第22話 叙爵と友人との出会い。そして王都へ。

「いやあ、よくやった」

 辺境伯ゼウスト=ヴェネジクト侯爵は、喜んでいた。

 戦争の勝利に、町が湧き上がっている中で、領主の館に呼ばれる。


「レオン。君にある男を紹介しよう」

 侯爵はそう言って、一人の男を部屋へ呼ぶ。

 その男は、ミヒャル=コンフューシャスと名乗る。


「彼の父上とは友人でね。そうそう、君と初めて会ったとき。あの時も彼の家から帰る途中だった。彼の父上は、軍略の天才だ。彼も教育を受けていて、友人になればお互い役にもたつだろう。仲良くするが良い」

 そう言って、侯爵はニコニコ顔だが、彼は違ったようだ。


「十五歳になったから、仕事を得ようと町へやって来た。君が友人としてふさわしいかは見させて貰おう。駄目なら見限るからな」

「あーはい。僕はたいした人間だと思っていません。皆に助けられて何とか暮らしています。年は、僕が一つ上のようですが、よろしくお願いします」

 挨拶をしていると、珍しくお嬢さんが口を挟む。


「レオン君はすごいんだから。今回騎士爵を叙爵じょしゃくするし、きっとミヒャル君の力にもなれると思うの。仲良くしてね」

「はい」

 お嬢様には、意外と素直なミヒャル君。


 だけど年の割に落ち着き、すべてを見通す目には深みがあった。


 だが、それよりも。

「ぼくが、騎士爵って本当ですか?」

「クリス。先に伝えるとは。レオン、論功行賞ろんこうこうしょうの場には君も出席をしなさい」


 そうして、僕は爵位を頂くことになった。

 まあ、話を聞くと、貴族というよりは、騎士の資格を持つという感じで、本当の貴族ではないようだ。手柄を上げれば陞爵しょうしゃくされ、準男爵や男爵と言った位になれるそうだ。



 そんな、領都が浮かれていた頃。

「なに? 勝っただと」

「はい。また快勝です」

「なぜだ。あの強力な軍を相手に」

 辺境伯軍を見張っていた、ウォルター=ペニントン男爵の報告を受け、自分たちが弱かったと認めたくないリザンドロ伯爵達。


 報告の中に、強力な武器の存在に気が付く。

 そして、当然。

「王に報告せねば」

 負けたことは隠し、帝国を退けたこと、そして辺境伯軍が隠し持つ、強力な武器の存在をさも危険。国家転覆もありえると吹聴をした。


 それを聞き、王は考える。

「侯爵には娘がいたな。国家安定のため妃。側室に迎えよう」

 そんな話になった。


 言い分としては、彼の地は帝国からの侵攻もあるし、強力な武器も必要だろう。

 それが、こちらに向かなければ良い。

 娘を娶れば、抑止になる。そうだろう。


 そう言うことのようだ。


 むろん。それに対して、辺境伯は反対だったが、王からの半ば命令。

 反対すれば、信用を失い。討伐の理由にもなる。甘んじて受ける。


 クリスも話を聞き、嫌だとは思いつつも、貴族の娘としての教育がある。

 父の立場も理解して、受けることを承知する。


 そして、王都へ向かう一行の中に、レオン達シグナの集いと、ミヒャル=コンフューシャスが混ざる。

 彼らを全員。騎士爵に叙爵。

 兵として紛れ込ませた。

 伯爵から、クリスを頼むと密命を受けて。


 かねてから思っていた娘の騎士。それを、こんな形で依頼することになるとは伯爵も思ってはいなかった。


 一行は婚礼のため、伯爵達と共に王都へ向かう。



 その道中。

 シグナの集いは、鍛えられた力を存分に発揮し、盗賊どもを幾度か殲滅するのに力を発揮。

 その強さは同行した兵達も驚く。

 そして、ミヒャルの目も光る。


 変態魔法士長のビクトリノ=エンシーナのおかげもあり、魔法もそこそこ操るようになって、レオン達に死角はなくなっていた。


 これは兵達にとって、かなりの驚きを与えることになった。

 

 むろん。伯爵も。



 そして、クリスの婚儀。

 その場に、護衛としての務めで、レオン達も出席。

 その後、伯爵は謀を巡らす。

 これは、思った以上に強くなっていた、レオン達を見て考えたこと。


「王様。我が軍が強いのは、武器がどうこうでは有りません。我が領を守るハンター達。その功績や多大。今回の戦争において功績の大きかった者達。まだ若いですが僭越ながら、王国の兵よりも力があると考えます」

 一歩間違えると不敬だが、自領に対して掛けられた妙な嫌疑。それを晴らすと同時に、レオン達を売り込み、娘のそばに付けようとする親心が、その背中を押した。


 それは、王から騎士団長へと話が伝わる。


「ほう。その様なことが。我が軍も人手不足。それほどのモノなら、力を見て。有用なら頂きたいですな」

 王国騎士団長フセーヴォロト=ヴァーシェン男爵と共に、王国兵団長ダヴィト=プリーヴァ男爵が目を付ける。

 この二人、自身は男爵称号だが、出身。

 つまり実家は貴族。


 口ではそう言うが、ハンターからの成り上がりなどあまり好んでいない。

「騎士爵など貴族ではない」

 公衆の面前で、その言葉を口に出すほどには。


 だが、その模擬戦では、目を丸くする。

 騎士団長、ヴァーシェン男爵は美しくないと否定をしたが、王国兵団長ダヴィト=プリーヴァ男爵はその戦い方に、軍としての希望を見いだした。


 その点で、レオンにとって、運命は味方をしてくれたと言って良いだろう。

 騎士団と違い、王国兵団は身分に関係なく、以外と手柄を立てれば上に上がれる。


 そして、レオン達は兵団に加入させられる。

 相手からの望みによって。

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