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 彼は黒人だった。それこそ差別をされてきたような。真っ黒な人。


 だからこそ、彼はその周囲の人々の対応のひとつひとつに敏感だった。


 今朝彼は街を散歩していた。彼は散歩が嫌いだった。それ自体に嫌な思い出があるからだ。けれど、彼は唐突に街を歩きたくなった。


 彼自身もその訳がわからなかったが、とにかく家にいたくないと思ったのだ。




街に出ると、日差しが暖かく、彼を包んだ太陽の光はまだ鬱陶しいほどの強さを持たず、また弱々しい光でもなく、彼を包み込んだ彼はこの感覚は好きだった。


 それは彼らようやく3つ目の曲がり角曲がった時だった。隣を取った男性が小さく、まるで小言のように、「汚らしい。」そう、つぶやいた。


 決して彼は言動には表せなかったが、その内側の心はひどく傷ついた。法律で守られているために、暴言や暴力を行われる事はしばらくなかったが、それでもまだ陰湿ないたずらやいじめは続いていた。



 彼は大学生だった。今日はその入学式だった。昨日、外をふらついたばかりに、彼は、人としてひどく傷つけられたよって、今日の入学式もあまり乗り気ではなかった。黙って椅子に座っていると近くの席から声をかけられた。


「なぁ、友達になってくれよ。」


 その一言に、彼は耳を疑った。黒人である彼に声をかけ、ましてや友達になろうなんて相談してくるやつなんていないとばかり思っていたからだ。


「あぁ、ありがとう。も、もちろん。」


 戸惑い、驚きながらも何とか彼は承諾の返答をした。

 そして自己紹介が終わると、彼は自分の持っていた1番の疑問をその友達にぶつけた。


「なぁ、なぜ俺に声をかけようと思ったんだ?」


 数秒の間があったあと、彼の友達は一言、そうけろりと言い切った。


「まぁ、なんとなく。」


 ただ、なんとなく、彼を傷つけ続けたその気持ちは、今、彼を救った。

 彼は小さく笑った。瞳に少し涙を浮かべながら「ありがとう」と、そう言った。


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