英雄の十剣
@miuraryo
第1話 西域守護の剣
この俺レイグは灰色の壁が立ち塞がる戦場で、絶望を感じながら立っていた。
俺はただの農民だが、戦争が起きれば強制的に徴兵され、使い捨ての駒として戦うことを強いられる。なんの力も持たない俺は自分の死から遠ざかるためにうまく矢の攻撃が当たらない位置で体を屈めることしかできない。
「全軍! 突撃ぃぃぃぃぃぃ!!」
馬に乗り全身を鉄の甲冑に身を包んだ貴族サマが、俺たちに命じる。
その号令に従って、俺と同じ境遇であろう人々が目の前の砦に攻撃を仕掛ける。
砦の壁に梯子をかけて登ろうとしているが、敵兵の投石や弓矢によって叫び声を上げながら死にゆく者たちしか、そこにはいなかった。
「キサマ何をしている! 早く登れ!!」
そう怒鳴られたのは俺だった。騎士からけんを突きつけられる。これに対抗してはいけない。抵抗したり抗議すれば人と思わない剣で簡単に殺される。
「わかりました…………」
俺は全身を震わせながら、砦の壁に近づく。
壁の梯子の前には人が押し寄せており、次々と登り進んでいる。
そしてその者たちは上まで達することがないまま、敵兵に阻まれ落ちていった。
並んでいると、次第に俺の番が来た。震える手足を自分の意思でなんとか抑えながら、梯子に足をかける。
ちらりと隣にかけられているハシゴを見ると、俺と同様に自分の番が来てしまった者がいた。
互いに視線が交差する。
そして次の瞬間には隣にいた人間の頭に矢が刺さり、血を流しながら地に倒れた。
「あ……あぁ…………」
それでも進まねばならない。砦の上を見ながら、登り進む。途中で落ちそうにもなったが、必死に梯子を掴んで登る。
そして遂に、自分の死期が来たことを知った。
砦の上から兵がこちらを見ており、弓を既に引いていたのだ。頭に当てられると確信しているのだろう。敵兵の口角が上がっているのがはっきりと見えた。
(ここで……終わりなのか……?)
矢が放たれる。反射で目をつぶってしまった。
が、その時。体の全身を震わす大きな音が響いた。その振動に驚き、俺は梯子から落ちてしまった。
「大丈夫ですか」
目の前にあった壁は、まるで何かに貫かれたかのようにえぐり取られていた。そして次々と兵士たちがその穴から砦内へと侵入する。
「あ、あれ。だ、大丈夫?」
そこでようやっと俺が話しかけられたのがわかった。振り向くとそこには、まるでこの世の人とは思えないほどの美しき女性が立っていた。
歳は俺と同じくらいの18であり、髪は銀色で瞳は青。顔は女神のように整っており、体型はすらりとした形で女性としての魅力を放っていた。
「え、えと」
俺は上手く口が回らなかった。自分がいまだに生きているという実感と、目の前にいる見たこともないような美少女が合わさって思考がうまくまとまらないのだ。
「大丈夫? 立てる?」
手が差し伸べられた。
その他は白く美しく、自分のような男が触れていいのか悩むほどだった。
「た、立てます」
足に力は入らなかったが、なんとか彼女の手を取らずに立ち上がることはできた。
「お、大丈夫だったみたいだね。それじゃあ、私は先に行くよ」
そう言って彼女は砦の中へと進もうとする。
俺は思わず、彼女の手を取りその前進を止めてしまった。
「ま、待ってくれ。砦の中は危ない。行くべきじゃないよ!」
砦に穴が空いてこちらの勝ちが見えたとはいえ、敵の反撃はないわけではない。
彼女ほどの美少女が敵兵のせいで死んでしまうのはこの国にとって大きな損失だ。
「え!? いや、大丈夫だよ」
彼女は俺が掴んでいる手を優しく包み、ゆっくりと俺に返した。
「心配してくれるのは嬉しいけど、私は死なないよ」
彼女は胸を張ってそう言った。
「だって私は、この国の最高戦力だからね」
彼女はそう言って俺に剣を見せた。すると、その剣が光り輝き、彼女の身が浮く。
「みんなが安心してこの国にいれることを証明してみせるよ」
彼女はそのまま、要塞の中の建造物へと突貫する。するとたちまち、石の壁でできたその建物には、大きな穴が開いたのだった。
この国には、一本で一国の戦力に匹敵する剣があるのだと同じ徴兵された者たちの中で噂があった。
俺も所詮噂だろうと思っていたが、この光景を見ればそれが本当であると信じるしかない。
そして噂によると、それらの剣は世界に10本存在し、こう呼ばれているらしい『英雄の十剣』と
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