第2話






 離縁の手続き


 契約不履行に対する損害賠償請求


 私に対する慰謝料請求


 そして堕胎手術


 全ての問題を解決した後、実家を出た私はファッション関係の仕事に就きました。


 下積みから始まり、師匠に認められた事でチーフデザイナーとなり、遂に自身のブランドを立ち上げるまでになったのです。


 忙しいけれど充実した日々を送っていたある日


 襤褸を纏った男が店に足を踏み入れるなり、私を呼べと従業員が報告してくれました。


 顔に髪、ボロボロになった服に手足が汚れていたので誰なのか分かりませんでしたが、王子様を思わせる男の顔には見覚えがありました。


 女の敵・・・ではなくスコルピオ伯爵家の嫡男であるガイルです。



「ティアナ!エリナ・・・あの女には私以外の男が居たのだ!しかもあの阿婆擦れが産んだのは私の子供ではなかったんだ!!」



 私が自分から問い質していないにもかかわらず、女の敵ガイルは私と離縁してから何があったのかを語り始めたのです。



 自分の側に居るのは愛するエリナと、エリナとの間に産まれた可愛い子供


 エリナは秘書として夫である自分の政務を手伝い、時には自分に変わって伯爵家を取り仕切る。


 女の敵ガイルは真実の愛で結ばれた愛しいエリナと幸せな日々を送れる夢を見ていたのだそうです。


 しかし、実際は・・・


 自分が居た世界と比べたら娯楽が遥かに少ない世界での生活はエリナにとって苦痛でしかないらしく、ストレス発散に靴にドレスにアクセサリー等を買い漁る。


 伯爵夫人であるにも関わらず政務を手伝ってくれないし、屋敷を取り仕切ってもくれない。


 最悪な事に娼婦だった頃の馴染みの客達を屋敷に招いては己の身体と引き換えに金品を貢がせる。


「私の子供を身籠ったから、私はエリナを身請けしたというのに・・・!!だが、その子供は私の特徴を何一つ受け継いでいなかったのだ!!!」


 女の敵ガイルは金髪碧眼


 エリナは黒髪黒目


 産まれた子供は赤髪金眼


 両親の特徴を何一つ受け継いでいなかったものですから、子供が我が子ではないと悟った女の敵ガイルはエリナに慰謝料とこれまでに彼女が買い漁った金品の代金を一括で伯爵家に支払えという公文書にサインさせた上で離縁を言い渡したのだとか・・・


 金遣いの荒い阿婆擦れのエリナを追い出したというのに両親は自分をスコルピオ伯爵家から勘当したとか愚痴を零す女の敵ガイルですが、それ・・・赤の他人である私にとって何の関係もない話ですわよね?


 内心ウンザリしている私をよそに女の敵ガイルは語り続けます。


「そこでだ!事業で成功しているお前が私の子供を身籠っていた事を思い出したんだ。子供にとって父親は必要だろ?これからは親子三人で一緒に暮らそうではないか!!!」


「は?」


 女の敵ガイルの言い分に思わず間の抜けた声を上げた私は悪くありませんわよね?


 貴方・・・自分の子供は愛するエリナとの間に出来た子供で、私との間に出来た子供は不要だから堕ろして欲しいと仰っていませんでした?


 女の敵ガイルがそう仰ったからこそ、私は「子供が出来にくくなる。もしかしたら、二度と子供が産めないかも知れない。それでもいいのか?」と、医者からきちんと説明を受けた上で堕胎手術を受けたのですよ。


 女の敵ガイルは私との間に出来た子供を認めないし、私は女の敵ガイルとの間に出来た子供に愛情を注げない。


 結果として不幸な子供が産まれる事を防げたのですから結果オーライだと、笑顔で語る私を女の敵ガイルは何か得体の知れないものを見る目つきで見ています。


「子供に対して無条件に愛情を抱くのが女ではないのか!?それなのに赤子を堕ろしただと!?お前には人の情というものがないのか!!!」


 ・・・・・・それ、女の敵ガイルが口にするに相応しいセリフなのでしょうか?


 女が無条件で子供に対して愛情を抱くというのは幻想だと思うのですけどね。


 私だって愛する人・・・トラヴィス様との子供であれば無条件で愛情を注ぐ事が出来たでしょう。


 ですが、父親が女の敵ガイルという事実だけで私はお腹の子供に対して何も抱けなかったのですよ。


「こ、殺してやる!ティアナ、お前を殺してやる!!」


 事業で成功しているというセリフで女の敵ガイルが、私個人が所有する金銭目当てでよりを戻そうとしている事を察していた私は自分に殺意を向けている女の敵ガイルを仕留めるべく身構えたのですが、そこに私にとっての白馬の王子様・・・トラヴィス様が颯爽と現れて助けて下さったのです。


 今でこそジュエリーデザイナーですが、昔は戦場で活躍していただけの事はあります。


 たった一撃でトラヴィス様は女の敵ガイルを沈めてしまったのです。


 ゴリマッチョな見た目に反して繊細な心を持っているトラヴィス様は、女の敵ガイルに襲われそうになった私の事を案じて下さいました。


 昔は人妻だったとはいえ今の私は独身。


 そんなトラヴィス様に込み上げてくる愛しさを抑えきれなくなってしまった私は・・・淑女としてはしたない行為だと分かっているのに自分から抱き着いてしまっただけではなく、ずっとお慕いしていた事を告白したのです。


「ティアナ殿・・・私は幼い頃の熱病が原因で子種がないのだ。貴女のように若くて美しい素敵な女性に私のような男など相応しくない!」


「トラヴィス様・・・私も貴方と同じ。私も子供が出来にくい・・・いえ、子供を産めない身体になっているのかも知れません。私達、お似合いではありませんか?」


「オーナー・・・ヴァルゴ公爵・・・」


 従業員の言葉で、今の自分達がどこに居るのかという事に気が付いた私達の顔は・・・赤くなっていました。



 鼻が別の方向に曲がり前歯が数本折れてしまった女の敵ガイルを憲兵に引き渡した事で、この出来事は解決しました。



 その後、日を改めてトラヴィス様から告白されてお付き合いをする事になった私が愛する喜びと愛される喜び、そして女としての悦びを知る事になるのは別の話です。









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私とよりを戻したい?異世界で娼婦をしていた女に夢中になっている男などこちらから願い下げですわ! 白雪の雫 @fkdrm909

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