帰ろうぜ〜」

「うん、いいよ!」

高村くんと仲良くなって半年と少し経った頃、僕はすっかり高村くんと仲良くなることができた。そのお かげで楽しい学校生活を送れている。高村くんは電車で登下校しており、駅までは同じ道なので特に予定がないときは、たまに一緒に帰っている。

「そういえば高村くんって電車で来てるんだよね?どの辺なの?」

「ん〜実家はもう少し遠いんだよね、今は学校がじいちゃんとばあちゃんの家にまだ近いから、そこに住んでるかな。」

「親には会ったりしないの?」

「親は忙しいからね、なかなか会えないな〜」

「そっか、大変だね・・・」

「まぁ寂しくないよ。じいちゃんとばあちゃんいるし。」

高村くんは余裕そうに言った。一瞬心配したが本人もあまり気にしてなさそうだったので安心した。

「あのさ!今度よかったら家に行ってもいい?」

「え?俺のとこ何もないよ?w」

「いろいろ持って行くから!」

「わかった。行けるか聞いておくね。」

「ありがとう!」

急に無理なお願いを言い出したのにも関わらず、高村くんは笑顔で言ってくれた。高村くんとは何回か遊んだことがあるが、お互いの家に行くことはなかった。いつもゲーセンやカラオケとかだったので1回くらいは家でのんびりしたかったから嬉しかった。

「じゃあまた明日ね!」

「うん!ばいば〜い」

中学生になって環境を変えたことによって小学校であったようないじめがなくなり、閉ざしていた自分の心を開くきっかけになった友達に会うことができた。今は毎日が充実していて楽しい。

「…生きててよかった。」

安堵の息を漏らした後、僕は呟いた。今まで嫌いだったこの世界が少し好きになれた気がする。僕の人生はここから再開していくんだ。

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