最強魔法使いは何故か戦士を目指す?

知恵舞桜

第1話 魔法使いじゃなく戦士になる?


「じぃちゃーん!」


「どうした、ボタン。落ち着きなさい。それと扉を壊すな」


勢いよくボタンが入ってきたため扉が木っ端微塵に粉砕した。


「ごめんなさーい。それより、これみて学校のパンフレット貰ったの!私も学校行きたい!!魔法学校は十六歳から通えるらしいじゃん!私ももうすぐ十六歳になるしいいでしょ!ね!」


パチン、と指を鳴らして扉を一瞬で治す。


「うーん、そうじゃ…………な」


パンフレットを開き魔法学科の入学金、授業料、その他諸々の金額に目が点になる。


「じゃあ……」


「駄目じゃ!!!」


大声で魔法学校に入るのを禁止する。


「どうして!いいじゃん、通わせてよ!!」


「(金が高く過ぎて無理!!そんな金はウチにはない)」


ローレルはゴホンと咳払いをして話し出す。


「ボタンよ、昔魔法使いとはどういうものがなれるか言ったのを覚えておるか?」


「強い人でしょ」


「それもそうじゃが、その強さはどんな強さが含まれているか教えたのを忘れたか?」


「……」


なんか言ってたっけ?と思い出そうと必死に過去の記憶を探るも無駄に終わる。


「魔法使いはただ魔法が強いだけでは駄目なのじゃ。権力も必要なのじゃ。どうしてかわかるか?」


「……」


「強い魔法使いは魔法を使えないものにとっては脅威なのじゃ。自分達にない力を持っておるからの」


「ねぇ、それとどうして魔法学校に通えない理由になるの」


言っていることは半分も理解していないが、通えない理由にはならないことはわかる。


「結論から言おう。この学校はそれ相応の権力をもった子供が通う。もし、そうじゃなくても後ろ盾があったりするじゃろう」


「中には何にもない子も一人くらいいるよ」


「確かにいるかもしれん。じゃがな、それは苦労する。そんなところに可愛い孫はいれられん!」


ローレルのいい分もわかるがどうしても諦めきれない。


だが、どうやっても説得できる気がしない。


そう思っていると、ローレルが続きを話し出す。


「それでもどうしても通いたいと言うなら、こっちの学科にしなさい」


そう言って、戦士学科のところを指差す。


ボタンが入りたい学校は魔法学科が有名だが、後四つ学科がある。


戦士、聖職、薬草、魔導製造がある。


何故ローレルが戦士学科に入るよう勧めたかというと金額が一番安いからだ。


一番高い魔法学科の十三分の一程度。


そこから女子は更に半分という金額。


元々通わせようと思っていた学校の三分の一程度。


戦士学科の金額を見た瞬間、絶対にここに通わせると決めた。


「えー、やだよ。私、魔法習いたい」


「魔法ならワシが教えてやる。それに魔法使いは魔法ばかりに頼る馬鹿が多いがそれではいかん!魔力切れになっても魔族に勝てるくらいにならんといけんのじゃ!」


「えー、でも、それなら魔力切れになる前に……」


「シャラップ!いいか、ボタン。さっきも言ったが、魔法学科とは選ばれた者だけが穏やかに学べるのだ。今のお主にはそれがない。まずは戦士学科で一番になれ。そうしたら、魔法学科に変更すればいい。それに、魔法学科じゃなくても魔導書は読めるじゃろ。ボタンならある程度のことは読めばできるじゃろ」


「……なるほど。わかった、そうするよ。でも、一つ聞いていい?」


「なんじゃ?」


「魔力もちが騎士学科に通ってもいいの?」


「バレんかったら問題ないじゃろ」


「そっか、なら問題ないか」


「(よかった。うちの孫馬鹿で)」


金が浮いて喜ぶ。


「入学まで後三か月ある。それまではワシが魔法を教えてやるから、入学してからは剣をしっかり学ぶのじゃぞ」


「うん、わかったよ。じぃちゃん」




「えー、まじで。戦士学科私しか女いないの?終わった、まじで終わった。五年間ぼっち確定じゃん、これ」


入学式が終わり学校の案内が終わり寮に帰り、与えられた自室に入った瞬間その場に倒れる。


「ふざけんなよ〜、あと1人くらい女いてもいいじゃん。いやだ、帰りたい。てか、もうやめたい。学校に通おうなんて思わずじぃちゃんと二人暮らし選んでればこんなことにはならなったのに」


ボタンはこれまでの人生で同世代の男と話したことが一度もない。


そのため、これからどう一緒に過ごせばいいかわからなかった。


「じぃちゃん、どうしよう。明日からちゃんと過ごせるか不安しかないよ〜」





「(まじで、なんでこんなことしてるんだろう)」


入学してから半年が経ったが、戦士学科で学ぶことがどれも理解できない。


いや、もしかしたら役にたつことなのかもしれないが、全部魔法でやればいいのにと思ってしまうことばかりだった。


心の中では文句を言いつつも一応ちゃんとやるのだが、今まで魔法しかやってこなかったボタンには戦士学科の授業は意味不明な上に過酷だった。


まぁ、それでも半年も続ければ大分体力も精神力も鍛えられた。


精神力は主に女からの嫌がらせで鍛えられたが!


半年も経てば同じ学科の男とも少しは仲良くなる。


そのせいか、女から嫌がらせされた。


陰口なんて当たり前。


呼び出され魔法でずぶ濡れにされたり、制服を隠されたりと幼稚なこともされた。


まぁ、全然へこたれなかったが。


寧ろ結構楽しんでいたところがある。


魔法で攻撃されたらこうなるのかと。


基本、魔法はローレルとしかしていなかったので、他の人の魔法がどんなのか知る機会ができたと喜んでいた。


まぁ、それでもむかつくのはむかつくのでやり返してはいた。


勿論、魔法ではなくグーパンで。


嫌がらせのお陰かボタンはどんどん戦士として強くなった。


最初は一番弱かったのに、今では学年で五番目に強い。


元々物凄い負けず嫌いなので、女達を黙らせるために体を鍛えまくったらいつの間にかそうなった。


毎日夜になると体を鍛えるため鍛錬をした。


この学校に入学した目的も忘れて、ただ戦士学科で一番強くなることを目指して。


いつものように、寝る間も惜しんで体を鍛えようと出かけたら運悪く魔族と出会ってしまった。




「大変です!教頭先生!」


「どうしたのですか?こんな夜遅くに」


もう寝ようとしていたのに起こされて不機嫌な声になる。


「それが、魔族ヘスリヒがこの付近にいるかもしれないと報告を受けました」


「な、何だと!それは本当なのか!?」


ヘスリヒとはここ最近魔法使い狩りをしていると噂の魔族だ。


一週間前にヘスリヒを倒そうと一級魔法使いが三人がかりで挑んだが全員惨い殺され方をしたと聞いた。


もし、本当にこの付近にいるなら大問題だ。


教頭は一級魔法使いだが、生徒達を守りながら勝てるわけはないとわかっている。


校長なら何とかなったかもしれないが、明日まで帰ってこない。


連絡しようにも連絡が通じないところにいる。


今いる先生達と生徒達で協力しても皆殺しにされるくらいの力の差がある。


「はい……どうしますか、教頭先生」


校長の助けは期待できないことを知っているので絶望する。


「先生を全員起こしてください。結界を張ります。校長が帰ってくるまでの間なんとか時間を稼ぎましょう」


「はい」


それしか方法はないとわかっているが、もし本当にヘスリヒがここにきたら助かる可能性はゼロに近いとわかっている。





「おい、お前ここで何をしている?こんな夜遅くに一人でいるなんて正気か?殺してくれと言っているようなものだぞ」


「(は?誰だ、こいつ。鬱陶しいな。私は忙しいんだよ。あの馬鹿女達をぎゃふんと言わせるために。どっか行けよな)」


心の中では返事をするが声には出していないので、ヘスリヒは無視されたと思い怒る。


「おい、お前よくも俺を無視したな!そんなに殺されたいのか!!」


「(うっせーな、こいつ。あっち行けよ)」


チラッとヘスリヒを見る。


「(ん?こいつ魔族か?)」


一目見ただけで魔族だとわかるも、気にせず鍛錬を続ける。


「〜っ、よっぽど俺様に殺されたいのか!いいだろ、殺してやる!!俺様をコケにした代償はたか……」


くつくぞ小娘、と続けようとしたが視界が急に反転し何が起きたか理解できず固まってしまう。


「(は?……何だ、何が起きたんだ!何で急に視界が反転した?俺は一体何をされたんだ?)」


視線を彷徨わせ辺りを見て漸く理解した。


首から上がない自分の体を見て、首を落とされたのだと。


いつ、どうやって、首を落とされたのか見えなかった。


やった人物は目の前の女だとはわかるが、何故そんなことができたのかは理解できなかった。


「うっせーよ、さつきから。いい加減黙れ、クソヤロー」


「お、お前がやったのか?」


首を落とされたことでもう直ぐ死ぬ。


体が崩壊する前にどうやったのか聞こうとする。


「は?それ以外何がある……ん、だよ…………うわあああああ、やっちまったー!!」


急いでその場から走り去る。


後ろからヘスリヒが何か叫んでいたが、  の耳には届かず何も聞けずに消滅してしまう。


「どうしよう、魔法使っちゃった」


入学前日、ローレルに絶対に魔法を使うなとあれほど注意されていたのに使ってしまった。


周りには誰もいないがやってしまったと慌ててしまう。


魔力もちが嘘ついて戦士学科に入ったとなれば大変なことになる。


最悪退学になるかもしれない。


自室に戻るや否「終わった。私の学校生活終わった。あのクソヤローのせいで全部終わった。明日朝一で退学を言われるんだ」と太陽が昇るまでずっと同じ言葉を繰り返し呟いた。




「これは、一体どういうことじゃ」


教頭から連絡きて急いで学校へと戻り、念の為学校周辺を確認していたらヘスリヒの魔力の痕跡を見つけた。


詳しく調べると死んだことがわかった。


校長以外で殺せる者はいないはずなのに、昨日の時点では誰もがそう思っていた。


「申し訳ありません。私にも何がどうなっているのか……」


校長の問いに答えられず謝罪する。


「魔力を感じなかった、魔法使いではない者が殺したのか。だが、ヘスリヒを殺せる者など限られる。一体誰が?」


「も、もしかしたら、名の知られていない者が偶々倒したのかもしれません」


「確かに、その可能性もあるが……」


だが、どうも引っかかる。


校長はもう一度地面を触りヘスリヒ以外の魔力の粒子が残っていないか確認する。


結界は同じヘスリヒ以外感じられない。


「校長?」


「いや、なんでもない。気のせいだろ。とりあえず、ヘスリヒが死んだことを魔法連盟に報告しといてくれ」


「わかりました」


教頭は急いで自室に戻りヘスリヒのことを報告する。


「もし魔法だったら、そんなことできるのはあいつくらいしか……いや、そんなはずはない。きっと勘違いじゃ」


校長は今頭によぎったことを黒く塗り潰す。


もし、それが本当だったとしたら姿を隠す理由などないはずだから。





「……最悪だ。一睡もできなった」


太陽が昇り学校に行く準備をしないと行けなくなる。


「ああ、憂鬱だな。退学を宣告されるためだけにいかないといけないなんて。じぃちゃん、ごめんよ。じいちゃん不孝な孫で」


制服をきて重い足取りで学校に向かう。



「おい、聞いたかよ!ヘスリヒが倒されたって!!」


「ああ、聞いたよ!起きてすぐテレビで流れてたからな!」


「一体誰がヘスリヒを倒したんだ?」


「そりゃあ、一級魔法使いで駄目だったならその上の大魔導師の誰かだろ」


「そんなんわかってるさ、その誰が倒したかって聞いてんだよ」


「何だよ、紛らわしい言い方するなよ。うーん、俺は……」



「(はぁ、今日はいつにも増してうるさいな。何で今日に限ってこんなにテンション高いんだ。私はこんなにテンション低いのに……)」


周りの声がうるさいとは思うものの、退学のことで頭がいっぱいで内容までは入ってこない。


教室に入って席につき、いつ呼び出されるか考えると気が気でなくなる。


そんな時間を後どれだけ待てばいいのかと思いながら過ごしていると、気がつけば一日が終わっていた。


「(……これって、もしかして私が魔力もちだってバレてない!?本当に!まじで!」


「やったーー」


これで学校生活を続けられると思うと嬉しくてベットの上を飛び回る。


「はぁ、これでじいちゃんにも迷惑かけずに済む。なんか、安心したら眠くなってきた……」


意識を手放す前に昨日と今日の自主トレをやっていないことに気づくも、眠気に勝てず明日からやればいいかと言い聞かせ眠りにつく。

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