天生ゲーム~僕が僕であるための話とそれに付随したいくつかの生き様について~
@hmgtnrt
第1話
「ハローハロー。こんばんは。それでは君を殺しに来たよ」
寒空の中、夜を切り取ったような黒のロングコートにパーカーのキャップを目深に被った彼はそういった。
いや、本当に「彼」なのだろうか。
声は機械のようなしわがれた声で、こんな寒い夜の月明かりでは顔も見えない。
「じゃあ、そういうことで」
彼(とりあえずそう呼ぶ)はまるで昔ながらの友人に再会するかのような気軽さで雑さで僕に近付いた。
せめて殺気だってほしいんだが、そういうのもないので実感が全くない。
僕はこれから殺される、それはまず間違いないんだけど。
「ちょ、ちょっと待って」
流石にこんな状況は笑えないし笑いごとでもない。
こんな街外れの公園で殺されても寒いし助けも誰も来ない。
白い息の中死ぬなんて、どんなドラマだよ。
「ふーん……。じゃあ何か一つお願いを聞いてあげようじゃないか。」
彼はそういうとコートの内ポケットからなにか紙を取り出した。
おそらくそれは僕がここに来るまでに書いた手紙だろう。
誰に見せることも想定していなかったのになあ。というか人の部屋によく入れたな。
むしろ、あの家によく入って無傷でかえってきたなあ。
誰にも入ってこられないようにしてたのに。
「じゃあさ、一つ聞いていい?」
「どうぞ」
彼はポケットから出したボールペンを手でくるくる回した。
「 なんで君は僕を殺そうとするの?」
僕がそう言うと彼はペン回しを止め、僕の眼を真っ直ぐに見た。
「君は死ぬ方が良いからだよ」
その声は少し寂しそうだったが、それ以上に楽しげで。
「ただそれだけの話で、君もどうせ死ぬつもりなんだろう?」
「まあ、そうだけど……」
彼はなにが面白いのか、ケタケタと笑った。
「君はダラダラ生きるのと死ぬ理由がなくなるの、どっちが良い?」
僕は少し考えて、答えた。
「……生きるよ」
「どうして?」
「いや……だって、ここで死ぬのも勿体無いじゃないか」
彼はまた笑った。今度は心底楽しそうに。
「今夜は寒いだろ?暖かくしてやるから帰ってみろよ、家に、な」
彼は機械の音声を震わせながらそう言った。
確かに、少し周辺が暖かくなってきた。
家までの道を温めてくれたのだろうか。
「アンタ。魔術を使えるのか?」
「まあ、そういうことにしといてくれよ」
そう言い残した彼は、幻かと思うように消えてしまい。結局最後まで彼は顔を見せなかった。
コートに隠された顔はどんな顔をしていたのだろうか? 僕はそんなことを考えながらも振り返ろうとして。
その温かさが尋常でなく熱いことにようやく気が付き。
そこで僕は「生きる理由」を確かに彼に与えられたことに気が付いた。
急に汗ばんできた全身が、耐えられないほどの熱波が、僕の住んでいる街を焼き尽くしていくのを目の前を現実だと否応なく俺にたたきつけながら。
「おーい、起きてるかー?」
声が聞こえる。聞き覚えのある声だ。
「おーい、寝てんのかー?早く起きろよ」
どうやらその声の主は僕を揺すっているようで、僕の体が僅かに揺れるのを感じた。
「うっ……うーん……」
僕が呻くと声の主は僕から手を放したようだ。
なんだか体を横にしているだけで精一杯なくらい全身が重いし痛い。なんだろうこれ? しばらく目をつむっていると
「起きろや、島が見えたぞ!」
声の主がそういったので、僕は慌てて飛び起きた。
「えっ……どこですかここ!?」
僕は辺りを見渡した。
見渡す限りの青。透き通るほどの雲ひとつない晴天に、穏やかに揺蕩う真っ白な海原。
そして豪華客船にふさわしい船内プールや豪華なチェア(呼び方はしらない)確かに見覚えがあったのだ。
ただし、豪華客船によくいるお金持ち風の人は一人もいない。
いるのはむさくるしい男どもだけだ。
「あー……ここは……」
僕は静かに立ち上がった。そして自分のいる場所よりももっと先を見るように水平線の方を見据えた。
「あははっ」
あの夢を見るのは久しぶりだな。
「僕」はそう思いながら片手で持てる程度の荷物を確認する。
「えー。今から再度あの島の目的を説明する!!屑どもよく聞くように!」
急に舩中のモニターが一斉に点灯して、成金爺の顔がドアップで怒鳴り始めた。
「あの島こそは、我が九鬼財閥の有する4番目の島『ウィンディリア』である!まず、この島の特徴は……」
成金爺が長々と話し始めたのを聞き流しつつ、俺はその島が見える船首に近づいていく。
「……よってこの島は無人島であり、管理は我ら九鬼財閥によって完全に……おいそこのお前!私の話をちゃんと聞いているのか!?」
まさか、リアルタイムだとは思わなかった。時差もあるだろうに、やはり一代で財閥を築き上げた手腕は伊達じゃねえや。
「要するに。あの島に『不老の魔導杖』の手がかりがあるからそれを見つけてきた奴に報奨金と願いを一つ叶えてやるって話だろ?」
僕は面倒くさそうにそう返すと周りはどっと沸き始めた。
「まあ、そういうことだ。お前らの働きに期待しているぞ」
成金爺はそれだけ言うと、もう用はないとばかりにモニターが切れ、船内のむさくるしい冒険者の雄たけびが聞こえた。やる気いっぱいだな、みんな。
(さてさて、どうすっかなぁ……)
僕は面倒くさそうに頭を掻いた。
『ウィンディリア』は九鬼財閥が管理する島の一つであり、主に不老の魔導杖やその使用方法などを秘匿するために作られた島であるとされている。
されている、ということはつまりよくわかってないという話であり。
そして僕の仕事はそんな『ウィンディリア』の調査を依頼された、まあ下級冒険者ってやつで、つまりこの船の船頭以外は全員そうだ。
「死にたくねえよなあ...」
僕は目の前の恐竜が出てきそうな大密林の島をなんとなく見ながらそうぼやいた。
「いや、そこは死んでも構わないで良いんだぞ?むしろ死ね」
唐突に背後から話しかけてきたのは、この船の船長だった。
「まあ……そういうなって。少なくとも僕らが死ぬかどうかはお前らが仕事を成功させるかにかかってるんだぜ?」
「まあそうだがな」
船長はバツが悪そうに頭を掻いた。
いかにも海賊船の船長みたいな風貌で口が悪いのに、何か憎めないこの船長は見た目通りの腕利きだ。
あの島は財閥に管理されている以上、不用意に近づいた船は2隻たりともかえって来ない。
だからこの口の悪い船長が送り迎えをしない限り、あの島に幽閉されることになる。
磁場も狂う海域の島で研究して、データの共有とかどうすんだろう、と気になったが深くは考えるのが面倒なのでやめておいた。
「さてと、そろそろ着くぞ」
船長は船のエンジンを緩めながら島に近づいていく。
僕はその揺れを甲板の柵に寄りかかりながら眺めていることにした。
というかこのたかだか数10人を送り届けるのに豪華客船を使うのはどうなんだ。
これが財閥の余裕か、金持ちはどこにでもいるものだな。
というか。魔導杖ってそもそもなんなんだ?
「魔導杖ってのはね」
そう僕に声をかけてきたのは白衣の女性...いやエルフだから性別わからん。
エルフは全員美形だからな、そんなことを気にしていたら話が進むことはない。
「魔導杖っていうのは、正式名称を『エンチャントロッド』っていうんだけど、その形は様々で槍や剣や銃なんかもあるんだ」
彼女は僕の訝し気な顔などまるで気にする様子もなく話を続けた。
せっかくなので、島に着く前にこのエルフの素性も聞いておこう、助けてもらえるかもしれないし。
名前は『エステラ』。女性で主に医療系の研究をしているらしく最近まで研究機関にいたがそこでの勤めは辞めてきたとのこと。
まあ、研究員ということは冒険者ではないと言うことか。
冒険者だったらこんな白衣にジーパンみたいな体を魅せるような服装してあの島にはいかないだろう。
さながら船で待機してこちらの成果を確認してくれる、って感じかな。
「そのエンチャントロッドってのは不老以外にも効果はあるのかい?」
「いえ、特にそういうのはないわよ。せいぜい魔物避けとか治療の効率を上げる程度のもので、他は本当にただの装飾品よ」
彼女は眼鏡をくいっと直しながらいった。
その雰囲気は、建前上は大人向けの動画に出てくるきれいなお姉さん、て感じだ。
「ふーん……まあでも研究しがいはあるだろうな……」
エルフの研究する武器ってだけでもなんか浪漫があるしな。
そんなことを考えていたら急に船のエンジンが止まった。
「さあ、着いたぜお前ら。さっさと準備しろ!」
船長がそういうと冒険者達は一斉に船を下りていく。
「ところで、貴方の名前は?」
エステラが急に僕に話を振ってきた。
「ん?ああ、僕の名前は『リーク』さ」
俺は適当に偽名をでっち上げて名乗った。
「リークさんね。よろしく!」
彼女はそれだけいうと冒険者達の流れに乗って島の探索に向かっていった。
(まあ、どうせもう会うことはないんだろうな……)
「不老の魔導杖」を手に入れても死ぬようならその程度だということだ。
「まあ、精々頑張ってくれよ……」
俺はそう呟くとエステラの後に続いて、冒険者の後に続いて船を降りた。
こんな船が停まれるほどの港があるなんて、マジでこの島はこの船が来るように整備されてんだな。
いや。港が整備されてんのはわかるんだが。
この森の奥に続く道や。木の生え具合も意図的に整備したかのような……そんなことありえないか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます