第7話 逮捕

 今日は、美花を殺害した女性が5年の刑期を終えて出所する日ね。ごめんね。私、犯人を間違えちゃったみたい。でも、大丈夫、私が、この女を処罰してあげるから。5年で解放されるなんて信じられない。一生、償ってもらうわ。


 5年と短い刑期になったのは、美花がお金を返さないことも一因だったらしい。だからって人を殺していいわけないでしょ。私も、人のこと言えないけど。


 まず、この女をつけて、どのような生活をするか情報を集めることにした。この女は、渋谷にある実家に戻って、2週間ぐらい家にいてから、新宿でホステスを始めたようだった。


 しばらくは、静かにしていたようだったけど、1ヶ月過ぎたころから、渋谷の繁華街に出かけて飲むことが増えていった。さすがに逮捕された時の友達とは会えないと思うから学生時代の友達だと思うけど。


 今日は、代々木の居酒屋に男性と一緒に入って行ったのをみて、私も1人客として入店し、会話を聞いてみることにした。


「お前、刑務所にいたのは、金を取られて人を殺したからだって。いくら取られたんだ。」

「300万円よ。ひどいくない。返してって毎日言ったんだけど、無視されて、多分、初めから返す気がなかったのよ。」

「ひどいやつだな。殺されて当然じゃないか。それで、お前が5年も刑務所にいたのはおかしいだろう。」

「そうなのよ。あの女のせいで、私の20代の大部分がなくなっちゃった。一番、綺麗な時間がなくなっちゃたのよ。私こそ、まだ、あの女を恨んでるんだから。死んじゃったからどうしょうもないけど、もっと復讐したいぐらい。」

「そうだよな。あの女の親でも殺すか。」

「もう、刑務所は嫌だから、週刊誌にでも、どんなひどい女だったか情報提供して、世の中に流してもらうっていうのもいいかも。」

「そんなんで、復讐になるのか。俺に言ってくれれば、殺ってやるぞ。」

「まあいいわ。あの女の親は、私のことを憎んでたみたいだけど、金返せと言ったら、300万円はきっかり返してくれたから。許してあげるわ。」

「そうか。じゃあ、時間は戻らないけど、お金自体は損しなかったんじゃん。今日は飲もうぜ。」

「そうね。私には裕司が心の支えだもん。これからも、ずっと私の横にいてね。近いうちに、私の親が買ってくれたマンションにおいでよ。もちろん、食費とか光熱費とかは全部私が持つからさ。裕司は、ミュージシャンとして成功することに専念していればいいのよ。」

「おお、行くよ。日中は歌の練習をして、お前が帰ってくる朝3時ごろには家で待ってるから。毎日、可愛がってやるよ。」

「嬉しいな。今週末にでも、引っ越してきて。楽しみ。裕司は、ミュージシャンとして絶対に成功するって。それまで、私が支えるから、頑張って。」

「ああ、絶対にのしあがってやる。」


 だめだ。この女を放置しておいたら、美花の親には被害は及ばなそうだけど、美花の尊厳に傷がつく。この女も殺さないと。どうすれば、見つからずに殺せるの。多分、私のことを知らないことは優位になるわね。


 電車のホームで突き飛ばしたり、交差点で突き飛ばして、電車とか自動車に轢き殺されて自殺に見せかけるのはどう? でも、今どき監視カメラとかあるし、難しいかな。5年前に、刑事からも監視カメラの写真で責められたし。


 居酒屋の会話の通り、数日後、親が用意したマンションに彼氏が転がり込んできた。そして数日、様子を見ていると、まだ涼しいので、夜は、窓を開けて寝ていることに気づいた。


 私は、朝4時ごろ、二人が寝た後に、マンションの廊下側の窓にある網戸をゆっくり開けて、自分の車から汲み上げたガソリンを瓶から流し入れ、マッチで火を入れた。激しく燃え上がり、キッチンと玄関は火の海になった。


 でも、ここは4階だから、窓から飛び降りれない。これで、あの女が好きな彼氏もあの女から奪える。焼け死ぬがいい。もしかしたら煙を吸って、火事だって知らないうちに死んじゃうかもしれない。でも、寝たばかりだから、起きて、火を消そうともがき、火が体に移って苦しむんじゃないかな。さあ、私はここから去ろう。


 私は、エレベータに向かおうとすると、後ろから腕を掴まれ、床に体を押さえつけられた。振り返ると、あの時の刑事の顔があった。どうして?

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