第2話 精神病棟

「今回は、2回目ですね。私も、この仕事、長いもので、いろいろな方のお話を聞いてきたんですが、あなたは、すごく遠くを見てる気がします。」

「そんなことないわよ。むしろ、愛した人との幸せの日々のことを、ずっと、思っている。」

「そうなんですか。とっても、大切な人だったんですね。そんな人を殺害した犯罪者を憎む気持ちはわかります。ただ、だからといって、人を殺害してはダメなんです。」


 私って変わっているのかしら。再度、私がやったことを振り返ってみたけど、やっぱり、人を殺した人は殺されて、どうして悪いかわからない。


 もともと、人は、相手に対して敬意を払い、相手がやりたいことを尊重して対応すべきで、それができていれば問題なく進むはず。愛した人と私の関係は、そんな関係だった。この理念が重要なのよ。誰か、それを無視して、自分がやりたいことを始めるから、問題とか戦争とかが起こるの。


 だから、モグラ叩きのように、個々に起こる事件に対処するのではなく、さっきの理念を徹底し、その理念に沿って進めない人を排除すべきだと思う。私は、刑務所を出たら、世界の法律の仕組みを変えるために人生を捧げるわ。


 こういう理念を理解できる人は少ないでしょうね。今、私と話してる目の前のカウンセラーも無理だと思う。


「私は、単に1つの復讐だけについて話してるんじゃないんです。そもそも、人を殺害するような人が、放置されてるような世の中でいいのかと思ってるんです。」

「だから、警察とかがやってるじゃないですか。」

「今の警察とかでは、悪い人がそのままになっているなんていっぱいあるじゃないですか。また、底辺の犯罪ばっかり捕まえて、何億もの裏金とかを扱っている巨悪には手を出せていないとか。」

「今の警察、検察にも限界があるんですよ。」

「そういう言い訳ばかりしてるから、世の中は良くならないのよ。」


 私は、もともとは愛した人のために人を殺したけど、結果としては、より良い社会を作るために動いたんだと思う。やっぱり、正義のために活動する人は、出る杭は打たれるというか、世の中から嫌われるの。


 そんなことを考えていたら、急に、カウンセラーが話しを変えてきたの。


「ところで、あなたは間違って、真犯人とは全く関係のない、無実の人を殺害していますよね。階段から突き落として。つまり、あなたは愛した人を殺したと思って殺害したけど、被害者には、全く、そのような事実はなかったと。」

「それは、悪かったと反省してる。分かってから、その人のお墓にお詫びに行ったけど、それだけでは許されないということはわかってる。」

「そういう勘違いがあるから、複数の人の目で事実認定をしていく必要があるんです。それは、法律専門のあなたならわかるでしょう。」


 それは、私は何も言えない。確かに、愛した人を殺害したと思える周辺情報はいっぱいあった。でも、真犯人が自供し、その人は何もしていないことが明確になった。


 その人にも、家族や恋人がいたかもしれない。そして、その人の死によって悲しんだんだろうと思う。そういう方々からの批判、復讐は負わなければと思う。私の責任。


 私は、決して、自分の行為を正当化しようとは思っていない。だから、復讐の負の連鎖もない。愛した人を本当に殺害した犯人が死亡したことによって、その家族などが私を恨むのは筋違い。その犯人が悪い。


「しかも、真犯人を殺害する際に、あなたの愛した人の殺害と全く関係のない、真犯人の彼氏も巻き込んで殺害してるじゃないですか。これも、あなたの復讐とは関係ないですよね。」


 そうだ。真犯人の女性と一緒に部屋にいた彼氏も、その女性の部屋を放火した時に一緒にいて、その女性と一緒に焼け死んだと聞いている。


 そんな女性と付き合うんだから、社会に害を与える人種とは思うけど、日頃から何をしてる人なのかは知らない。だから、死に値する人なのかも知らない。それなのに、真犯人の女性の殺害に巻き込んでしまったのは、今から思うと、行き過ぎだった。


「そうね。その方にも、悪いことをしたわ。それで、彼の親とか悲しまれているとすれば、私の責任。言い逃れはしない。」


 私は罪な女だということは、よく分かってる。だから、刑務所にいることも当然だと思ってる。でも、愛した人を殺害した犯人を許せないという気持ちは変わってないし、その女を殺害したことは、よかったと思ってる。


 これから、12年もの長期間、刑務所にいることになり、出所する時には、どんな世の中になっているかわからないし、私のことを知っている人は、誰もいなくなっていると思う。


 それだけの長期間、私は、愛した人のこと、ずっと想い続けるの。


 でも、私は過去に生きているだけだったけど、周りから見た私の目つきは、日に日に鋭くなり、睨む形相は異様なものだと言われた。


 そして、やっと刑期が終わったと思ったら、精神に異常をきたしているとして、精神病棟に送られることになった。そして、今も、寝てる時も、起きてる時も、白い布で手や足を縛られている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る